肺がんだった話

結城有子

文字の大きさ
上 下
22 / 35
併用療法

3クール目

しおりを挟む
 2024年8月29日、3クール目の点滴です。外来では2回目。

 前回、失敗したからね。もう間違わないよ。ちゃんと診察予約の2時間前に病院に到着しましたよ! ファイルも内科の受付にちゃんと渡したもんね。

 順調、順調。

 しかし、この日もトラブルからは逃れることができませんでした。トラブルは、診察室で待っていた。

 主治医のS先生が、カルテ画面を見ながらこう言ったのです。

「今日で4回目なので、効果判定をしましょう」
「え?」

 混乱しました。あれ? 4回目だっけ……?

 先生は検査予約の画面を呼び出し、眉根を寄せながらポチポチとクリックして予約を入れていきます。

 待って。待って待って。今日で3回目じゃない?

「今日で4回目でしたか?」
「そうです。4回目ですね」

 うそーん。

 もしかして実は、自分の知らない間に3回目が終わっちゃってた? いやいやいや。そんなことあるわけないよね……。

 でも先生に穏やかに言い切られると、自信がなくなってくるんだよなあ。

 それでもやっぱり、3回目だと思う。だって前回が初めての外来だったんだもの。入院で1回目、初の外来で2回目、そしてこの日で3回目。合ってるよね?

 頭の中でぐるぐる考えた末、意を決して先生に声をかけました。

「先生、今日で3回目だと思います」
「え?」

 先生はおっとりと首をかしげながら、カルテ画面を開きました。そしてしばらく首をひねりながら、カルテの画面を開いたり閉じたり。その様子をじっと見守っていると、やがて先生はうなずきました。

「はい、3回目ですね」
「はい」

 よかった。勘違いじゃなかった。

 先生はまた、ポチポチと検査の予約をキャンセルしていきました。手間かけさせてごめんなさい。もっと早く言えばよかった。でも、自信がなくなっちゃったんだもの。

 先生の操作するカルテ画面を眺めるうち、どうして先生が勘違いしたのかが何となくわかってきました。前回は基準を満たせなかったから、点滴をしていません。でも化学療法を始めてから、診察自体は4回目なんですよね。それでうっかり混同しちゃったのかもしれません。

 あっさり解決しましたが、ちょっとこわいなと思いました。

 だってわたしが指摘しなければ、点滴が1回減ってしまったわけでしょう。そしてそのまま治療は進んでいったと思うのです。

 点滴のとき、看護師さんたちは必ずダブルチェックをします。点滴バッグ上の名前と指示書を、二人で声に出して読み上げるのです。そうしてちゃんと指示書どおりの点滴であることを確認しています。医療過誤を防止するためのルールなのでしょう。

 でも医師の診断って、よほどのことがないとダブルチェックなんてしなそうです。そんなことしてる余裕があるようには思えないもんね。見るからにオーバーワーク気味に忙しくて、いっぱいいっぱい。

 だから先生まかせにせず、自分でダブルチェックするくらいの気持ちでいたほうがいいのかもしれない、と思いました。詳しい内容はともかく、点滴の回数くらいなら自分でちゃんと数えられますからね。

 この日は早く病院に行っただけあって、点滴にも時間の余裕がありました。食事もちゃんと買いに行けました。

 ただし点滴中に、ちょっと困ったことがありました。点滴が痛かったの……。

 マンニットールという点滴のときでしたが、点滴の針を刺した付近が痛くてたまらない。痛いよう。

 どうしても我慢できません。それで看護師さんに、痛いと訴えてみました。若い看護師さんは「指がしびれたりはしていないんですよね?」と首をかしげています。液漏れを疑っているようだけど、そういうのじゃないんです。でも痛いの。

 するとベテランっぽい看護師さんがやり取りに気づいて、若い看護師さんに声をかけてくれました。

「ああ、この点滴は痛いのよねえ」
「そうなんですか?」
「そうなの、みんな痛いって言うの。だから速度を最低に落としてもいいくらい」

 そうして点滴の速度を落としてもらったら、だいぶマシになりました。この機会だから、質問しておこう。

「点滴の種類によって、痛かったりするんですか?」
「しますよー。血管を刺激するような薬剤だと、どうしても痛みが出ちゃうんですよね」

 なるほど、そういうものなのか。自分の辛抱が足りないだけかと思ってたけど、そうじゃないみたい。

「つらかったらホットパックを用意したりできますから、言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」

 結局このときは残りわずかだったこともあって、そのまま我慢して終わりました。次回は、マンニットールのときにはホットパックをお願いしよう。ほっとp
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生きる 〜アルコール依存症と戦って〜

いしかわ もずく(ペンネーム)
エッセイ・ノンフィクション
皆より酒が強いと思っていた。最初はごく普通の酒豪だとしか思わなかった。 それがいつに間にか自分で自分をコントロールできないほどの酒浸りに陥ってしまい家族、仕事そして最後は自己破産。 残されたものはたったのひとつ。 命だけ。 アルコール依存専門病院に7回の入退院を繰り返しながら、底なし沼から社会復帰していった著者の12年にわたるセミ・ドキュメンタリー 現在、医療従事者として現役。2024年3月で還暦を迎える男の物語。

「繊細さんの日々のこと」

黒子猫
エッセイ・ノンフィクション
「繊細さん」の私が、日常で感じたことなどを綴ります。 ちなみに私は内向型HSPです✨

昨日19万円失った話(実話)

アガサ棚
エッセイ・ノンフィクション
19万円を失った様とその後の奇行を記した物

ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人
エッセイ・ノンフィクション
※この物語は、ある男が体験した『実話』である。 尚、プライバシーの関係上、すべての人物は仮名とする。 和泉浩介(いずみ こうすけ)は、子どもの頃から『倒れちゃいけない』と考えれば考えるほど追い込まれて、貧血で倒れてしまう症状があった。 そのため、入学式、全校集会、卒業式、アルバイト等にまともに参加できず、周りからの目もあって次第に心を塞ぎ込んでしまう。 心療内科の先生によると、和泉の症状は転換性障害や不安障害の可能性がある……とのことだったが、これだという病名がハッキリしないのだという。 「なんで俺がこんな目に……」 和泉は謎の症状から抜け出せず、いつのまにか大学の卒業を迎え……半ば引きこもり状態になり、7年の月日が経った。 そして時は西暦2018年……。 ニートのまま、和泉は31歳を迎えていた。 このままではいけないと、心療内科の先生のアドバイスをきっかけに勇気を出してバイトを始める。 そこから和泉の人生は大きく動き出すのだった。 心療内科と家を往復するだけだった男の大逆転劇が幕を開ける。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

REALITYのあれこれ

伊藤穂乃花
エッセイ・ノンフィクション
配信アプリREALITYの豆知識や雑学みたいなものを簡単にまとめたエッセイです。

戦国布武【裏技】武将物語

MJ
エッセイ・ノンフィクション
戦国布武のゲームの裏技や物語

処理中です...