8 / 67
第一章 世界創造編
8.海の生き物を創る
しおりを挟む
いよいよ生き物づくりが始まった。まずは海である。
「海。……創るとき。栄養。たくさん入れといた」
エウラシアに抜かりはない。いきなり過酷な生存競争が始まることもないだろう。
そんな訳で、この世界に来て初の別行動である。各自趣向を凝らした生物を創り、発表する流れとなった。
数日後。三人は大陸の端、地形が湾曲して湾になっている場所に来ていた。各々が箱を持参している。
もちろんその中には、命吹き込まれた生き物が雌雄一対入っているのであった。
まず先陣を切ったのはエウラシア。よどみない手つきで箱を開ける。
「じゃん」
出てきたのはカタツムリの殻のような形をした大きい貝だった。エウラシアの髪と同じ緑色である。
「まあ、キレイな貝ですね」
確かに、光の当たる角度によって様々なグリーンを見せる美しい貝だった。装飾品としても使えるかもしれない。
「これ、確か元世界ですごい昔に生きてたっていうやつに似てるね。確か……アンモナイトだ」
「中身は。全然。違う」
エウラシアはこともなげに言った。貝の外側からは中をうかがい知ることはできない。
「何が入っているんですか?」
「……内緒」
どうやら教えるつもりはないようだ。なんとか出てこさせようと指で突っついたりしてみたが……。
「この貝は。外に出なくても。うー、水から食事が。できるように創った。繁殖も」
そう言ってエウラシアは貝を二つ、入り口を合わせるようにくっつけた。ピッタリ隙間なく合わさっている。
「理想の。生活」
どうやらエウラシアの願望を体現した生き物のようだ。……それにしても中身が不安である。
「ヒント、ヒントはなんかないの?」
「……ギザギザして。ぬめぬめして。毛が生えている」
二人は早々に諦めた。少なくともアンモナイトのような真っ当な生き物ではないだろう。
続いてはレカエルが箱を開けた。
「本来ならリヴァイアサンでも創りたかったのですが。しかし、天使にふさわしいものができました」
そう言ってレカエルが出したのは白い魚だった。白いのは体だけではない。本来背びれのあたりに生えていたのは……。
「翼?」
レカエルのそれをそのまま小さくしたようなミニチュアの翼である。
「その通り。これは水中でも空中でも飛ぶように泳ぎ回ることができる神速の魚。エンゼルフィッシュと名付けました」
ふふん、と得意げなレカエル。魚にびしっと指を突きつけ、勢いよく命じた。
「さあエンゼルフィッシュ、飛びなさい!」
……エンゼルフィッシュは飛び出すことなく、口をパクパク開け閉めしている。
「……飛びなさい!!」
もう一度命じても反応は変わらない。業を煮やしたレカエルはエンゼルフィッシュをむんずとつかみ放り投げた。
投げられたエンゼルフィッシュはものすごい勢いで羽ばたいた。…海中めがけて。
飛行というよりは墜落といった表現が似合うスピードで水中にもぐったエンゼルフィッシュ。
「……そりゃ、水から出たら息できないだろうし。わざわざ空飛んでもエサもないだろうしね」
「うん。無駄」
「よ、余計なお世話です!」
レカエルは悔しそうに吐き捨てた。
フィナーレはまたまたツツミである。満を持してツツミは箱のふたを開いた。
「これは……魚ですね」
「魚」
何の変哲もない魚である。黒みがかった背に銀色の腹。なにか変な器官が付いているわけでもない。
「私、画期的な生き物を創ってしまったよ」
にやりと笑って、ツツミは箱の中に指を突っ込んだ。うりうりと魚をつつき回す。
魚はしばらく逃げ回っていたが、とうとう体を大きく震わせ暴れだした。
身震いした瞬間、魚の両側面の肉がべらりと剥がれ落ちた。肉が二枚箱の底へと沈んでいく。
頭と尾以外の体を失った魚。しかしそれは何事もなかったように再び泳ぎだした。
胴体の部分は完全に骨が露出している。
「どう? 私が生み出した最高傑作『サンマイオロシ』は! 危険を感じると自ら切り身を捨て、自分自身は生きながらえる。食物連鎖の底辺にして、捕食されることのない海の牧草は!」
「……ツツミ。これは生命に対する冒とくです」
「……ぐろい。とにかく。ぐろい」
「そんな! この機能美がなぜ理解できないの!?」
ツツミの必死の訴えは通じず、二人は後ずさるように距離をとっていく。
「そういえば、ツツミの国の人間は、海の生き物を生きたまま丸のみにするそうですね」
「野蛮」
「いや、それは……」
「生の。魚を。……裸の。女性に。乗せたりも。するらしい」
「いやそれはかなり特殊な例で……」
遠い場所の食文化は、時に大きな誤解をはらんで伝わることがある。
しばらくの間、二人はツツミを見る目はケダモノに対するそれであった。
こうしてこの世界最初の生命創造は終わった。
「海。……創るとき。栄養。たくさん入れといた」
エウラシアに抜かりはない。いきなり過酷な生存競争が始まることもないだろう。
そんな訳で、この世界に来て初の別行動である。各自趣向を凝らした生物を創り、発表する流れとなった。
数日後。三人は大陸の端、地形が湾曲して湾になっている場所に来ていた。各々が箱を持参している。
もちろんその中には、命吹き込まれた生き物が雌雄一対入っているのであった。
まず先陣を切ったのはエウラシア。よどみない手つきで箱を開ける。
「じゃん」
出てきたのはカタツムリの殻のような形をした大きい貝だった。エウラシアの髪と同じ緑色である。
「まあ、キレイな貝ですね」
確かに、光の当たる角度によって様々なグリーンを見せる美しい貝だった。装飾品としても使えるかもしれない。
「これ、確か元世界ですごい昔に生きてたっていうやつに似てるね。確か……アンモナイトだ」
「中身は。全然。違う」
エウラシアはこともなげに言った。貝の外側からは中をうかがい知ることはできない。
