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24:記憶と凌辱①
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弥生は再び夢を見ていた。
車の後部座席に少女が座っている。
火災現場から救助されたばかりで、服はもちろん頭や顔もススだらけだ。
さんざん泣きはらした目は腫れ、まるでこの世の終わりが来たかのような、絶望に沈んだ顔をしている。
「ついたよ、さあ降りて」
そう言われてドアを開けられた瞬間、少女はビクッと震えた。
小さな身体を震わせつつ、外から伸ばされる手を恐る恐る掴む。
(もう私には行き場が無いんだ、何をされてもこの人のいう事を聞くしかない)
車から降りた少女は、犬のように男の後を歩いた。
前を歩く男の名前は、天海一郎。
後にこの世で最も尊敬する父親となる男だが、この時の少女にとっては、まだ知らないおじさんにすぎない。
いくら命の恩人とはいえ、心に深い傷を負った少女が信用するのは無理があった。
「いらっしゃい、さあ中へどうぞ」
知らない女性がドアを開けて家へと招き入れる。
リビングのテーブルの上には、暖かいココアとお菓子が用意されていた。
「どう、寒くない? 怪我は大丈夫?」
後に最愛の母となってくれる女性は、いろいろ気を使って話しかけてくれた。
しかしそんな優しさも、この時の少女には欺瞞にしか見えていない。
「あなた、名前は?」
「アルマ……」
今は捨てた名前を少女は口にする。
あの女から与えられた、思い出すのも忌々しい名前。
この名前で呼ばれていた頃の記憶は、本当にろくなものがない。
「この子が、あの天志村の生き残りなの?」
「ああ、助けることができたのは、この子だけだった」
「かわいそうに、辛い目に合ってきたのね」
ほろほろと涙を流す女性を、少女は冷めた目で見ていた。
自分の為に泣いてくれる人間の存在を、この頃は理解できなかった。
「今日から君は私たちの娘だ。部屋は二階に用意してある、案内するよ」
(部屋? ああ『仕事』をする場所のことか。やっぱりこの人もママと同じ裏家業の人間、考えることは同じね)
人間不信に陥っていた少女は、全てに絶望しながら男の後をついていく。
階段を登る足取りは、まるで死刑囚のように重い。
しかし少女の心配は杞憂だった。
この後の5年間、天海夫妻が飛行機事故で亡くなるまで二人の子として過ごした時間は、本当に幸せだった。
少女はこの家で初めて、家族の暖かさを知ることができた。
(だから私は、父さんと母さんを殺した連中を絶対に許さない)
そう思った所で弥生は目を覚ました。
車の後部座席に少女が座っている。
火災現場から救助されたばかりで、服はもちろん頭や顔もススだらけだ。
さんざん泣きはらした目は腫れ、まるでこの世の終わりが来たかのような、絶望に沈んだ顔をしている。
「ついたよ、さあ降りて」
そう言われてドアを開けられた瞬間、少女はビクッと震えた。
小さな身体を震わせつつ、外から伸ばされる手を恐る恐る掴む。
(もう私には行き場が無いんだ、何をされてもこの人のいう事を聞くしかない)
車から降りた少女は、犬のように男の後を歩いた。
前を歩く男の名前は、天海一郎。
後にこの世で最も尊敬する父親となる男だが、この時の少女にとっては、まだ知らないおじさんにすぎない。
いくら命の恩人とはいえ、心に深い傷を負った少女が信用するのは無理があった。
「いらっしゃい、さあ中へどうぞ」
知らない女性がドアを開けて家へと招き入れる。
リビングのテーブルの上には、暖かいココアとお菓子が用意されていた。
「どう、寒くない? 怪我は大丈夫?」
後に最愛の母となってくれる女性は、いろいろ気を使って話しかけてくれた。
しかしそんな優しさも、この時の少女には欺瞞にしか見えていない。
「あなた、名前は?」
「アルマ……」
今は捨てた名前を少女は口にする。
あの女から与えられた、思い出すのも忌々しい名前。
この名前で呼ばれていた頃の記憶は、本当にろくなものがない。
「この子が、あの天志村の生き残りなの?」
「ああ、助けることができたのは、この子だけだった」
「かわいそうに、辛い目に合ってきたのね」
ほろほろと涙を流す女性を、少女は冷めた目で見ていた。
自分の為に泣いてくれる人間の存在を、この頃は理解できなかった。
「今日から君は私たちの娘だ。部屋は二階に用意してある、案内するよ」
(部屋? ああ『仕事』をする場所のことか。やっぱりこの人もママと同じ裏家業の人間、考えることは同じね)
人間不信に陥っていた少女は、全てに絶望しながら男の後をついていく。
階段を登る足取りは、まるで死刑囚のように重い。
しかし少女の心配は杞憂だった。
この後の5年間、天海夫妻が飛行機事故で亡くなるまで二人の子として過ごした時間は、本当に幸せだった。
少女はこの家で初めて、家族の暖かさを知ることができた。
(だから私は、父さんと母さんを殺した連中を絶対に許さない)
そう思った所で弥生は目を覚ました。
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