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青薔薇騎士 イザーク

ヴェンデルガルトの危機

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 バウンドの群れの残りは、少し離れた所で様子を窺っていたのかもしれない。昼間イザークたちが怪我をした時の血の匂いを追い、都まで襲いに来たのだろう。歩哨ほしょうが怪我を負っていたが、バウンドの姿は見えなかった。ここを突破されたのは、かなり痛い。バウンドは飛ぶ高さもあり、木に登るので城の二階あたりは危険だ。
「二階の窓を全て封じろ! 騎士団は、外に繋がる出入り口を全て守れ!」
 松明の明かりが城の前を明るく照らす中、カールの声が大きく響いた。そのカールの元に、イザークは駆け寄った。
「数は?」
「はっきりとは分からない。最初に門を越えてきたのは五匹と確認している。歩哨が倒れて篝火かがりびも倒され、パニックになったそうだ」
 剣を抜いているカールは、必要な情報だけを伝える。賢いイザークにはそれだけで十分だと、カールは知っている。

「ギルベルトとランドルフが南に向かっているから、十日程は帰って来られない。白薔薇騎士団はお前が、紫薔薇騎士団は俺が指揮する。俺達が右回りに行くから、お前たちは左回りで頼む」
 そう言うと、黄薔薇騎士団とカールは右手に向かい走って行った。留守を任された残りの紫薔薇騎士団は、正面の出入り口の守備を任されたようだ。
「残りの白薔薇騎士団は、紫薔薇騎士団と共に正門を任せる。青薔薇騎士団、行くぞ!」

「護衛に参りました、ヴェンデルガルト様」
 ドアがノックされて、開けると赤薔薇騎士団員が三人立っていた。
「ジークハルト様より命を受けて、我々がヴェンデルガルト様の護衛に参りました」
「どうぞ、中へ」
 カリーナが三人を室内に案内する。一人はドア付近に立ち、一人は窓際。もう一人は椅子に座るヴェンデルガルトの横に立った。
「あの……どのような状況でしょうか?」
 ヴェンデルガルトが尋ねると、傍らの騎士は安心させるように小さく笑いかけた。
「カール様とイザーク様が、討伐に向かっています。黄薔薇騎士団と青薔薇騎士団は、魔獣討伐にかけては騎士団が誇る精鋭揃いです。ご安心を」
「カール様と、イザーク様が……」
 そう言われても、ヴェンデルガルトは不安そうにビルギットに視線を向ける。ビルギットは、彼女を安心させるように優しく彼女の手を握った。
「お二人なら、きっと大丈夫です。信じましょう、ヴェンデルガルト様」

 その時、窓の外から騒がしい声が聞こえた。どうやら、魔獣を追っている騎士たちの声の様だった。しかし次第に大きな声が上がり、獣の唸り声が聞こえた。
「この下で戦ってるのか?」
 窓側にいた騎士が、僅かに窓を開いて外を覗いた。

「わっ!」
 途端、その騎士が大きな声を上げるのと同時に、窓が割られる音が部屋に響いた。部屋にいた全員の動きが、止まる。
「危ない、部屋に入って来た!」
「ヴェンデルガルト様、こちらに!」
「駄目です、動かないで!」
 威嚇する様に唸り声を上げるたてがみがある魔獣は、こちらの様子を窺いながら今にも飛び掛かってきそうだ。それで我に返って動こうとするが、一人の騎士が止めた。
「下手に動けば、飛び掛かってくるかもしれません」
 ビルギットはゆっくりと、庇う様にヴェンデルガルトを抱き締めた。
「……まさか、飛び込んで来るとは……」
 魔獣は、下で戦った時の自分の血や騎士の血が付いている口元を大きな舌で舐めた。思っているより、大きな身体だ。下でも、「部屋に入ったぞ!」と声が上がる。こちらから応援を呼ばなくても。援軍は来てくれそうだ。

「ヴェー! すぐに行く!」
 下から、イザークの声が響いた。その声に一番ほっとしたのは、赤薔薇騎士団だ。彼らは皇族の護衛担当だが、主に人を相手にすることに長けている。魔獣相手に三人では、自信がなかったのだろう。しかも一人は、傷付いている。
「青薔薇騎士団が来るまで、耐えろ!」
 窓際にいた騎士が、魔獣の爪で裂かれガラスで傷を負っているのに耐えながら立ち上がった。
治療ベハンドルング
「――傷が! ヴェンデルガルト様、感謝します」
 ヴェンデルガルトは、自分を抱き締めるビルギットの腕の中からその傷付いた騎士に回復魔法をかける。弱めに調節したので、騎士が倒れることはなかった。傷が塞がり痛みがなくなったその騎士は、剣を握りヴェンデルガルトに礼を述べる。

「危ない!」

 その時、魔獣がヴェンデルガルトの前で剣を持つ騎士に飛び掛かった。
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