「何が入っているんですか?」
「……内緒」
どうやら教えるつもりはないようだ。なんとか出てこさせようと指で突っついたりしてみたが……。
「この貝は。外に出なくても。うー、水から食事が。できるように創った。繁殖も」
そう言ってエウラシアは貝を二つ、入り口を合わせるようにくっつけた。ピッタリ隙間なく合わさっている。
「理想の。生活」
どうやらエウラシアの願望を体現した生き物のようだ。……それにしても中身が不安である。
「ヒント、ヒントはなんかないの?」
「……ギザギザして。ぬめぬめして。毛が生えている」
二人は早々に諦めた。少なくともアンモナイトのような真っ当な生き物ではないだろう。
続いてはレカエルが箱を開けた。
「本来ならリヴァイアサンでも創りたかったのですが。しかし、天使にふさわしいものができました」
そう言ってレカエルが出したのは白い魚だった。白いのは体だけではない。本来背びれのあたりに生えていたのは……。
「翼?」
レカエルのそれをそのまま小さくしたようなミニチュアの翼である。
「その通り。これは水中でも空中でも飛ぶように泳ぎ回ることができる神速の魚。エンゼルフィッシュと名付けました」
ふふん、と得意げなレカエル。魚にびしっと指を突きつけ、勢いよく命じた。
「さあエンゼルフィッシュ、飛びなさい!」
……エンゼルフィッシュは飛び出すことなく、口をパクパク開け閉めしている。
「……飛びなさい!!」
もう一度命じても反応は変わらない。業を煮やしたレカエルはエンゼルフィッシュをむんずとつかみ放り投げた。
投げられたエンゼルフィッシュはものすごい勢いで羽ばたいた。…海中めがけて。
飛行というよりは墜落といった表現が似合うスピードで水中にもぐったエンゼルフィッシュ。
「……そりゃ、水から出たら息できないだろうし。わざわざ空飛んでもエサもないだろうしね」
「うん。無駄」
「よ、余計なお世話です!」
レカエルは悔しそうに吐き捨てた。
フィナーレはまたまたツツミである。満を持してツツミは箱のふたを開いた。
「これは……魚ですね」
「魚」
何の変哲もない魚である。黒みがかった背に銀色の腹。なにか変な器官が付いているわけでもない。
「私、画期的な生き物を創ってしまったよ」
にやりと笑って、ツツミは箱の中に指を突っ込んだ。うりうりと魚をつつき回す。
魚はしばらく逃げ回っていたが、とうとう体を大きく震わせ暴れだした。
身震いした瞬間、魚の両側面の肉がべらりと剥がれ落ちた。肉が二枚箱の底へと沈んでいく。
頭と尾以外の体を失った魚。しかしそれは何事もなかったように再び泳ぎだした。
胴体の部分は完全に骨が露出している。
「どう? 私が生み出した最高傑作『サンマイオロシ』は! 危険を感じると自ら切り身を捨て、自分自身は生きながらえる。食物連鎖の底辺にして、捕食されることのない海の牧草は!」
「……ツツミ。これは生命に対する冒とくです」
「……ぐろい。とにかく。ぐろい」
「そんな! この機能美がなぜ理解できないの!?」
ツツミの必死の訴えは通じず、二人は後ずさるように距離をとっていく。
「そういえば、ツツミの国の人間は、海の生き物を生きたまま丸のみにするそうですね」
「野蛮」
「いや、それは……」
「生の。魚を。……裸の。女性に。乗せたりも。するらしい」
「いやそれはかなり特殊な例で……」
遠い場所の食文化は、時に大きな誤解をはらんで伝わることがある。
しばらくの間、二人はツツミを見る目はケダモノに対するそれであった。
こうしてこの世界最初の生命創造は終わった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう!
そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね!
なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!?
欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!?
え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。
※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません
なろう日間週間月間1位
カクヨムブクマ14000
カクヨム週間3位
他サイトにも掲載
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
新婚初夜に浮気ですか、王太子殿下。これは報復しかありませんね。新妻の聖女は、王国を頂戴することにしました。
星ふくろう
ファンタジー
紅の美しい髪とエメラルドの瞳を持つ、太陽神アギトの聖女シェイラ。
彼女は、太陽神を信仰するクルード王国の王太子殿下と結婚式を迎えて幸せの絶頂だった。
新婚旅行に出る前夜に初夜を迎えるのが王国のしきたり。
大勢の前で、新婦は処女であることを証明しなければならない。
まあ、そんな恥ずかしいことも愛する夫の為なら我慢できた。
しかし!!!!
その最愛の男性、リクト王太子殿下はかつてからの二股相手、アルム公爵令嬢エリカと‥‥‥
あろうことか、新婚初夜の数時間前に夫婦の寝室で、ことに及んでいた。
それを親戚の叔父でもある、大司教猊下から聞かされたシェイラは嫉妬の炎を燃やすが、静かに決意する。
この王国を貰おう。
これはそんな波乱を描いた、たくましい聖女様のお話。
小説家になろうでも掲載しております。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる