16 / 30
素直な言葉
2
しおりを挟む
隆太郎が突如意識を取り戻したように動いたのは、わたしがそんな幸福感の中をふよふよと漂っているときだった。
がばっと、肩を掴まれ、隆太郎は少し腰を折るようにしてわたしの顔を覗き込んできた。びっくりしたわたしは何度かぱちぱちと瞬きをして隆太郎を見つめ返した。
「今の、ほんと?」
隆太郎の声はいやに真剣だった。
「美緒、俺のこと好きなの?」
こくん、とわたしは頷いた。
「友達、とかじゃなく男として好きなの?」
もう一度こくんと頷いた。
そして、またもや沈黙。
隆太郎を見ると彼は何だかわたしを見たまま呆然としていた。肩に置かれている隆太郎の両手に力がこもる。
「……やべぇ」
何かを堪えるような声でそう一言。
隆太郎はぽつりとその言葉をはいたあと、突然感極まったようにわたしをぎゅっと抱きしめてきた。
「あーやっべぇ! 俺も美緒のことすっげえ好き! うはーもー嬉しすぎて死ぬうぅ」
「りゅ、隆太郎?」
隆太郎が壊れた、と思ったと同時、わたしはぴたりと自分の身を固めてしまった。今、何かとてつもないことを聞いた気がするのだけれど。
えーっと……えー、隆太郎が、わたしを、好き?
「ッ」
ぼっと。その言葉に今さらの反応を示したわたしは顔を真っ赤にした。
よく考えてみれば、わたしは隆太郎に告白したんだ。優花の言っていたことがそのままじゃないにしろ本当になってしまった。自然すぎて自分でも実感がわかなかったのだけれど……
「あああっ、もうっ」
あまりの恥ずかしさにわたしは隆太郎の胸にぎゅっと顔をうずめた。息をするのも苦しいくらいだったけれど今はこれがちょうどいい。誰かわたしの頭を冷やしてほしい。
「美緒?」
隆太郎の声が上から降ってきた。けれど、今さらながらに全身を焦がすこの恥ずかしさに身もだえしていたわたしはそれにいやいやと首を振った。穴があったら入りたい、というのはまさにこのことだ。
「みーお?」
「…………」
「美緒ー? おーい」
ひたすら無言。
そんなわたしの様子を見て、隆太郎は何が面白いのかわざとわたしの顔を覗き込もうとしてくる。ここで思い切り顔をそむけるのも変な気がしてそそくさと目を逸らしていたら、案の定隆太郎に両頬をとらえられてしまった。
「な、もっかい言って?」
「…………」
顔が、近い。
わたしは自分の顔がますます熱くなっていくのを感じながら、目を逸らすこともできず目の前にある隆太郎の顔を見つめた。
もう一回言ってって何をだ、なんて野暮なことは聞かない。けれどわたしは精一杯の抵抗を示すためにぷいと顔を背けた。
「美緒~」
すると隆太郎の声がちょっと不満げになった。
「いーや」
「なんで」
「そんな何回も言うものじゃないでしょ」
さっきのわたしはちょっとおかしかったのだ。そう、感情の器というものがまんぱんになっていてきっと思考回路がどうかしてたのだ。
「さっきは素直だったのに」
「じゃあ、隆太郎は言えるの?」
反対に問い返してやった。隆太郎がそんな恥ずかしいことをすんなり言えるわけがない。
「言える」
けれど、予想に反して、隆太郎は真剣な表情でわたしの問いにそう答えた。真っ直ぐな瞳がわたしを射止める。
「俺は、美緒が好き。世界中の誰よりも、何よりも、お前が大切」
「…………」
絶句。
わたしは目の前にある隆太郎の顔を呆然と見つめた。もう少しで吐息がかかるんじゃないかと思うくらいに近くにある、彼の顔。さらさらな茶色の髪に長いまつげ、いたずらっ子のような瞳。見慣れているはずのそのきれいに整った顔は、わたしの心臓を必要以上に暴れさせた。
「なあ、もっかい言って?」
隆太郎の眉が切なそうにひそめられる。
……風に揺れる茶色の髪も、わたしを見つめる彼のきれいに澄んだ瞳も、どうして、わたしをこんなに惑わせるんだろう。
「隆太郎……」
呼びかけると隆太郎は小さく首を傾げた。胸の奥が熱い。じりじりとした甘い疼きが全身を駆け抜ける。
「隆太郎、大好きだよ」
伝えたい、言葉。
わたしはそれを柔らかな笑顔に乗せた。
隆太郎は少し驚いたように目を丸くする。けれどそのあとすぐに目を細め、嬉しそうに口元を緩めた。
「俺も、美緒が好き。すっげえ好き」
とろけるような甘い笑み。隆太郎はわたしを抱き寄せるとその腕にぎゅっと力を込めた。
隆太郎の胸に顔を寄せる。温かな体温。吐息。わたしを抱く腕も、その声も、すべてが愛しい。
幸せに瞳を閉じた。
大好きな人の体温に包まれる幸せ、わたしを愛しいと言ってくれるそれが、今、わたしにとってのすべてだった。
がばっと、肩を掴まれ、隆太郎は少し腰を折るようにしてわたしの顔を覗き込んできた。びっくりしたわたしは何度かぱちぱちと瞬きをして隆太郎を見つめ返した。
「今の、ほんと?」
隆太郎の声はいやに真剣だった。
「美緒、俺のこと好きなの?」
こくん、とわたしは頷いた。
「友達、とかじゃなく男として好きなの?」
もう一度こくんと頷いた。
そして、またもや沈黙。
隆太郎を見ると彼は何だかわたしを見たまま呆然としていた。肩に置かれている隆太郎の両手に力がこもる。
「……やべぇ」
何かを堪えるような声でそう一言。
隆太郎はぽつりとその言葉をはいたあと、突然感極まったようにわたしをぎゅっと抱きしめてきた。
「あーやっべぇ! 俺も美緒のことすっげえ好き! うはーもー嬉しすぎて死ぬうぅ」
「りゅ、隆太郎?」
隆太郎が壊れた、と思ったと同時、わたしはぴたりと自分の身を固めてしまった。今、何かとてつもないことを聞いた気がするのだけれど。
えーっと……えー、隆太郎が、わたしを、好き?
