肺がんだった話

結城有子

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併用療法

歯科転院

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 社会人になって以来ずっと、歯医者さんは同じところにかかってました。

 会社の最寄り駅近くにあったA歯科です。転勤して最寄り駅でなくなっても、結婚して引っ越しても、家を買ってさらに引っ越しても、ずっと通い続けてました。とても腕のいい、安心な先生なのです。

 勤務地からも家からも近くなくなってしまったとき、転院しようかと家の近くの歯医者さんを探したことがあります。でもそのとき、友人からこう言われました。

「いい歯医者さんって、交通費と時間をかけて通う価値があるよ」

 確かにそうだなあ、と思いました。

 それでずっと通い続けてきたのですが、この歯医者さんには、困ったことがひとつだけあります。人気がありすぎて、予約とるのが大変なの。急患は隙間時間にねじ込んでくれますが、定期検診なんかは2か月待ち……。

 健康なときには2か月待ちでも、さして困りはしませんでした。検診だからね。2か月後にしか予約がとれなくても、特にどうってことはありません。

 ところが、今はちょっと困る。

 周期的に化学療法を受けなくてはならず、そのときに状況次第で検査の予約が入ります。大学病院での検査って、とにかく空き枠に突っ込む感じだから、こちらの都合で日時指定するのが難しい。難しいというか、K大学病院ではほぼ不可能です。

 つまり化学療法の周期ごとでしか予定が立てられない、ということになります。3週間または4週間ごとってことですね。2か月も後のことなんて、全然予定がわかりません。

 それでいて、定期検診は今のわたしにとって、今まで以上に重要な意味を持ちます。ランマークという、骨を強くするための注射を定期的に打たれているためです。この注射は骨を強くする代わり、顎骨壊死の危険性が上がるので虫歯に注意しなさい、と主治医のS先生からは指導されています。

 つまり、くれぐれも虫歯を放置することのないよう、しっかり定期検診を受けておきなさい、ということです。

 こうなってしまうと、背に腹は代えられない。家の近くで、新しい歯医者さんを探し始めました。

 歯医者さんなんて、どうやって探したらいいのか、さっぱりわかりません。A先生は、たまたまいい先生に当たったからずっとお世話になってただけだもんなあ。運がよかったとしか言いようがない。

 その「たまたま」で、大学で教えてるような先生に当たるって、すごくない? 本当に運がよかった。

 頭を悩ませながらネット検索し、家から歩いて10分ほどの場所にある歯科医院に当たりをつけました。

 ネット上の口コミを見ると、よい評価と悪い評価が入り交じってます。

 悪い評価のほうは「時間がかかりすぎる」とか「半年も通わなくてはならなかった」とかいうのがいくつかありました。これは、わたしからすると好評価。A先生もそうだったんですよね。丁寧に処置してくださるから、時間も日数もかかっちゃう。きっと丁寧に処置してくださる先生なのでしょう。

 自費診療を選ぶと他の医院に比べて高め、という情報もあるけど、それは仕方ない。よし、ここにしよう。

 A先生に事情を説明し、紹介状を書いていただきました。これまで本当にお世話になりました。最後の最後で、紹介状のお代は結構と言われて、恐縮しましたよ。今までどうもありがとうございました。

 ものすごーく後ろ髪引かれる思いですけど、仕方ないもんね。かなうことなら、ずっとA先生にかかり続けたかった。

 新しい先生は、A先生よりひと回りちょっと若いT先生です。

 新しい医院のスタッフの中には、A先生の医院で研修したという人もいました。意外に狭い世界でした。A先生のところで研修した人ならきっと安心だろうという盲目的な信頼感により、T先生の医院の株がわたしの中で上昇中。

 これからどうぞよろしくお願いします。
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