26 / 125
青薔薇騎士 イザーク
僕の光
しおりを挟む
「やあ、ヴェー! 君と食事が出来るなんて、嬉しいよ」
部屋を訪れたイザークは、綺麗な顔をしているのに微笑むのが何処か不器用で、笑顔を向けられるとひやりとする。「プレゼントだよ」と渡した箱には、秋に咲くダリエの花を刺繍したハンカチが入っていた。ダリエは、亡きバッハシュタイン王国の国花だ。刺繡が使われているのも、懐かしいものだ。
「素敵なプレゼント、有難うございます。どうぞ、隣の部屋で準備しています」
ヴェンデルガルトが案内をしようとすると、イザークはすっと手を伸ばしてヴェンデルガルトの手を握った。
「城内も、用心しないとね」
カールが見たらまた怒り出すだろうと思いながら、カリーナは隣の部屋を開けた。テーブルは端と端で向かい合う様にセッティングされていたが、イザークは細い顎に指をあて僅かに首を傾げた。
「席、変えてくれないかな? 僕の席は、ヴェーのすぐ横でいい」
「しかし、狭くなってしまい……」
「大丈夫。グラスを倒したりして、君たちの仕事を増やす気はないから」
やんわり断ろうとしたカリーナの言葉を遮り、イザークはそう言い切った。結局席を大幅に変えてヴェンデルガルトとイザークは横並びに座った。
夕食は、イザークの要望を入れてある。食前酒は、メロのお酒。ザビーのテリーヌとバハードのサラダ。フラックのコンフィ、エッカのケーキが揃えられた。
「まあ、これスカーかしら?」
「これは、スカーから進化して新しい魚になったフラックという別の魚だよ。スカーはもう絶滅してしまったから、食べたくなったらフラックを頼むといいね」
イザークはヴェンデルガルトが食事をする様子をにこにこと眺めていて、彼女の知らないものがあると丁寧に説明をしていた。
「イザーク様、私の治癒魔法はちゃんと効きました?」
昼過ぎの怪我を思い出して、慌ててヴェンデルガルトはイザークに向き直った。彼女の顔を正面から見つめると、イザークはまたぎこちない笑みを浮かべる。
「勿論だよ。君の魔法は暖かくて輝いていて、とても気持ちのいいものだった――傷跡が気になるなら、僕の身体を見る?」
「だ、大丈夫ですわ! 怪我が治ったのなら、安心しました」
ここで騎士服をまた脱ぎそうなイザークが立ち上がりそうになるのを、ヴェンデルガルトは慌てて手で彼を押さえた。ふふふ、と不気味な笑みをイザークは浮かべた。そうして、ヴェンデルガルトの指に自分の指を絡めて握る。
「あの……イザーク様は、私を知っているのですか?」
「それはどういう事かな? 可愛いヴェー?」
薔薇騎士団で一番線が細い体躯で年齢が近いだろう彼だが、やはり剣を握る手は固くて大きい。
「私の好物や、私が眠る頃の風習などをよくご存じのようで――書物で学ばれたのですか?」
「君が卵から姿を現した時に、その金の髪を見てから学んだよ。魔術には興味があったし、どんな魔法が使えるのか気になってね。でも、カールとダンスをしたりランドルフと昼寝したり、ギルベルトが君に求婚したいという姿を見るのは――正直、面白くないね」
それを聞いて、ヴェンデルガルトは驚いたような顔になる。目が覚めてから、イザークはヴェンデルガルトを見張っていたというニュアンスの言葉だったからだ。
「君の事は、僕が一番知っているのに――君が産まれた時は『青い瞳』だった事も知っているよ?」
指を絡めて握るイザークの指の力が強くなる。ビルギットは、慌ててヴェンデルガルトの傍らに寄り添う。
「古龍から魔力を貰って、金色の瞳になったんだよね? ――コンスタンティン。君がこの世に産まれてくるのをずっと待っていた、最後の龍」
ヴェンデルガルトもビルギットも、驚きで表情がなくなる。それは、古龍と一緒に過ごした二年で知った――ヴェンデルガルトとビルギットしか知らない事だった。
「心配しないで、僕は君たちの敵じゃない。むしろ、ヴェー。僕は君を、愛している。僕がこの退屈な世界で生きる、たった一筋の光なんだ」
指を絡めていない方の腕で、イザークはヴェンデルガルトの柔らかい髪を撫でた。不安そうに、ヴェンデルガルトは震えながら口を開いた。
「――イザーク様……もしかしてあなたは、コンスタンティン……なの?」
「残念ながら違うけど、そうありたいと思っているよ。ねぇ、ヴェー。今夜は月が綺麗だ。少し眺めに行かないか?」
イザークが何をどこまで知っているのか気になるヴェンデルガルトには、断る言葉はなかった。
部屋を訪れたイザークは、綺麗な顔をしているのに微笑むのが何処か不器用で、笑顔を向けられるとひやりとする。「プレゼントだよ」と渡した箱には、秋に咲くダリエの花を刺繍したハンカチが入っていた。ダリエは、亡きバッハシュタイン王国の国花だ。刺繡が使われているのも、懐かしいものだ。
「素敵なプレゼント、有難うございます。どうぞ、隣の部屋で準備しています」
ヴェンデルガルトが案内をしようとすると、イザークはすっと手を伸ばしてヴェンデルガルトの手を握った。
「城内も、用心しないとね」
カールが見たらまた怒り出すだろうと思いながら、カリーナは隣の部屋を開けた。テーブルは端と端で向かい合う様にセッティングされていたが、イザークは細い顎に指をあて僅かに首を傾げた。
「席、変えてくれないかな? 僕の席は、ヴェーのすぐ横でいい」
「しかし、狭くなってしまい……」
「大丈夫。グラスを倒したりして、君たちの仕事を増やす気はないから」
やんわり断ろうとしたカリーナの言葉を遮り、イザークはそう言い切った。結局席を大幅に変えてヴェンデルガルトとイザークは横並びに座った。
夕食は、イザークの要望を入れてある。食前酒は、メロのお酒。ザビーのテリーヌとバハードのサラダ。フラックのコンフィ、エッカのケーキが揃えられた。
「まあ、これスカーかしら?」
「これは、スカーから進化して新しい魚になったフラックという別の魚だよ。スカーはもう絶滅してしまったから、食べたくなったらフラックを頼むといいね」
