肺がんだった話

結城有子

文字の大きさ
上 下
18 / 35
併用療法

2クール目

しおりを挟む
 2024年8月1日、2クール目の点滴です。外来では初めて。

 呼吸器内科の診察が9時半予約、集学的がん診療センターが12時予約。診察に間に合うように来ればいいと言われていましたが、診察前検査があるとも書かれていたので、少し早めに出て、8時半に病院に到着しました。

 まさかこれで「どうしてこんなに遅れて来たの?」なんて、こっぴどく叱られる羽目になるとは思わなかったよね……。

 勝手がわからないので、受付機から出てきた案内票が頼りです。ええっと、まず血液検査とレントゲンか。

 採血室前の待ち合い席は、ほぼ満杯。混んでるなー。レントゲンも同様。それでも9時過ぎには、何とか両方とも終わりました。診察の予約は9時半だから、まだ余裕があります。早めに来てよかった。

 案内票の指示に従い、次は集学的がん診療センターで受け付け。すると、なぜか受付の人が苦笑しました。

「あらあ、ずいぶん遅くなっちゃったのね」

 えっ。そんなに遅い? まだ診察の予約まで、時間の余裕あるよね? しかも、なんとなーく遅くなったことを責めるような雰囲気があります。なんで……? 困惑しつつも、看護師さんによる問診を受けました。

 そのとき開口一番、看護師さんからもこんなことを聞かれました。

「どうしてこんな遅くなっちゃったんですか?」
「採血もレントゲンも混んでて……」
「それじゃ仕方ないね。でも点滴が長いから、先生も今頃焦ってるかもしれませんね」

 えええ。なんか、わたしが悪いみたいな言い方じゃない? でも事前に確認した時間より余裕を持って来てるし、どうして責められるのかがさっぱりわかりません。

 それから案内票に従って、内科の待合室へ。

 ここでもまた、ちょっとしたトラブルがありました。案内票の指示どおりに動いていたのに、看護師さんが鬼気迫る表情でわたしを探しに来たのです。しかもそれは、そろそろ自分の番号が呼ばれそう、というときのことでした。

「ファイルを渡してもらえますか。最初にこれを受付に出してほしかったんですよ」
「そうだったんですか。すみません」

 とりあえず謝罪して渡したけど、そんなの教えてくれなきゃわからないよう。次からは忘れずに受付に出すだろうけど、初めてだもん。案内票に記載するか、誰か教えてくれるかしてほしかった。

 そうして、S先生の診察を終えたのが10時半すぎ。集学的がん診療センターの予約時間まで、まだだいぶ余裕があります。先に買い物してから行こうかしら。病院内のコンビニで買うつもりだから、寄り道してもたいした時間はかかりません。

 でも、なんだかずいぶん焦ってたみたいだからなあ。寄り道せずに行こう。

「食事を買いに行きたいんですけど、いつ行けばいいですか?」
「そんな時間ありません」
「えっ」

 話が違う。

 予約の12時までだいぶ余裕があるのに、どうして食事を買いに行く時間がないの? 食事が買えなかったら、お昼抜きになってしまう。だって単純計算でも点滴時間が6時間半もあるんだもの。

 一度処置室に入ったら点滴が終わるまで出られないと聞いていたので、入り口で粘りました。でも事務の人は「時間がないので、中に入ってください」と、にべもありません。

「でも、そうするとご飯が……」
「とにかく、もう中に入っていただきます!」

 問答無用で処置室に連行されてしまいました。ごはん……。

 がん患者のくせに食い意地が張っててすみません。でもこの時間から外に出られないんだと、昼食だけでなく夕食まで抜きになっちゃう。うちは寝るのが早いから、夕食も早いんですよ。

 しょんぼりしてたら、中の看護師さんは優しかった。

「せかしてごめんなさいね。点滴時間が長いから、早く始めないと遅くなっちゃうんですよ」
「でも、予約の2時間前よりだいぶ早く来てたんですけど。これで遅いんですか?」

 どうして誰も彼もから遅いことを責められるのかわからなくて、困惑してたと訴えてみました。すると看護師さんは「どれどれ」とわたしの見せた予約票を確認して、困ったように苦笑しました。

「ああ、これはね、診察時間の2時間前までに来てほしかったんですよ」
「えっ」

 そんなこと聞いてない。

 間違ったら困ると思って、退院前に看護師さんに確認までしたのに、そこで間違ったことを教えられたら、もうわたしにはどうしようもないよね。

「先生方には、ちゃんと早い時間で予約を入れるよう、常々お願いしてるんですけどね。システム上で空いてるところに、何も考えずに入れちゃうんですよ」

 看護師さんの説明によれば、血液検査の結果が診察に必要なので、検査時間を見込んで診察の2時間前には採血室に行ってほしいのだそうです。そう説明されれば、よくわかります。だったら、最初からそう説明してほしかった……。

 理由がわかれば、事務の人たちが殺気だっていたのもわかります。点滴時間が長いくせにのんびりやって来たら、定時までに点滴が終わらなくなっちゃうもんね。それはよくわかるんだけど、でもわたしは全然悪くなくない?