「ッ」
ぼっと。その言葉に今さらの反応を示したわたしは顔を真っ赤にした。
よく考えてみれば、わたしは隆太郎に告白したんだ。優花の言っていたことがそのままじゃないにしろ本当になってしまった。自然すぎて自分でも実感がわかなかったのだけれど……
「あああっ、もうっ」
あまりの恥ずかしさにわたしは隆太郎の胸にぎゅっと顔をうずめた。息をするのも苦しいくらいだったけれど今はこれがちょうどいい。誰かわたしの頭を冷やしてほしい。
「美緒?」
隆太郎の声が上から降ってきた。けれど、今さらながらに全身を焦がすこの恥ずかしさに身もだえしていたわたしはそれにいやいやと首を振った。穴があったら入りたい、というのはまさにこのことだ。
「みーお?」
「…………」
「美緒ー? おーい」
ひたすら無言。
そんなわたしの様子を見て、隆太郎は何が面白いのかわざとわたしの顔を覗き込もうとしてくる。ここで思い切り顔をそむけるのも変な気がしてそそくさと目を逸らしていたら、案の定隆太郎に両頬をとらえられてしまった。
「な、もっかい言って?」
「…………」
顔が、近い。
わたしは自分の顔がますます熱くなっていくのを感じながら、目を逸らすこともできず目の前にある隆太郎の顔を見つめた。
もう一回言ってって何をだ、なんて野暮なことは聞かない。けれどわたしは精一杯の抵抗を示すためにぷいと顔を背けた。
「美緒~」
すると隆太郎の声がちょっと不満げになった。
「いーや」
「なんで」
「そんな何回も言うものじゃないでしょ」
さっきのわたしはちょっとおかしかったのだ。そう、感情の器というものがまんぱんになっていてきっと思考回路がどうかしてたのだ。
「さっきは素直だったのに」
「じゃあ、隆太郎は言えるの?」
反対に問い返してやった。隆太郎がそんな恥ずかしいことをすんなり言えるわけがない。
「言える」
けれど、予想に反して、隆太郎は真剣な表情でわたしの問いにそう答えた。真っ直ぐな瞳がわたしを射止める。
「俺は、美緒が好き。世界中の誰よりも、何よりも、お前が大切」
「…………」
絶句。
わたしは目の前にある隆太郎の顔を呆然と見つめた。もう少しで吐息がかかるんじゃないかと思うくらいに近くにある、彼の顔。さらさらな茶色の髪に長いまつげ、いたずらっ子のような瞳。見慣れているはずのそのきれいに整った顔は、わたしの心臓を必要以上に暴れさせた。
「なあ、もっかい言って?」
隆太郎の眉が切なそうにひそめられる。
……風に揺れる茶色の髪も、わたしを見つめる彼のきれいに澄んだ瞳も、どうして、わたしをこんなに惑わせるんだろう。
「隆太郎……」
呼びかけると隆太郎は小さく首を傾げた。胸の奥が熱い。じりじりとした甘い疼きが全身を駆け抜ける。
「隆太郎、大好きだよ」
伝えたい、言葉。
わたしはそれを柔らかな笑顔に乗せた。
隆太郎は少し驚いたように目を丸くする。けれどそのあとすぐに目を細め、嬉しそうに口元を緩めた。
「俺も、美緒が好き。すっげえ好き」
とろけるような甘い笑み。隆太郎はわたしを抱き寄せるとその腕にぎゅっと力を込めた。
隆太郎の胸に顔を寄せる。温かな体温。吐息。わたしを抱く腕も、その声も、すべてが愛しい。
幸せに瞳を閉じた。
大好きな人の体温に包まれる幸せ、わたしを愛しいと言ってくれるそれが、今、わたしにとってのすべてだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる