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黄薔薇から紫薔薇

一緒にダンスを

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 カールはヴェンデルガルトと一緒に、花壇ではなく脇に咲いている白い花を摘んだ。そうして庭に置かれている椅子に座り、その花の束を器用に編んでいく。
「カール様は、今大変な立場にいらっしゃるのではないですか? 私が、皇国にとって邪魔な存在ではないかと調べろ……と、言われたり?」
 花の茎を編みながら、ヴェンデルガルトはカールにそう声をかけた。それは、確かにジークハルトに言われた言葉と同じだ。

「……はい」
 カールは正直に返事をした。隠していても、いつか彼女の耳に入るだろうからだ。
「あなたの家族であるバッハシュタイン王国を滅ぼしたのは、間違いなくこのバルシュミーデ皇国です。それに、あなたには魔力がある。もしバルシュミーデ皇国に対して恨みを抱いているなら、捕らえられて幽閉されるかもしれません」
 カールの話を聞きながら、ヴェンデルガルトは綺麗な花輪を編み上げた。話の内容に、動揺した素振りはない。
「そう。それなら、心配ないわ。私は古龍の元に行った時に、自分の王国を捨てたんだもの。それに――もう、二百年よ? 私が知っている人は、ビルギットしかもうこの世にはいないわ」
 同じように、ヴェンデルガルトは二個目の花輪を編み始める。
「それに、確かに私は魔力がある。けれど、治癒魔法しか使えないの。修道院に行く気でいたから、回復しか学んでないわ。ふふ」
「治癒魔法……」
 カールにとって、治癒魔法は伝承でしか聞いた事が無い。どんな傷でも治す、奇跡の魔法。
「出来たわ!」
 摘んできた花を全部使って、綺麗な花輪が二つ出来た。ヴェンデルガルトはその一つをカールの頭に乗せて、もう一つを自分の頭に乗せた。
「カール様、今はどんなダンスを踊るのですか?」
 椅子から立ち上がったヴェンデルガルトは、カールの腕を取ってエスコートさせる。ダンスと聞いて、カールは驚いたような顔になってから困った様に笑う。
「すみません、俺はダンスを踊る様なパーティーに参加する機会がなく、恥ずかしながら知らないんです」
「なら、私の時代のダンスのステップで踊りましょう? 私の足に、合わせてください」
 カールの片腕を自分の腰に支えるように置かせて、もう片方の手は指を絡めて握る。彼女を抱え上げたり抱き締めた事もあるのに、ヴェンデルガルトに触れただけでカールの顔は赤くなる。

 ヴェンデルガルトは、ゆっくりと芝生の上でステップを踏む。カールはためらいながらもそれに合わせる様に彼女と同じステップを踏む。ぎこちないダンスは、すぐに優雅なダンスへと姿を変えた。
「カール様、上手です。私はこのステップは苦手だったのだけど、カール様の方が上手だわ」
 ダンスで、ヴェンデルガルトの長く緩やかな髪とドレスの裾が、ひらりと舞う。カールのマントも優雅に舞い、その脇を見守っていた黄薔薇騎士団が物陰で驚いた顔をしていた。

「なあ……団長が花輪頭に乗せて女性とダンスを踊っているの、俺の見間違いか?」
「心配するな、俺にも同じものが見えている」

「お前らの団長は、すっかりあの女の虜だな」
 花壇の影からその姿を見守っていた黄薔薇騎士団の背に、不意に誰かが声をかけてきた。
「カール様を侮辱しないで貰いた……って、ランドルフ紫薔薇隊長!?」
 そこにいたのは、紫薔薇騎士団隊長のランドルフだった。楽しそうに踊っている二人を眺めて、僅かに眉根を寄せている。そうして、二人に向かって歩き始めた。「待ってください」と黄薔薇騎士団員はそれを止めようとしたが、止める声を無視してランドルフは踊る二人の傍に来た。
「カール」
 名を呼ばれて、カールとヴェンデルガルトのステップは止まった。
「ランドルフ?」
 意外な人物の登場に、カールは怪訝気な表情を浮かべた。きつい視線で自分を見てくる彼から逃げる様に、ヴェンデルガルトはカールの背に隠れる。
「カールにダンスを踊らせるなんて、お前はすごいな。お前は、人を虜にする魔法が使えるのか?」
 少し屈むようにしてカールの後ろに隠れたヴェンデルガルトに、ランドルフは少し意地が悪い事を口にした。
「失礼だろう、ランドルフ!」
 ムッとした様に、カールはランドルフの腕を掴む。しかしランドルフはその手を強く払った。
「冗談だ、そんなに怒んなよ――俺は、お姫様に聞きたい事があって来たんだ。お前、魔法が使えるのか? 何の魔法だ?」
「……私の名前は、ヴェンデルガルトです。お前じゃありません」
 カールの後ろにいたままだったが、はっきりとヴェンデルガルトはランドルフを見返してそう答えた。

「……はは、中々気が強いみたいじゃねぇか。面白いな、ヴェンデルガルト王女」
 一瞬驚いた表情をしたが、ランドルフは楽し気に声を出して笑ってから彼女の名を呼んだ。
「さて、そのヴェンデルガルト王女はどのような魔法が使えるのですか?」
「――回復魔法。それだけです」
 それを聞いたランドルフは、「そりゃ好都合」と小さく笑った。
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