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10.痛いと気持ちいいは紙一重
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「お疲れさまでしたアニカ様。今日はここまでにしましょう」
「はぁ、はぁ……。う、うん。……はぁー」
山道を進むこと数時間。日が暮れかかったころにナディネは立ち止まった。山の中腹、木々が少し開けた岩場である。アニカは疲労困憊といった様子で座り込む。
「ではここで夜営といくか。よく頑張ったなアニカ」
「セイラン……。ごめんね、途中から荷物持たせっぱなしで……」
昼過ぎくらいまでは基本的に自分で荷物を背負っていたアニカ。しかし徐々にセイランにお願いする頻度が増えていき、最後はほとんど歩くだけであった。
「いやなに。訓練も受けていない人間が山道を歩くだけでも大変なのだ。よくやったと思うぞ」
「そうですよ。ゆっくり休みましょう、アニカさん」
労わるように話すセイランとヒワは全く疲れた様子がない。さすがはニンジャといったところか。
「それにしても……ナディネも全然疲れてないよね。なんで?」
ナディネは結局きちんと自分で荷物を運んだ。それでいてアニカほど体力を消耗した様子もない。ちょっと不満そうな顔のアニカにナディネは苦笑する。
「山歩きのコツを知っているだけですよ。アニカ様もすぐに慣れます。では、私は食事の準備をしましょうか」
そう言ってナディネはいそいそと食料を取り出した。村から持ってきた野菜や少しの調味料、小さな鍋などを広げはじめる。一方ヒワは荷物を降ろすと辺りを見回した。
「あたしはちょっとその辺を見てきますね。危ない獣とかいないか見回ってきます」
軽い足取りで歩き出すヒワ。鼻歌でも歌いだしそうな余裕である。
「では俺もナディネを手伝おう。そうだな、差し当たっては……」
セイランは近くから枯草や小枝を集める。ある程度拾うと、懐からなにか木でできた筒のようなものを取り出した。
「セイラン? なにそれ?」
「ふふふ。『打ち竹』と言ってな。なかに火種が入っている」
セイランが筒から長い縄状のものを取り出した。端は細く煙を立てている。セイランがそっと息を吹きかけると、炭火の様に真っ赤に光った。
「わ! すごい便利そう!」
「そうだろうそうだろう! 忍者たるもの、いつでも火が使えるようにしておかなければならないからな」
得意げなセイランは手際よく火種を枯草に燃え移らせて焚火を起こし始めた。季節は春。まだまだ夜は冷え込むころである。
「確かに火打石でいちいち火をつけるよりずっと楽そうですね。私も腕によりをかけて食事を作りましょう」
「あ、私も手伝うよっ」
立ち上がるアニカをナディネは優しく押しとどめる。
「アニカ様はもう少し休んでいてくださいませ。それほど手間ではありませんから大丈夫ですよ」
「でも……」
「アニカ。休息をとるのも立派な仕事だ。また明日も歩くのだから無理はするなよ?」
「う、うん……」
セイランにも諭され、アニカは手持ち無沙汰に座り込んだ。
やがて、見回りに行っていたヒワも戻ってきた。
「おお、どうだったヒワ?」
「差し当たっての危険はなさそうですね。水源も近くにあったので、水が足りなさそうなら補給しましょう」
そう言ってヒワはアニカに近づいた。
「アニカさん。ちょっとこちらへ」
「へ? どうしたのヒワちゃん」
言われるがままヒワの元に歩み寄るアニカ。ヒワはその場でかがむと、おもむろにアニカのワンピースの裾をめくりあげた。
「ひゃっ!? ひ、ヒワちゃん!?」
「ひ、ヒワ!? いったい何を!?」
「あ、何やってるんですか兄さん。はやくあっちに行ってください」
ヒワは膝の下くらいで手を止めセイランを睨む。もう片方の手を指し示すと、なにやら植物が握られていた。
「な、なんだそういう事か……。それなら先に一言断ってだな……」
