肺がんだった話

結城有子

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併用療法

レシピサイトとドライヤー

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 退院後にせっせと始めたのは、レシピ作りでした。

 もともと自作のレシピサイトを持っていたのですが、ひととおり登録したら飽きて放置しちゃってました。

 レシピサイトってたくさんあるし、無料でプロのレシピが見られるところもあちこちにあるから、わざわざ自作サイトに頑張って登録する必要を感じなくなっていたのです。

 でも夫に教えるとなると、話は別。

 レシピサイトのレシピどおりじゃなく、自分流にアレンジしたり、それをベースにして別の料理を作ったりしてあるものがほとんどだから。自分の頭の中には自己流レシピが入っているけど、そんなの夫にわかるわけがありません。

 それで、よく作るものはすべて改めて登録することにしたのです。

 初めて作ったものは、いつも写真を撮っているので、ちゃんと写真つき。なんだかんだと154件ものレシピが載ってます。こんなに種類を作ってたのか、と我ながらびっくり。

 ちゃんと整理された状態で写真を見ると、どれもおいしそうです。「あ、これ最近作ってないな。また作ろうかな」という気になっちゃう。

 どれも夫に一回は作ってもらったことのあるものばかりなので、夫もサイトを眺めてびっくりしてました。

「これ、全部作れるのか」
「そうだよー。頑張ったね!」

 そうは言っても、最初のうちは下ごしらえはわたしがしてあげてたし、今でも副菜はわたしが用意してることがほとんど。だから夫が作ったことがあるのは、主菜と汁物に偏ってるわけですが、それでもすごい。

 めぼしいレシピをあらかた登録し終え、アメリカの友人に『こんなものを作ってたんだよ』とURLを知らせてみました。すると、数日してからこんなやり取りがありました。

『酢の物のレシピもある?』
『あるよー。きゅうりとわかめとタコの酢の物。酢の物の中では一番伝統的だと思う』

 酢の物なんか作るのか。わかめとかタコとか、手に入るのかな。アメリカって、きゅうりも日本のと違ってやたら大きいよね。

 そう首をかしげていたのですが、本当に作ったらしい。

『おいしかったけど、何か違う気がした。うちはマルカンの米酢なんだけど、酢は何を使ってる?』

 米酢ですか。ちょっと高いやつですね。アメリカだと、日本で安い物が逆に入手しづらいのかもしれないなあ。

『穀物酢です。一番安いやつ。米酢はすし飯を作るのには相性がいいけど、酢の物にするには少し風味が強いかもね』

 メーカーの商品紹介ページのURLを沿えて、メールを返信してみました。そしたらね、さっそく穀物酢を買ってきたって。日本食スーパーに置いてあったそうな。日本食が好きなので、よく行ってるみたい。

 レシピサイトくらいなら、日本語がわからなくても自動翻訳機能で十分使えるんですね。

 自動翻訳って、ちょっと込み入った文章を翻訳させると、トンデモな内容が返ってくることがあるので、全然信用してませんでした。下手をすると、真逆の意味に翻訳することもあるし。でも、使い方次第なんだなあ。

 思いもかけないところで、レシピサイトが活用されることになりました。ユーザーは1人だと思ってたのに、倍に増えたよ。倍に増えても2人だけど。


 * * *


 ところで退院してしばらくしたら、ヘアドライヤーが壊れました。ある日、スイッチをオンにしたら、ウンともスンとも言わなかったのです。こういう壊れ方もあるんですねえ。

 ここまで潔く壊れてくれると、迷うことなく買い換えられます。

 さっそくオンラインショップでドライヤー探し。風量のあるのがいいなあ。────病院で使ったダイソン、風量たっぷりだったな……。でも、高い。けど、よかった……。

 家電オンラインサイトで検索してみたら、国産メーカーの製品でもハイエンドのものはダイソンと値段がほとんど変わりませんでした。

 散々吟味した上で、夫に聞いてみました。

「ねえねえ、ダイソンのドライヤー買ってもいい?」
「いいよ。欲しいんでしょ?」
「うん。欲しい」

 きっと国産メーカーの同じ価格帯のものを買っても、同じように満足できるのかもしれません。でもその価格帯で実際に使ったことのあるのは、ダイソンだけだったから。

 入院中に使ったときには「高すぎて自分で買おうとは思わないけど、いいよ」なんて言ってたくせにね。買ってしまいました。うふふ。

 スイッチをオンオフするときに、ダイソンのドライヤーはカチカチという音をたてません。その代わり、何とも言えない未来的な音がします。それが楽しい。
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