21 / 125
白薔薇騎士 ギルベルト
眩しい光と、聖女
しおりを挟む
その日は、ギルベルトは夕食前にヴェンデルガルトを部屋に連れて帰った。ランドルフが連れ歩いていただろうから、カールや付き添いのメイドが心配していると思ったのだ。
「明日、ヴェンデルガルト様に目を治して頂く事にしました。カール、すみませんが明日は私がヴェンデルガルト様と一緒にいます」
ほっとした様にヴェンデルガルトを迎えに来たカールとビルギットとカリーナだったが、ギルベルトのその言葉にカールはガッカリと肩を落とした。だが、目を治すという言葉には、素直に喜んだ。ビルギットは、「ヴェンデルガルト様なら、大丈夫です」と、どこか誇らしげだった。
「分かったよ。明日の朝食が終わったら、でいいのかな? そう言えば、ランドルフはどうしたんだ?」
「隣国と揉めているバーチュ王国の王子と使者が見えられたので、護衛に向かいました。話しの結果次第では、数日後に陛下の名代で私がバーチュ王国に向かう事になるかもしれません。今のうちに目が見えるようになれば、色々と助かると思います」
「ギルベルト様。治癒魔法をおかけした時、もしかしたら魔力が強すぎて眠ってしまうかもしれません。念の為に、治療はギルベルト様が横になれる場所、その間ギルベルト様を護衛する方を用意して頂いた方が安心だと思います」
ヴェンデルガルトの言葉に「分かりました」と返事をすると、ギルベルトは執務室へと戻った。
「ヴェンデルガルト様、起きられてもう三人の薔薇騎士様にお会いしたんですね」
カリーナは「流石です」と笑い、食事を運ぶ用意をした。ビルギットも、カリーナに付いて行く。
「なんか、ヴェンデルガルト様とは夕食と朝食の時間しか一緒にいられませんね。あなたの護衛は、俺なのに」
少し拗ねたようなカールの言葉に、ヴェンデルガルトは楽しそうにクスクスと笑い、彼の手を取り夕食の席に着いた。
次の日の朝食の後、白薔薇騎士団副団長のエルマーがヴェンデルガルトを迎えに来た。白薔薇騎士団の仮眠室で、ギルベルトは彼女を待っていた。少し緊張した空気を感じる。
「大丈夫です、落ち着いて下さいね」
ヴェンデルガルトはエルマーを部屋の外で待たせると、ギルベルトをベッドに横に眠らせて自分は傍らの椅子に座り、しっかりと彼の手を握った。
「治療」
ヴェンデルガルトがそう呪文を呟くと、ヴェンデルガルトの瞳が淡く輝き首元のネックレスが光った。そうして、温かくて優しい『何か』がギルベルトの身体を優しく包む。
――光……?
見えない瞳が眩しく思うほどの、輝く光が自分を包んでいる気がする。そうして、幼い日のジークハルトとランドルフ、そして父や母の姿が自分を通り越して走って消えた。
そうして、ギルベルトの意識が途絶えた。
「……、っ、……私、は……」
ふと意識が戻り、ギルベルトは自分が何をしていたかすぐには思い出せずにいた。だが、横になったままで目元を覆っている包帯の隙間から光が見えて、ドキリとした。
「目が覚めました? ギルベルト様。そんなに時間は立っていませんよ」
心地よく聞こえる声は、ヴェンデルガルトのものだ。彼女はずっとギルベルトの手を握っていたようだ。その手を解くと、ヴェンデルガルトはゆっくりとギルベルトの包帯を解く。
「久し振りに見る光景なので、眩しく思われるかもしれません。ゆっくり瞬きをして、目を馴染ませてくださいね」
優しい声と共に、包帯が全て解かれた。
ドキドキとしながら、ギルベルトはゆっくり瞳を開いた――灰色の瞳に、部屋が見えた。十年近く見えなかった光景が、目の前に広がっているのだ。信じられない思いで、彼はぼんやりと部屋の中を見た。
「大丈夫です?」
心配そうな声音に視線を向けると、眩しい金の髪に美しい金の瞳の可憐な少女が、自分をじっと見ていた。
想像していた通りの、可愛らしい――愛おしい女性だった。
「改めまして――初めまして、ヴェンデルガルト王女」
ギルベルトは腕を伸ばすと、華奢なヴェンデルガルトを抱き締めた。命の恩人であり、愛すべき人――。
「無事見えるようになったのですね――初めまして、ギルベルト様。光の世界に、おかえりなさい」
大きな背中を抱き返すヴェンデルガルトからは、花のような甘い香りと陽の光の様な温かなものを感じた。
――この人と、生きていきたい。
多くを望まないギルベルトの人生の中で、唯一の光の少女。
「あなたは、本当に――聖女です。私のこれからの人生は、あなたを護る騎士です。あなたを護らせてください」