 ただでも外来での化学療法は初めてで、まごついているところへ、わけもわからず頭ごなしに叱られて悲しかった。でも事務の人たちだって、集学的がん診療センターの看護師さんたちだって、たったひとりのために定時で帰れなくなるのは困ったことでしょう。

 となると、何が悪いかって、最初の説明が悪いよね。病棟の看護師さんにも正しく読み取れなかったくらい、リーフレットや動画での説明が悪いと思いました。ただ、これって、失敗するのは最初の1回だけなんですよね。一度経験したら理由がわかって、次からはちゃんと早く行くもの。

 だからきっと、患者の側も苦情を言ったりはしなかったのでしょう。でも改善されないままだと、わたしと同じ立場の人は必ずトラップにかかると思います。その結果、患者も医療者もどっちも不幸せになっちゃう。

 だから病院のご意見箱に、改善依頼を投書しておきました。リーフレットや動画で、患者にも正しく伝わるよう「診察予約の2時間前」と説明してくださいって。同じように悲しい思いをする人がいなくなるといいなあ。そのほうが看護師さんたちだって時間を気にしてやきもきせずに済むはずですもんね。

 なお、このときの食事は、看護師さんがヘルパーさんにお遣いを頼んでくれたおかげで、ちゃんと食べられました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生きる 〜アルコール依存症と戦って〜

いしかわ もずく(ペンネーム)
エッセイ・ノンフィクション
皆より酒が強いと思っていた。最初はごく普通の酒豪だとしか思わなかった。 それがいつに間にか自分で自分をコントロールできないほどの酒浸りに陥ってしまい家族、仕事そして最後は自己破産。 残されたものはたったのひとつ。 命だけ。 アルコール依存専門病院に7回の入退院を繰り返しながら、底なし沼から社会復帰していった著者の12年にわたるセミ・ドキュメンタリー 現在、医療従事者として現役。2024年3月で還暦を迎える男の物語。

「繊細さんの日々のこと」

黒子猫
エッセイ・ノンフィクション
「繊細さん」の私が、日常で感じたことなどを綴ります。 ちなみに私は内向型HSPです✨

昨日19万円失った話(実話)

アガサ棚
エッセイ・ノンフィクション
19万円を失った様とその後の奇行を記した物

ホテルのお仕事 〜心療内科と家を往復するだけだったニートの逆転劇〜

F星人
エッセイ・ノンフィクション
※この物語は、ある男が体験した『実話』である。 尚、プライバシーの関係上、すべての人物は仮名とする。 和泉浩介(いずみ こうすけ)は、子どもの頃から『倒れちゃいけない』と考えれば考えるほど追い込まれて、貧血で倒れてしまう症状があった。 そのため、入学式、全校集会、卒業式、アルバイト等にまともに参加できず、周りからの目もあって次第に心を塞ぎ込んでしまう。 心療内科の先生によると、和泉の症状は転換性障害や不安障害の可能性がある……とのことだったが、これだという病名がハッキリしないのだという。 「なんで俺がこんな目に……」 和泉は謎の症状から抜け出せず、いつのまにか大学の卒業を迎え……半ば引きこもり状態になり、7年の月日が経った。 そして時は西暦2018年……。 ニートのまま、和泉は31歳を迎えていた。 このままではいけないと、心療内科の先生のアドバイスをきっかけに勇気を出してバイトを始める。 そこから和泉の人生は大きく動き出すのだった。 心療内科と家を往復するだけだった男の大逆転劇が幕を開ける。

子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜

珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。 2匹の怪獣さんの母です。11歳の娘と5歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。 毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)

REALITYのあれこれ

伊藤穂乃花
エッセイ・ノンフィクション
配信アプリREALITYの豆知識や雑学みたいなものを簡単にまとめたエッセイです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

戦国布武【裏技】武将物語

MJ
エッセイ・ノンフィクション
戦国布武のゲームの裏技や物語

処理中です...