「だから早くしてください兄さん。そんなにアニカさんの生足が見たいんですか?」
「ば、馬鹿! 変な事を言うんじゃない!!」
見るからに動揺した様子でセイランはナディネが調理をしている方に小走りでかけていった。
「くすっ……。兄さん、女の子への免疫はあまりありませんから。時々からかうと面白いですよ」
「え。あ。うん。そ、それよりヒワちゃん? 私、なにされるの?」
「ああそうでした。さ、アニカさん。座って力をぬいてください」
「ヒワちゃん……? ヒワちゃんっ!?」
半ば強引に座らされるアニカ。今度は裾が膝上までずり上げられた。
「大丈夫ですから。あたしに任せてください」
「や、え、ちょ、ちょっと!? 女の子同士でそんな……!」
「さぁ、力をぬいて……」
ヒワの手がアニカの右足を捉える。アニカはパニックになってぎゅっと目をつぶった。ヒワの手がふくらはぎ全体を包み込むように広げられ……。
「あ、痛いかもですけどちょっと我慢してくださいね。……えい」
「い、いたたたたたっ! 痛い! ヒワちゃんそれすんごい痛いぃ!!」
急激に強い力で握られた。悶絶するアニカだったがヒワは放してくれない。しばらくのたうち回ったのち、ようやく解放された。
「はい、大丈夫ですよ」
「うぅ……。なにするのヒワちゃん……」
「ほら、右足を動かしてみてください」
「いや。いまので大事な腱とか切れた気がするんだけど……。あ、あれ?」
膝をカクカクさせるアニカ。キョトンとした顔でヒワを見る。
「足が軽い……。なにこれ!?」
「疲労回復のツボを押したんですよ。かなり楽になったでしょう?」
「うん! なんだマッサージしてくれてたんだ! 先に言ってくれれば……」
危うくヒワが里で受けたという座学の実践をされるのかと勘違いするところだった。それに気づいた様子もなくヒワは続ける。
「最後にこの薬草の汁を塗りましょうね、炎症を抑える効果があるんです」
「ありがとうヒワちゃん! 植物にも詳しいんだ?」
「忍者なら知ってて当然のことですよ。さ、今度は左足を出してください」
「え……」
あっさりというヒワにアニカは絶句した。
「あ、あの……。効き目はすごいけど、痛いのもすごいんだけど……。こっちの足はいいかな、なんて……」
「だめですよ。片足だけじゃ歩くバランスも崩れます。明日も頑張るんですから、ほら」
「いやいや大丈夫だからっ! なんなら明日は片足でケンケンして……」
「どうされましたアニカ様!!」
と、ナディネがすごい速さで走ってきた。どうやらアニカの悲鳴を聞いて駆け付けたらしい。
「ヒワ!? これはいったい……!?」
裾をまくられたままのあられもないアニカの姿を見て固まるナディネ。
「アニカさんの足のマッサージをしてあげていたんですよ」
「ま、マッサージ……。な、なんだそうでしたか……」
恐らくはアニカと同じ勘違いをしそうになったのだろうナディネだった。
「しかし、先ほどの悲鳴は……」
「あ、うん……。足はびっくりするくらい軽くなるんだけどね……、めちゃくちゃ痛いの……」
「さ、アニカさん。左足の番ですよ」
「だ、だから大丈夫! 助けてナディネ……!」
「は、はあ……」
ナディネは困惑したように二人を見た。効き目はアニカも保証している以上、止めるかどうか迷っているのだろう。そんなナディネにヒワが耳元で囁く。
「大丈夫ですよ。後に残るような痛みではないですし。やっといたほうがアニカさんのためですって」
「し、しかしですね……」
「……痛がってるアニカさん、けっこうセクシーですよ」
「な、なに言ってるのヒワちゃん!?」
アニカは顔を赤くして抗議の声をあげる。しかし今の言葉はナディネの心を決めるに十分な破壊力を持っていたらしい。
「わ、わかりました。ただし、本当に大丈夫かどうか私も立ち会って確認しますっ!」
「ナディネ!?」
「はーい。じゃあアニカさん、いきますよー」
