女怪盗アクア 電子の監獄

司条西

文字の大きさ
上 下
8 / 34

8:葉月国際美術館の罠①

しおりを挟む
盗みを予告した当日、午後7時。
大学の課題もひと段落した弥生は、自宅の地下にある秘密の部屋にいた。
そこには今までアクアが盗んできた美術品や宝石類、そして盗みに使う道具が保管されている。

「はぁ、相変わらず頭悪そうな衣装ですこと」

ため息をつきながら、弥生は青いレオタードに着替えた。
黒く染められていた髪は、元の明るいキャラメルブラウンに戻されている。

「胸元はV字に空いて胸が半分出ているし、レオタードとロングブーツの間は太腿が丸出し。肩や腋、背中も露出しているし、こんな薄布で夜の街を飛び回っていたら、そりゃあ週刊誌で晒し者にされるのも当然よね」

自虐的な笑みを浮かべながら、弥生はロングブーツを履き、耳にアクアマリンのピアスをつけて飾り立てる。
普段はマニキュアをしない弥生だが、アクアの時は爪も真っ赤だ。
大鏡の前に立つと、大人しめのシンプルなコーデを好む普段の自分とは正反対の女が映っている。

「ほんと、男の目を楽しませるためだけの格好ね。まったくあの女は何を考えてこんな衣装を選んだのやら」

弥生の頭に「あの女」の姿が浮かぶ。
同時に鏡に映る自分の顔が険しくなっていることに気が付いた。

(ああ嫌だ、こんな顔をするとまたあの女に似てきちゃう)

弥生はそそくさと大鏡の前から立ち去ると、盗みに使う道具を持って1階のリビングへと出た。
そこで朝と同じように両親の写真に挨拶する。

「父さん、母さん、行ってきます」

黒い髪に眼鏡をかけた母が微笑み返したように、弥生は感じた。
思慮深くて思いやりがあって、宝石鑑定士としても一流で、いつも優しくしてくれた女性。
弥生はこの母が大好きだった。

(私にとって母親と呼べるのはこの人、天海初音だけよ、決してあんな女じゃない)

弥生はヘルメットを被り、レオタードの上からバイクスーツを着るとバイクにまたがった。
そして葉月国際美術館へ向けて走っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...