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白薔薇騎士 ギルベルト
あなたに似ているの
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「カール様にはドレスを送って頂いて、流行を教えて頂きました。ランドルフ様とギルベルト様には、食べ物を。この国の騎士の方は、皆さん優しいのですね」
「みんな、ではありませんよ。中には、下心や良くない心を隠してあなたに接する人物が現れるかもしれません。一度は、相手を疑ってくださいね――それが、誰であろうと」
ギルベルトは、彼女が誰に対しても優しく親し気に寄り添うのを、少し心配していた。元は、第三王女という身分だ。世間知らずな所があるのだろう。実際、カールやランドルフを虜にしたのは、彼女の人柄に違いない。古龍すら手懐けたのは、彼女が無垢で無害であるからだ。
あどけなく優しく、自然に甘える事が出来るのでそれに惹かれるのだ。地位や名誉、金などを望んでいないから、他の『浅ましい』女性とは違う。返って、王族であり治癒魔法が使える彼女を狙う『浅ましい男』がこれから出てくるだろう。
もし彼女を王族の一員として迎え入れるなら――婚約者が決まったばかりの第一皇子であるジークハルト以外の、独身である残り四人の薔薇騎士団団長の誰かと婚姻するかもしれない。
それは彼女の幸せとは関係なく、皇国の判断だ。そう考えると古龍と暮らしていた方が、彼女にとって幸福だったかもしれない。
ギルベルトは目が見えない分、声音や雰囲気で人を探る癖がついていた。今自分の後ろ盾となる人物がいない事を、ヴェンデルガルトは考えもしていないだろう。カールやランドルフと親しくなったのも、後ろ盾を作る為ではない。彼女が仲良くなりたかったから、それだけだ。だから今ギルベルトは、自分もヴェンデルガルトの駒になってみようかと考えていた。
城内の権力争いに疲れていたギルベルトは、もし彼女の婚姻相手を騎士団長の中から選んで貰えるなら、名乗り出ようと決めていたのだ。彼女となら、権力争いに関わらず穏やかに暮らせるかもしれない。漠然とした思いが、彼女に会って話しているうちにそう思えるようになったのだ。本来のギルベルトは、権力には興味がなかった。
最初にギルベルトの婚約者に選ばれた女性は、ギルベルトの目が不自由である事を蔑んで「結婚してもいいが、愛人を作る事を容認しなさい」と驚くような発言をした。宰相である父が怒り、この縁談は破談となったがギルベルトを傷付ける出来事なのは間違いなかった。彼女は『宰相の息子で白薔薇騎士団団長のギルベルト』を選んだのであって、生涯の伴侶として選んでいない――それすら隠すことなく、婚姻を了承しようとしたのだ。
「ギルベルト様」
不意にヴェンデルガルトは彼の名前を呼ぶと、ギルベルトの腕を取り薔薇園の中を少し歩いた。立ち止まった先には、可憐な白薔薇が綺麗に咲いていた。
「綺麗な白薔薇が咲いています――ギルベルト様の様に、美しく繊細な薔薇ですわ」
「美しく繊細? いいえ、それは私ではありません」
「誰がどう言おうと――ギルベルト様が否定しても、私はそう思います。ギルベルト様はお立場上、厳しく皆を導かなければならないでしょう。でも――せめて私の前では、ギルベルト様らしく居て下さい。私なら、あなたの疲れた心を癒す事が出来ます」
「ヴェンデルガルト様は――どうして、私にそのような気遣いを?」
包帯を撒いたままの顔で、見える筈ないヴェンデルガルトの顔を見下ろす。彼女は真っ直ぐギルベルトを見返して、優し気な笑みを浮かべた。
「コンスタンティンと――似ているんです。寂しい心を抱えて、ずっと一人だった彼と。そんなあなたを、私は見捨てたりしたくない。あなたが明るく笑える様に、私は力になりたいんです」
古龍を手懐けた――それがどんなに失礼な言葉なのか、ギルベルトは恥ずかしくなった。治癒魔法を使える彼女は、心の底から「癒し」を与えるのだ。だから、古龍最後の生贄の身代わりにもなった。
その姿はまだ見た事ないが、きっと可憐で愛らしいのだろう。しかし、彼女は可愛らしいだけでなく「強い」女性だ。
「ヴェンデルガルト様」
ギルベルトは改めて彼女の名を呼ぶと、片膝をついて頭を下げた。
「数々のご無礼、誠に申し訳ございませんでした。それを承知で――私の願いをお聞きして下さいますか?」
「私に出来る事なら、お力になりますわ」
ギルベルトは差し出されたヴェンデルガルトの手を強く握った。そうして、顔を上げて彼女を見上げた。
「私の目を――あなたの治癒魔法で、治して頂けないでしょうか?」
もう一度、美しいこの大陸を見てみたい。綺麗に咲いている、目の前の白薔薇を見たい。何より――この女神の様な、ヴェンデルガルトを見たくなった。諦めていた事を、切実に願うほどに。