「わーっ! な、ナディネの裏切り者ぉー!!」
アニカの悲鳴が、再び山中にこだましたのだった。
「はぁ、はぁ……。う、うん。……はぁー」
山道を進むこと数時間。日が暮れかかったころにナディネは立ち止まった。山の中腹、木々が少し開けた岩場である。アニカは疲労困憊といった様子で座り込む。
「ではここで夜営といくか。よく頑張ったなアニカ」
「セイラン……。ごめんね、途中から荷物持たせっぱなしで……」
昼過ぎくらいまでは基本的に自分で荷物を背負っていたアニカ。しかし徐々にセイランにお願いする頻度が増えていき、最後はほとんど歩くだけであった。
「いやなに。訓練も受けていない人間が山道を歩くだけでも大変なのだ。よくやったと思うぞ」
「そうですよ。ゆっくり休みましょう、アニカさん」
労わるように話すセイランとヒワは全く疲れた様子がない。さすがはニンジャといったところか。
「それにしても……ナディネも全然疲れてないよね。なんで?」
ナディネは結局きちんと自分で荷物を運んだ。それでいてアニカほど体力を消耗した様子もない。ちょっと不満そうな顔のアニカにナディネは苦笑する。
「山歩きのコツを知っているだけですよ。アニカ様もすぐに慣れます。では、私は食事の準備をしましょうか」
そう言ってナディネはいそいそと食料を取り出した。村から持ってきた野菜や少しの調味料、小さな鍋などを広げはじめる。一方ヒワは荷物を降ろすと辺りを見回した。
「あたしはちょっとその辺を見てきますね。危ない獣とかいないか見回ってきます」
軽い足取りで歩き出すヒワ。鼻歌でも歌いだしそうな余裕である。
「では俺もナディネを手伝おう。そうだな、差し当たっては……」
セイランは近くから枯草や小枝を集める。ある程度拾うと、懐からなにか木でできた筒のようなものを取り出した。
「セイラン? なにそれ?」
「ふふふ。『打ち竹』と言ってな。なかに火種が入っている」
セイランが筒から長い縄状のものを取り出した。端は細く煙を立てている。セイランがそっと息を吹きかけると、炭火の様に真っ赤に光った。
「わ! すごい便利そう!」
「そうだろうそうだろう! 忍者たるもの、いつでも火が使えるようにしておかなければならないからな」
得意げなセイランは手際よく火種を枯草に燃え移らせて焚火を起こし始めた。季節は春。まだまだ夜は冷え込むころである。
「確かに火打石でいちいち火をつけるよりずっと楽そうですね。私も腕によりをかけて食事を作りましょう」
「あ、私も手伝うよっ」
立ち上がるアニカをナディネは優しく押しとどめる。
「アニカ様はもう少し休んでいてくださいませ。それほど手間ではありませんから大丈夫ですよ」
「でも……」
「アニカ。休息をとるのも立派な仕事だ。また明日も歩くのだから無理はするなよ?」
「う、うん……」
セイランにも諭され、アニカは手持ち無沙汰に座り込んだ。
やがて、見回りに行っていたヒワも戻ってきた。
「おお、どうだったヒワ?」
「差し当たっての危険はなさそうですね。水源も近くにあったので、水が足りなさそうなら補給しましょう」
そう言ってヒワはアニカに近づいた。
「アニカさん。ちょっとこちらへ」
「へ? どうしたのヒワちゃん」
言われるがままヒワの元に歩み寄るアニカ。ヒワはその場でかがむと、おもむろにアニカのワンピースの裾をめくりあげた。
「ひゃっ!? ひ、ヒワちゃん!?」
「ひ、ヒワ!? いったい何を!?」
「あ、何やってるんですか兄さん。はやくあっちに行ってください」
ヒワは膝の下くらいで手を止めセイランを睨む。もう片方の手を指し示すと、なにやら植物が握られていた。
「な、なんだそういう事か……。それなら先に一言断ってだな……」
「だから早くしてください兄さん。そんなにアニカさんの生足が見たいんですか?」
「ば、馬鹿! 変な事を言うんじゃない!!」
見るからに動揺した様子でセイランはナディネが調理をしている方に小走りでかけていった。