それは、ギルベルトの心の声そのものだった。
「明日、ヴェンデルガルト様に目を治して頂く事にしました。カール、すみませんが明日は私がヴェンデルガルト様と一緒にいます」
ほっとした様にヴェンデルガルトを迎えに来たカールとビルギットとカリーナだったが、ギルベルトのその言葉にカールはガッカリと肩を落とした。だが、目を治すという言葉には、素直に喜んだ。ビルギットは、「ヴェンデルガルト様なら、大丈夫です」と、どこか誇らしげだった。
「分かったよ。明日の朝食が終わったら、でいいのかな? そう言えば、ランドルフはどうしたんだ?」
「隣国と揉めているバーチュ王国の王子と使者が見えられたので、護衛に向かいました。話しの結果次第では、数日後に陛下の名代で私がバーチュ王国に向かう事になるかもしれません。今のうちに目が見えるようになれば、色々と助かると思います」
「ギルベルト様。治癒魔法をおかけした時、もしかしたら魔力が強すぎて眠ってしまうかもしれません。念の為に、治療はギルベルト様が横になれる場所、その間ギルベルト様を護衛する方を用意して頂いた方が安心だと思います」
ヴェンデルガルトの言葉に「分かりました」と返事をすると、ギルベルトは執務室へと戻った。
「ヴェンデルガルト様、起きられてもう三人の薔薇騎士様にお会いしたんですね」
カリーナは「流石です」と笑い、食事を運ぶ用意をした。ビルギットも、カリーナに付いて行く。
「なんか、ヴェンデルガルト様とは夕食と朝食の時間しか一緒にいられませんね。あなたの護衛は、俺なのに」
少し拗ねたようなカールの言葉に、ヴェンデルガルトは楽しそうにクスクスと笑い、彼の手を取り夕食の席に着いた。
次の日の朝食の後、白薔薇騎士団副団長のエルマーがヴェンデルガルトを迎えに来た。白薔薇騎士団の仮眠室で、ギルベルトは彼女を待っていた。少し緊張した空気を感じる。
「大丈夫です、落ち着いて下さいね」
ヴェンデルガルトはエルマーを部屋の外で待たせると、ギルベルトをベッドに横に眠らせて自分は傍らの椅子に座り、しっかりと彼の手を握った。
「治療」
ヴェンデルガルトがそう呪文を呟くと、ヴェンデルガルトの瞳が淡く輝き首元のネックレスが光った。そうして、温かくて優しい『何か』がギルベルトの身体を優しく包む。
――光……?
見えない瞳が眩しく思うほどの、輝く光が自分を包んでいる気がする。そうして、幼い日のジークハルトとランドルフ、そして父や母の姿が自分を通り越して走って消えた。
そうして、ギルベルトの意識が途絶えた。
「……、っ、……私、は……」
ふと意識が戻り、ギルベルトは自分が何をしていたかすぐには思い出せずにいた。だが、横になったままで目元を覆っている包帯の隙間から光が見えて、ドキリとした。
「目が覚めました? ギルベルト様。そんなに時間は立っていませんよ」
心地よく聞こえる声は、ヴェンデルガルトのものだ。彼女はずっとギルベルトの手を握っていたようだ。その手を解くと、ヴェンデルガルトはゆっくりとギルベルトの包帯を解く。
「久し振りに見る光景なので、眩しく思われるかもしれません。ゆっくり瞬きをして、目を馴染ませてくださいね」
優しい声と共に、包帯が全て解かれた。
ドキドキとしながら、ギルベルトはゆっくり瞳を開いた――灰色の瞳に、部屋が見えた。十年近く見えなかった光景が、目の前に広がっているのだ。信じられない思いで、彼はぼんやりと部屋の中を見た。
「大丈夫です?」
心配そうな声音に視線を向けると、眩しい金の髪に美しい金の瞳の可憐な少女が、自分をじっと見ていた。
想像していた通りの、可愛らしい――愛おしい女性だった。
「改めまして――初めまして、ヴェンデルガルト王女」
ギルベルトは腕を伸ばすと、華奢なヴェンデルガルトを抱き締めた。命の恩人であり、愛すべき人――。
「無事見えるようになったのですね――初めまして、ギルベルト様。光の世界に、おかえりなさい」
大きな背中を抱き返すヴェンデルガルトからは、花のような甘い香りと陽の光の様な温かなものを感じた。
――この人と、生きていきたい。
多くを望まないギルベルトの人生の中で、唯一の光の少女。
「あなたは、本当に――聖女です。私のこれからの人生は、あなたを護る騎士です。あなたを護らせてください」
それは、ギルベルトの心の声そのものだった。
0
お気に入りに追加
945
あなたにおすすめの小説
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる