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併用療法
3クール目
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2024年8月29日、3クール目の点滴です。外来では2回目。
前回、失敗したからね。もう間違わないよ。ちゃんと診察予約の2時間前に病院に到着しましたよ! ファイルも内科の受付にちゃんと渡したもんね。
順調、順調。
しかし、この日もトラブルからは逃れることができませんでした。トラブルは、診察室で待っていた。
主治医のS先生が、カルテ画面を見ながらこう言ったのです。
「今日で4回目なので、効果判定をしましょう」
「え?」
混乱しました。あれ? 4回目だっけ……?
先生は検査予約の画面を呼び出し、眉根を寄せながらポチポチとクリックして予約を入れていきます。
待って。待って待って。今日で3回目じゃない?
「今日で4回目でしたか?」
「そうです。4回目ですね」
うそーん。
もしかして実は、自分の知らない間に3回目が終わっちゃってた? いやいやいや。そんなことあるわけないよね……。
でも先生に穏やかに言い切られると、自信がなくなってくるんだよなあ。
それでもやっぱり、3回目だと思う。だって前回が初めての外来だったんだもの。入院で1回目、初の外来で2回目、そしてこの日で3回目。合ってるよね?
頭の中でぐるぐる考えた末、意を決して先生に声をかけました。
「先生、今日で3回目だと思います」
「え?」
先生はおっとりと首をかしげながら、カルテ画面を開きました。そしてしばらく首をひねりながら、カルテの画面を開いたり閉じたり。その様子をじっと見守っていると、やがて先生はうなずきました。
「はい、3回目ですね」
「はい」
よかった。勘違いじゃなかった。
先生はまた、ポチポチと検査の予約をキャンセルしていきました。手間かけさせてごめんなさい。もっと早く言えばよかった。でも、自信がなくなっちゃったんだもの。
先生の操作するカルテ画面を眺めるうち、どうして先生が勘違いしたのかが何となくわかってきました。前回は基準を満たせなかったから、点滴をしていません。でも化学療法を始めてから、診察自体は4回目なんですよね。それでうっかり混同しちゃったのかもしれません。
あっさり解決しましたが、ちょっとこわいなと思いました。
だってわたしが指摘しなければ、点滴が1回減ってしまったわけでしょう。そしてそのまま治療は進んでいったと思うのです。
点滴のとき、看護師さんたちは必ずダブルチェックをします。点滴バッグ上の名前と指示書を、二人で声に出して読み上げるのです。そうしてちゃんと指示書どおりの点滴であることを確認しています。医療過誤を防止するためのルールなのでしょう。
でも医師の診断って、よほどのことがないとダブルチェックなんてしなそうです。そんなことしてる余裕があるようには思えないもんね。見るからにオーバーワーク気味に忙しくて、いっぱいいっぱい。
だから先生まかせにせず、自分でダブルチェックするくらいの気持ちでいたほうがいいのかもしれない、と思いました。詳しい内容はともかく、点滴の回数くらいなら自分でちゃんと数えられますからね。
この日は早く病院に行っただけあって、点滴にも時間の余裕がありました。食事もちゃんと買いに行けました。
ただし点滴中に、ちょっと困ったことがありました。点滴が痛かったの……。
マンニットールという点滴のときでしたが、点滴の針を刺した付近が痛くてたまらない。痛いよう。
どうしても我慢できません。それで看護師さんに、痛いと訴えてみました。若い看護師さんは「指がしびれたりはしていないんですよね?」と首をかしげています。液漏れを疑っているようだけど、そういうのじゃないんです。でも痛いの。
するとベテランっぽい看護師さんがやり取りに気づいて、若い看護師さんに声をかけてくれました。
「ああ、この点滴は痛いのよねえ」
「そうなんですか?」
「そうなの、みんな痛いって言うの。だから速度を最低に落としてもいいくらい」
そうして点滴の速度を落としてもらったら、だいぶマシになりました。この機会だから、質問しておこう。
「点滴の種類によって、痛かったりするんですか?」
「しますよー。血管を刺激するような薬剤だと、どうしても痛みが出ちゃうんですよね」
なるほど、そういうものなのか。自分の辛抱が足りないだけかと思ってたけど、そうじゃないみたい。
「つらかったらホットパックを用意したりできますから、言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
結局このときは残りわずかだったこともあって、そのまま我慢して終わりました。次回は、マンニットールのときにはホットパックをお願いしよう。ほっとp
前回、失敗したからね。もう間違わないよ。ちゃんと診察予約の2時間前に病院に到着しましたよ! ファイルも内科の受付にちゃんと渡したもんね。
順調、順調。
しかし、この日もトラブルからは逃れることができませんでした。トラブルは、診察室で待っていた。
主治医のS先生が、カルテ画面を見ながらこう言ったのです。
「今日で4回目なので、効果判定をしましょう」
「え?」
混乱しました。あれ? 4回目だっけ……?