「くすっ……。兄さん、女の子への免疫はあまりありませんから。時々からかうと面白いですよ」
「え。あ。うん。そ、それよりヒワちゃん? 私、なにされるの?」
「ああそうでした。さ、アニカさん。座って力をぬいてください」
「ヒワちゃん……? ヒワちゃんっ!?」
半ば強引に座らされるアニカ。今度は裾が膝上までずり上げられた。
「大丈夫ですから。あたしに任せてください」
「や、え、ちょ、ちょっと!? 女の子同士でそんな……!」
「さぁ、力をぬいて……」
ヒワの手がアニカの右足を捉える。アニカはパニックになってぎゅっと目をつぶった。ヒワの手がふくらはぎ全体を包み込むように広げられ……。
「あ、痛いかもですけどちょっと我慢してくださいね。……えい」
「い、いたたたたたっ! 痛い! ヒワちゃんそれすんごい痛いぃ!!」
急激に強い力で握られた。悶絶するアニカだったがヒワは放してくれない。しばらくのたうち回ったのち、ようやく解放された。
「はい、大丈夫ですよ」
「うぅ……。なにするのヒワちゃん……」
「ほら、右足を動かしてみてください」
「いや。いまので大事な腱とか切れた気がするんだけど……。あ、あれ?」
膝をカクカクさせるアニカ。キョトンとした顔でヒワを見る。
「足が軽い……。なにこれ!?」
「疲労回復のツボを押したんですよ。かなり楽になったでしょう?」
「うん! なんだマッサージしてくれてたんだ! 先に言ってくれれば……」
危うくヒワが里で受けたという座学の実践をされるのかと勘違いするところだった。それに気づいた様子もなくヒワは続ける。
「最後にこの薬草の汁を塗りましょうね、炎症を抑える効果があるんです」
「ありがとうヒワちゃん! 植物にも詳しいんだ?」
「忍者なら知ってて当然のことですよ。さ、今度は左足を出してください」
「え……」
あっさりというヒワにアニカは絶句した。
「あ、あの……。効き目はすごいけど、痛いのもすごいんだけど……。こっちの足はいいかな、なんて……」
「だめですよ。片足だけじゃ歩くバランスも崩れます。明日も頑張るんですから、ほら」
「いやいや大丈夫だからっ! なんなら明日は片足でケンケンして……」
「どうされましたアニカ様!!」
と、ナディネがすごい速さで走ってきた。どうやらアニカの悲鳴を聞いて駆け付けたらしい。
「ヒワ!? これはいったい……!?」
裾をまくられたままのあられもないアニカの姿を見て固まるナディネ。
「アニカさんの足のマッサージをしてあげていたんですよ」
「ま、マッサージ……。な、なんだそうでしたか……」
恐らくはアニカと同じ勘違いをしそうになったのだろうナディネだった。
「しかし、先ほどの悲鳴は……」
「あ、うん……。足はびっくりするくらい軽くなるんだけどね……、めちゃくちゃ痛いの……」
「さ、アニカさん。左足の番ですよ」
「だ、だから大丈夫! 助けてナディネ……!」
「は、はあ……」
ナディネは困惑したように二人を見た。効き目はアニカも保証している以上、止めるかどうか迷っているのだろう。そんなナディネにヒワが耳元で囁く。
「大丈夫ですよ。後に残るような痛みではないですし。やっといたほうがアニカさんのためですって」
「し、しかしですね……」
「……痛がってるアニカさん、けっこうセクシーですよ」
「な、なに言ってるのヒワちゃん!?」
アニカは顔を赤くして抗議の声をあげる。しかし今の言葉はナディネの心を決めるに十分な破壊力を持っていたらしい。
「わ、わかりました。ただし、本当に大丈夫かどうか私も立ち会って確認しますっ!」
「ナディネ!?」
「はーい。じゃあアニカさん、いきますよー」
「わーっ! な、ナディネの裏切り者ぉー!!」
アニカの悲鳴が、再び山中にこだましたのだった。
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