「はい――必ず、あなたの目を治します」
ヴェンデルガルトは、自分の手を握るギルベルトの手の甲に軽く唇を寄せて、小さく笑った
「みんな、ではありませんよ。中には、下心や良くない心を隠してあなたに接する人物が現れるかもしれません。一度は、相手を疑ってくださいね――それが、誰であろうと」
ギルベルトは、彼女が誰に対しても優しく親し気に寄り添うのを、少し心配していた。元は、第三王女という身分だ。世間知らずな所があるのだろう。実際、カールやランドルフを虜にしたのは、彼女の人柄に違いない。古龍すら手懐けたのは、彼女が無垢で無害であるからだ。
あどけなく優しく、自然に甘える事が出来るのでそれに惹かれるのだ。地位や名誉、金などを望んでいないから、他の『浅ましい』女性とは違う。返って、王族であり治癒魔法が使える彼女を狙う『浅ましい男』がこれから出てくるだろう。
もし彼女を王族の一員として迎え入れるなら――婚約者が決まったばかりの第一皇子であるジークハルト以外の、独身である残り四人の薔薇騎士団団長の誰かと婚姻するかもしれない。
それは彼女の幸せとは関係なく、皇国の判断だ。そう考えると古龍と暮らしていた方が、彼女にとって幸福だったかもしれない。
ギルベルトは目が見えない分、声音や雰囲気で人を探る癖がついていた。今自分の後ろ盾となる人物がいない事を、ヴェンデルガルトは考えもしていないだろう。カールやランドルフと親しくなったのも、後ろ盾を作る為ではない。彼女が仲良くなりたかったから、それだけだ。だから今ギルベルトは、自分もヴェンデルガルトの駒になってみようかと考えていた。
城内の権力争いに疲れていたギルベルトは、もし彼女の婚姻相手を騎士団長の中から選んで貰えるなら、名乗り出ようと決めていたのだ。彼女となら、権力争いに関わらず穏やかに暮らせるかもしれない。漠然とした思いが、彼女に会って話しているうちにそう思えるようになったのだ。本来のギルベルトは、権力には興味がなかった。
最初にギルベルトの婚約者に選ばれた女性は、ギルベルトの目が不自由である事を蔑んで「結婚してもいいが、愛人を作る事を容認しなさい」と驚くような発言をした。宰相である父が怒り、この縁談は破談となったがギルベルトを傷付ける出来事なのは間違いなかった。彼女は『宰相の息子で白薔薇騎士団団長のギルベルト』を選んだのであって、生涯の伴侶として選んでいない――それすら隠すことなく、婚姻を了承しようとしたのだ。
「ギルベルト様」
不意にヴェンデルガルトは彼の名前を呼ぶと、ギルベルトの腕を取り薔薇園の中を少し歩いた。立ち止まった先には、可憐な白薔薇が綺麗に咲いていた。
「綺麗な白薔薇が咲いています――ギルベルト様の様に、美しく繊細な薔薇ですわ」
「美しく繊細? いいえ、それは私ではありません」
「誰がどう言おうと――ギルベルト様が否定しても、私はそう思います。ギルベルト様はお立場上、厳しく皆を導かなければならないでしょう。でも――せめて私の前では、ギルベルト様らしく居て下さい。私なら、あなたの疲れた心を癒す事が出来ます」
「ヴェンデルガルト様は――どうして、私にそのような気遣いを?」
包帯を撒いたままの顔で、見える筈ないヴェンデルガルトの顔を見下ろす。彼女は真っ直ぐギルベルトを見返して、優し気な笑みを浮かべた。
「コンスタンティンと――似ているんです。寂しい心を抱えて、ずっと一人だった彼と。そんなあなたを、私は見捨てたりしたくない。あなたが明るく笑える様に、私は力になりたいんです」
古龍を手懐けた――それがどんなに失礼な言葉なのか、ギルベルトは恥ずかしくなった。治癒魔法を使える彼女は、心の底から「癒し」を与えるのだ。だから、古龍最後の生贄の身代わりにもなった。
その姿はまだ見た事ないが、きっと可憐で愛らしいのだろう。しかし、彼女は可愛らしいだけでなく「強い」女性だ。
「ヴェンデルガルト様」
ギルベルトは改めて彼女の名を呼ぶと、片膝をついて頭を下げた。
「数々のご無礼、誠に申し訳ございませんでした。それを承知で――私の願いをお聞きして下さいますか?」
「私に出来る事なら、お力になりますわ」
ギルベルトは差し出されたヴェンデルガルトの手を強く握った。そうして、顔を上げて彼女を見上げた。
「私の目を――あなたの治癒魔法で、治して頂けないでしょうか?」
もう一度、美しいこの大陸を見てみたい。綺麗に咲いている、目の前の白薔薇を見たい。何より――この女神の様な、ヴェンデルガルトを見たくなった。諦めていた事を、切実に願うほどに。
「はい――必ず、あなたの目を治します」
ヴェンデルガルトは、自分の手を握るギルベルトの手の甲に軽く唇を寄せて、小さく笑った
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