イザークはヴェンデルガルトが食事をする様子をにこにこと眺めていて、彼女の知らないものがあると丁寧に説明をしていた。
「イザーク様、私の治癒魔法はちゃんと効きました?」
昼過ぎの怪我を思い出して、慌ててヴェンデルガルトはイザークに向き直った。彼女の顔を正面から見つめると、イザークはまたぎこちない笑みを浮かべる。
「勿論だよ。君の魔法は暖かくて輝いていて、とても気持ちのいいものだった――傷跡が気になるなら、僕の身体を見る?」
「だ、大丈夫ですわ! 怪我が治ったのなら、安心しました」
ここで騎士服をまた脱ぎそうなイザークが立ち上がりそうになるのを、ヴェンデルガルトは慌てて手で彼を押さえた。ふふふ、と不気味な笑みをイザークは浮かべた。そうして、ヴェンデルガルトの指に自分の指を絡めて握る。
「あの……イザーク様は、私を知っているのですか?」
「それはどういう事かな? 可愛いヴェー?」
薔薇騎士団で一番線が細い体躯で年齢が近いだろう彼だが、やはり剣を握る手は固くて大きい。
「私の好物や、私が眠る頃の風習などをよくご存じのようで――書物で学ばれたのですか?」
「君が卵から姿を現した時に、その金の髪を見てから学んだよ。魔術には興味があったし、どんな魔法が使えるのか気になってね。でも、カールとダンスをしたりランドルフと昼寝したり、ギルベルトが君に求婚したいという姿を見るのは――正直、面白くないね」
それを聞いて、ヴェンデルガルトは驚いたような顔になる。目が覚めてから、イザークはヴェンデルガルトを見張っていたというニュアンスの言葉だったからだ。
「君の事は、僕が一番知っているのに――君が産まれた時は『青い瞳』だった事も知っているよ?」
指を絡めて握るイザークの指の力が強くなる。ビルギットは、慌ててヴェンデルガルトの傍らに寄り添う。
「古龍から魔力を貰って、金色の瞳になったんだよね? ――コンスタンティン。君がこの世に産まれてくるのをずっと待っていた、最後の龍」
ヴェンデルガルトもビルギットも、驚きで表情がなくなる。それは、古龍と一緒に過ごした二年で知った――ヴェンデルガルトとビルギットしか知らない事だった。
「心配しないで、僕は君たちの敵じゃない。むしろ、ヴェー。僕は君を、愛している。僕がこの退屈な世界で生きる、たった一筋の光なんだ」
指を絡めていない方の腕で、イザークはヴェンデルガルトの柔らかい髪を撫でた。不安そうに、ヴェンデルガルトは震えながら口を開いた。
「――イザーク様……もしかしてあなたは、コンスタンティン……なの?」
「残念ながら違うけど、そうありたいと思っているよ。ねぇ、ヴェー。今夜は月が綺麗だ。少し眺めに行かないか?」
イザークが何をどこまで知っているのか気になるヴェンデルガルトには、断る言葉はなかった。
0
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
世界のピンチが救われるまで本能に従ってはいけません!!〜少年聖女と獣人騎士の攻防戦〜
アマンダ
恋愛
「世界を救ってほしい!でも女ってバレないで!!」
え?どういうこと!?オカマな女神からの無茶ぶりに応え、男の子のフリをして―――異世界転移をしたミコト。頼れる愉快な仲間たちと共に世界を救う7つの至宝探しの旅へ…ってなんかお仲間の獣人騎士様がどんどん過保護になっていくのですが!?
“運命の番い”を求めてるんでしょ?ひと目見たらすぐにわかるんでしょ?じゃあ番いじゃない私に構わないで!そんなに優しくしないでください!!
全力で逃げようとする聖女vs本能に従い追いかける騎士の攻防!運命のいたずらに負けることなく世界を救えるのか…!?
運命の番いを探し求めてる獣人騎士様を好きになっちゃった女の子と、番いじゃない&恋愛対象でもないはずの少年に手を出したくて仕方がない!!獣人騎士の、理性と本能の間で揺れ動くハイテンションラブコメディ!!
7/24より、第4章 海の都編 開始です!
他サイト様でも連載しています。
田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。
少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。
この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 週間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 月間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 四半期ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 年間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 総合日間 6位獲得!
小説家になろう 総合週間 7位獲得!
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?
イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える――
「ふしだら」と汚名を着せられた母。
その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。
歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。
――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語――
旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません
他サイトにも投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる