肺がんだった話

結城有子

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入院

入院説明

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 そして、やってきた入院の日。2024年7月8日。

 入院に先立って、まずは歯科受診から始まりました。何でも、顎骨壊死がっこつえしの予防なのだとか。

 ランマークという注射の副作用として、虫歯があったときに顎骨壊死を起こしやすくなるのだそうです。それで、虫歯がないか、確認しておきたいというわけ。もちろん虫歯が見つかれば、即治療開始。

 幸い、虫歯は見つかりませんでした。まあ、ほんの一週間ほど前に、かかりつけ歯科医の定期検診を受けたばっかりでしたしね。3か月から4か月くらいごとに定期検診を受けていると歯科の先生に話したら、「すばらしい。ぜひ続けてください」と褒められました。うふふ。

 その後、入院手続きをして、病室へ。

 この病室が、なんと個室病棟でした。第一希望に空きがなかったためです。事前の手続きのとき、病室の種類について第二希望まで書かされるのですが、どうしても個室がよかったので、第一希望に一般病棟の個室、第二希望に個室病棟の一番下のグレードの個室を希望していました。

 このときは、空きが出来たら一般病棟に移るつもりでいたんですよね。だけど、実際には──。

 ここから、めくるめくゴージャス病院ステイが始まっちゃいました。いやあ、すてきな二週間だった。

 この日は、昼食から病院食でした。これがまた、おいしいんですよ。個室病棟は食事内容も一般病棟とは違うのだと、このとき初めて知りました。よく読むとちゃんとパンフレットの隅っこにも小さく書いてあるんですけど。見落としてました。

 昼食後しばらくのんびりしてから、呼吸器内科の診察がありました。診察と言っても、実際には入院中の治療に関する説明です。

 今回、わたしの化学療法では、次のものを使うことにしたそうです。

・シスプラチン
・アリムタ
・キイトルーダ

 アリムタとキイトルーダは商品名。成分名は、アリムタがペメトレキセド、キイトルーダがペムブロリズマブです。でも、このふたつは商品名のほうしか覚えられなかった。だって、どっちも「ペ」がつく長たらしい名前、としか認識できないんだもの。しかも言いにくいし。

 入院期間が二週間なので、点滴の期間が気になっていましたが、点滴自体は一日で終わるとのことでした。二週間の入院は、その後の経過観察のため。

 激しい副作用が出る場合もあるので、すぐに対応できるよう、初回は入院になるのだそうです。

 もしそのように激しい副作用が出てしまった場合、薬が合わないと判断されます。そのときには副作用からの回復を待って、また別の治療法を試すことになるわけです。その際には、また改めて入院が必要となります。

 そうして可能性のある副作用を、ずらずらと挙げられました。出てくる、出てくる。比較的軽微なものから、ドン引きするほどやばそうなものまで。

 このとき渡されたキイトルーダの冊子に書かれている「予測される症状」を書き写すと、次のようになります。

・頭痛:下垂体機能障害、脳炎・髄膜炎など
・意識が薄れる:1型糖尿病、脳炎・髄膜炎など
・見え方の異常:ぶどう膜炎
・まぶたが重い・顔の筋肉が動きにくくなる:重症筋無力症
・口の中や喉が渇きやすい・多飲:1型糖尿病
・歯ぐきや口内の出血:免疫性血小板減少性紫斑病、血球貪食症候群
・くしゃみ:点滴時の過敏症反応
・声のかすれ:甲状腺機能障害など
・くちびるのただれ:重度の皮膚障害
・咳:間質性肺疾患、心筋炎、結核
・たん・血たん:結核
・息切れ・呼吸困難:間質性肺疾患、ギラン・バレー症候群、重症筋無力症、点滴時の過敏症反応、心筋炎、溶血性貧血、赤芽球癆せきがきゅうろうなど
・胸の痛み:心筋炎
・吐き気や嘔吐:大腸炎・小腸炎、副腎機能障害、脳炎・髄膜炎、1型糖尿病、重度の胃炎など
・食欲不振:劇症肝炎・肝不全・肝機能障害・肝炎、下垂体機能障害、副腎機能障害、重度の胃炎など
・下痢:大腸炎・小腸炎など
・ネバネバした便・血便:大腸炎・小腸炎
・便秘:甲状腺機能障害、副腎機能障害
・腹痛:大腸炎・小腸炎、膵炎、1型糖尿病、硬化性胆管炎
・トイレが近い:1型糖尿病
・血尿:腎機能障害、免疫性血小板減少性紫斑病
・尿量の減少:腎機能障害
・手足に力が入らない:ギラン・バレー症候群、筋炎・横紋筋融解症、重症筋無力症
・手指のふるえ:甲状腺機能障害など
・発熱:間質性肺疾患、大腸炎・小腸炎、腎機能障害、重度の皮膚障害、心筋炎、無顆粒球症、血球貪食症候群、結核など
・疲れやすい・だるい:大腸炎・小腸炎、劇症肝炎・肝不全、肝機能障害・肝炎、甲状腺機能障害、副腎機能障害、結核など
・黄疸:劇症肝炎・肝不全・肝機能障害・肝炎硬化性胆管炎、膵炎、溶血性貧血
・発疹などの皮膚症状:点滴時の過敏症反応、重度の皮膚障害、免疫性血小板減少性紫斑病、硬化性胆管炎血球貪食症候群
・体重の減少:副腎機能障害、1型糖尿病、結核など
・体重の増加:甲状腺機能障害、腎機能障害
・むくみ:甲状腺機能障害、腎機能障害、心筋炎
・けいれん:脳炎・髄膜炎、血球貪食症候群
・しびれ:ギラン・バレー症候群

 長い。長いよ……。

 しかもキイトルーダに加えて、シスプラチンとアリムタの副作用も加わるから、さらに長くなります。これ以上はもう書き写すのはやめておきますが。

 でも先生が真面目に説明してくださるから、一応、神妙に聞いたよね。もちろんこうした症状は、あくまでも「可能性がゼロじゃないもの」であって、誰にでも出るわけじゃありません。

 キイトルーダ以外の副作用としては、主なものとしてシスプラチンによる免疫抑制が挙げられました。免疫抑制とは、白血球や血小板の量が減少することです。この副作用は、点滴後10日から2週間後にかけて出るのだそうです。それで入院期間が、最低2週間と設定されているのだとか。

 それと吐き気は、かなりの人に出る副作用だそうです。

 副作用に関する説明の後は、化学療法を受けるに当たっての注意事項の説明が続きます。

 抗がん剤というのは、がんを攻撃するだけでなく正常な細胞も攻撃しちゃうので、扱いには注意が必要とのこと。

 どんな注意が必要かというと、点滴を受けて48時間以内は、トイレで用を足したら2回流すよう指示されました。それも飛沫がとびちらないよう、トイレのふたをしてから流すように、と。

 化学療法を受けている患者が嘔吐してしまった場合、絶対に汚物の処理を素手でおこなわないこと。ゴム手袋の着用が必須です。また汚物で汚れた衣類などは、ほかの洗濯物とは分けて洗うこと。などなど。

 なんというかこう、劇物を点滴されるんだなあ、ということを思い知らされるような注意事項でした。

 そんな感じに圧倒的な量の説明にびびり散らかして、説明は終了となりました。
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