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泣かないで
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最悪だ。
ホームルーム前に渡そうと思ったケーキは、最初から思い切り肩すかしをくらった。
担任教師に呼び出されて教室から立ち去っていった隆太郎。ちょうど声を掛けようとしたときだったからめちゃくちゃタイミングが悪い。わたしはがっくりと肩を落とした。
そして、2回目は部活が始まる前の時間。隆太郎はバスケ部で、わたしは帰宅部だ。帰宅部といってもわたしの場合教室で本を読んだり、勉強をしたり、こっそり体育館に隆太郎の勇姿を見に行ったりと、彼の部活が終わるのを待っているのだけれど。
中学の時は調理部に入っていた。けれど高校にはあいにくその部はなく、他の文化部もあまり気に入るものがなく、かといってわたしの足で運動部に入れるわけもなく……帰宅部になったというわけだ。
部活が始まる前にケーキを渡そうと思ったのだけれどこれまた教師に邪魔された。突然図書委員の仕事が入ったのだ。なにせわたしは委員長のため、遅刻するわけにもいかず、泣く泣く図書室に向かった。
「もー、3度目の正直よ!」
そして現在。
無事委員会が終わり、学校に部活動終了のチャイムが鳴り響く。
わたしは鼻息を荒くしながらいつもの場所へ向かっていた。隆太郎の自転車が隠されている裏庭の倉庫。絶対見つからないんだぜ、と入学したときから隆太郎が豪語していた。
それにしても、今日は1年に1度の誕生日だというのについてなさすぎる……。
(なんか自信なくなってきたかも……)
ぴたりと足を止めた。
結局隆太郎が怒った理由も未だに分かっていない。全然分かってない、そう隆太郎が言った理由も、何故あのとき隆太郎があんな表情をしたのかも、何も分かっていない。
それで、謝って、隆太郎は許してくれるんだろうか?
右手にぶら下げている紙袋に目を向けた。中身は6時間目に作ったホールのかぼちゃケーキ。味見はしていないけれどおいしいとは思う。作るのは数回目だし、今回は自分でもうまくできたと思うから。
紙袋をぎゅっと握って、わたしは再び足を裏庭に向けた。
空に浮かぶ太陽はまだ地面を照らしている。長くなった影を踏みしめるようにわたしは足を前に進めた。
その場所に隆太郎はまだ来ていなかった。バスケ部はときどきミーティングで遅くなることがあるからそのせいかもしれない。
そう思ったけれど、少しの不安もあってわたしは倉庫の扉をそっと横に押した。隅っこに目を向ける。そこには隆太郎の自転車がきちんと置いてあって、わたしはほっと息をついた。
隆太郎が、わたしを置いて先に帰ってしまったことは一度もない。どんな喧嘩をしても、隆太郎はわたしを待っていてくれたし、わたしも隆太郎を待っていた。
不思議だと思う。
こんな関係が、もう10年以上ずっと続いているのだ。
倉庫に寄りかかって空を見上げた。視線をさまよわせ、目的のものを探し当てる。まだ薄い、白い三日月。紙袋をぎゅっと握った。
――ゴンちゃん。
心の中でゴンちゃんを呼んでみる。
わたしに勇気をください。隆太郎に真っ正面から向かえるように、隆太郎と仲直りできるように、わたしを見守っていてください。
「…………」
何も変わらない空。でも、少しだけ心が軽くなったような気がした。
ホームルーム前に渡そうと思ったケーキは、最初から思い切り肩すかしをくらった。
担任教師に呼び出されて教室から立ち去っていった隆太郎。ちょうど声を掛けようとしたときだったからめちゃくちゃタイミングが悪い。わたしはがっくりと肩を落とした。
そして、2回目は部活が始まる前の時間。隆太郎はバスケ部で、わたしは帰宅部だ。帰宅部といってもわたしの場合教室で本を読んだり、勉強をしたり、こっそり体育館に隆太郎の勇姿を見に行ったりと、彼の部活が終わるのを待っているのだけれど。
中学の時は調理部に入っていた。けれど高校にはあいにくその部はなく、他の文化部もあまり気に入るものがなく、かといってわたしの足で運動部に入れるわけもなく……帰宅部になったというわけだ。
部活が始まる前にケーキを渡そうと思ったのだけれどこれまた教師に邪魔された。突然図書委員の仕事が入ったのだ。なにせわたしは委員長のため、遅刻するわけにもいかず、泣く泣く図書室に向かった。
「もー、3度目の正直よ!」
そして現在。
無事委員会が終わり、学校に部活動終了のチャイムが鳴り響く。
わたしは鼻息を荒くしながらいつもの場所へ向かっていた。隆太郎の自転車が隠されている裏庭の倉庫。絶対見つからないんだぜ、と入学したときから隆太郎が豪語していた。
それにしても、今日は1年に1度の誕生日だというのについてなさすぎる……。
(なんか自信なくなってきたかも……)
ぴたりと足を止めた。
結局隆太郎が怒った理由も未だに分かっていない。全然分かってない、そう隆太郎が言った理由も、何故あのとき隆太郎があんな表情をしたのかも、何も分かっていない。
それで、謝って、隆太郎は許してくれるんだろうか?
右手にぶら下げている紙袋に目を向けた。中身は6時間目に作ったホールのかぼちゃケーキ。味見はしていないけれどおいしいとは思う。作るのは数回目だし、今回は自分でもうまくできたと思うから。
紙袋をぎゅっと握って、わたしは再び足を裏庭に向けた。
空に浮かぶ太陽はまだ地面を照らしている。長くなった影を踏みしめるようにわたしは足を前に進めた。
その場所に隆太郎はまだ来ていなかった。バスケ部はときどきミーティングで遅くなることがあるからそのせいかもしれない。
そう思ったけれど、少しの不安もあってわたしは倉庫の扉をそっと横に押した。隅っこに目を向ける。そこには隆太郎の自転車がきちんと置いてあって、わたしはほっと息をついた。
隆太郎が、わたしを置いて先に帰ってしまったことは一度もない。どんな喧嘩をしても、隆太郎はわたしを待っていてくれたし、わたしも隆太郎を待っていた。
不思議だと思う。
こんな関係が、もう10年以上ずっと続いているのだ。
倉庫に寄りかかって空を見上げた。視線をさまよわせ、目的のものを探し当てる。まだ薄い、白い三日月。紙袋をぎゅっと握った。
――ゴンちゃん。
心の中でゴンちゃんを呼んでみる。
わたしに勇気をください。隆太郎に真っ正面から向かえるように、隆太郎と仲直りできるように、わたしを見守っていてください。
「…………」
何も変わらない空。でも、少しだけ心が軽くなったような気がした。
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