先生は検査予約の画面を呼び出し、眉根を寄せながらポチポチとクリックして予約を入れていきます。
待って。待って待って。今日で3回目じゃない?
「今日で4回目でしたか?」
「そうです。4回目ですね」
うそーん。
もしかして実は、自分の知らない間に3回目が終わっちゃってた? いやいやいや。そんなことあるわけないよね……。
でも先生に穏やかに言い切られると、自信がなくなってくるんだよなあ。
それでもやっぱり、3回目だと思う。だって前回が初めての外来だったんだもの。入院で1回目、初の外来で2回目、そしてこの日で3回目。合ってるよね?
頭の中でぐるぐる考えた末、意を決して先生に声をかけました。
「先生、今日で3回目だと思います」
「え?」
先生はおっとりと首をかしげながら、カルテ画面を開きました。そしてしばらく首をひねりながら、カルテの画面を開いたり閉じたり。その様子をじっと見守っていると、やがて先生はうなずきました。
「はい、3回目ですね」
「はい」
よかった。勘違いじゃなかった。
先生はまた、ポチポチと検査の予約をキャンセルしていきました。手間かけさせてごめんなさい。もっと早く言えばよかった。でも、自信がなくなっちゃったんだもの。
先生の操作するカルテ画面を眺めるうち、どうして先生が勘違いしたのかが何となくわかってきました。前回は基準を満たせなかったから、点滴をしていません。でも化学療法を始めてから、診察自体は4回目なんですよね。それでうっかり混同しちゃったのかもしれません。
あっさり解決しましたが、ちょっとこわいなと思いました。
だってわたしが指摘しなければ、点滴が1回減ってしまったわけでしょう。そしてそのまま治療は進んでいったと思うのです。
点滴のとき、看護師さんたちは必ずダブルチェックをします。点滴バッグ上の名前と指示書を、二人で声に出して読み上げるのです。そうしてちゃんと指示書どおりの点滴であることを確認しています。医療過誤を防止するためのルールなのでしょう。
でも医師の診断って、よほどのことがないとダブルチェックなんてしなそうです。そんなことしてる余裕があるようには思えないもんね。見るからにオーバーワーク気味に忙しくて、いっぱいいっぱい。
だから先生まかせにせず、自分でダブルチェックするくらいの気持ちでいたほうがいいのかもしれない、と思いました。詳しい内容はともかく、点滴の回数くらいなら自分でちゃんと数えられますからね。
この日は早く病院に行っただけあって、点滴にも時間の余裕がありました。食事もちゃんと買いに行けました。
ただし点滴中に、ちょっと困ったことがありました。点滴が痛かったの……。
マンニットールという点滴のときでしたが、点滴の針を刺した付近が痛くてたまらない。痛いよう。
どうしても我慢できません。それで看護師さんに、痛いと訴えてみました。若い看護師さんは「指がしびれたりはしていないんですよね?」と首をかしげています。液漏れを疑っているようだけど、そういうのじゃないんです。でも痛いの。
するとベテランっぽい看護師さんがやり取りに気づいて、若い看護師さんに声をかけてくれました。
「ああ、この点滴は痛いのよねえ」
「そうなんですか?」
「そうなの、みんな痛いって言うの。だから速度を最低に落としてもいいくらい」
そうして点滴の速度を落としてもらったら、だいぶマシになりました。この機会だから、質問しておこう。
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なるほど、そういうものなのか。自分の辛抱が足りないだけかと思ってたけど、そうじゃないみたい。
「つらかったらホットパックを用意したりできますから、言ってくださいね」
「はい。ありがとうございます」
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