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鈍すぎる二人
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「まず、美緒は男心をもっと知った方がいいよね」
わたしが話し終えて一言。優花はため息とともにこんな言葉を漏らした。
「普通、そこまでされたら心当たりありすぎでしょ。美緒は鈍いっていうか、ここまでいくとあほだよね」
「あ、あほ……」
乾いた笑みが漏れる。優花は自分の言葉に納得したようにうんうんと頷くと、思い出したように胸の前で手を組んで瞳をきらきらとさせた。
「うーん、でもいいよねえ……。わたしも成瀬くんに髪ぐしゃぐしゃされたい」
ほわわーん、とした空気が優花の周りを包む。わたしはそれにちょっと呆れてしまい、軽く息をついた。
「優花も十分あほだよ……」
「いーの、美緒よりはあほじゃないもん。少しは男心分かるもーん」
えっへん、と腰に手を当て優花は自慢げにそんなことを言った。そして不機嫌そうに眉を寄せるわたしに満面の笑みを浮かべ、ぎゅっと手を握ってくる。
「美緒!」
「うん?」
「成瀬くんと仲直り、したいでしょ?」
「う、うん……」
そりゃあしたいに決まっている。
なんていったって今日はわたしの誕生日。こんな日を一番大好きな人と喧嘩した(というのは微妙だけれど)まま終えるなんて絶対に嫌だ。
「じゃあ6時間目にかけるのよ!」
「……6時間目?」
「そう! 総合の時間、美緒も家庭科選択じゃない。今日はお菓子でしょ? まさに運命!」
「は?」
そう言って優花は鼻息を荒くする。彼女の言いたいことがさっぱり分からなかったわたしは首を傾げてしまった。
総合の時間――それは自分の好きな科目を選択できる時間だ。どの科目でも選べることができて、授業の内容も自分の自由。他の人の迷惑にならないならなんでもやってよし。それが規則。先生はあってなきがごとしの存在だ。
「だから、それを渡して仲直りするの!」
「えー」
しかし、その意味が分かった途端あからさまに顔をしかめてしまった。
「やだよ」
「なんで!」
すると案の定優花は鬼のような形相でわたしに突っかかってきた。
校内で、昔からずっと変わっていないチャイムが鳴る。予鈴だ。確か次の時間は歴史の授業だった気がする。
「あー……もう、授業始まるね」
「話を逸らさない!」
優花が逃げ出そうとしたわたしの両腕をぎゅっと掴んできた。言いたくなくてわたしは誤魔化すように笑いを漏らすけれど、優花はそんなわたしをそれはもうじいっと見つめてきて、とうとう諦めたわたしは小さくため息をついた。
「……だって……、そんなのしたこと、一度もないもん。なんか恥ずかしいじゃない……」
隆太郎に家庭科で作ったお菓子をわざわざあげるなんて考えただけでも恥ずかしい。わたしは思わず想像しそうになるのをぶんぶん首を横に振ることでこらえた。
けれどそんなわたしに構わず、優花は惚けた顔をわたしに向ける。
「はあ? 何言ってんの、美緒、しょっちゅう家庭科で作ったの成瀬くんにあげてるじゃない」
「あ、あれは……残り物とかだし」
「残り物ぉ? あれのどこが残り物よ。いちいちラッピングとかしてるくせに」
優花の言葉にわたしはかあっと赤くなった。むうと眉を寄せる優花にわたしは声を上げる。
「そ、それはっ。だって、いくら残り物だっていってもそのままじゃあげられないでしょっ」
「屁理屈! というかこの際全部あげるも残り物あげるも同じでしょ。女は度胸よ。腹を据えて行ってこい!」
「……う……」
一生、優花には口で勝てないと思う。
わたしはがくりと頭を垂れると、大きくため息をついた。
「……そう簡単に言うけどね、こっちはかなり大変なんだよ」
「なーにーが、大変なのよ。はっきり言って見てるこっちがうずうずしてくるんだよね。美緒も成瀬くんも! にーぶーすーぎーなのよっ」
ムキーッと胸を掻きむしるようにして優花が言った。鈍すぎ。優花はいつもそれを言葉にする。
「とにかく6時間目だからね! そのあとすぐ成瀬くんにそれを持っていって仲直りする! ついでに告白もしちゃいなよ。行くときはもうどばーっとね、どばーっとやっちゃえばいいの! 分かった?」
「いえ、さ、さすがに告白は……」
「みーお、いつまでも怖がってちゃダメ! チャンスよ、今こそチャンスのときなんだから!」
ゴオッと優花の後ろに燃える炎が見える気がした。
言葉を詰まらせたわたしは首を振るわけでもなく頷くわけでもなく、ただ、優花に気付かれないように小さくため息をついた。
わたしが話し終えて一言。優花はため息とともにこんな言葉を漏らした。
「普通、そこまでされたら心当たりありすぎでしょ。美緒は鈍いっていうか、ここまでいくとあほだよね」
「あ、あほ……」
乾いた笑みが漏れる。優花は自分の言葉に納得したようにうんうんと頷くと、思い出したように胸の前で手を組んで瞳をきらきらとさせた。
「うーん、でもいいよねえ……。わたしも成瀬くんに髪ぐしゃぐしゃされたい」
ほわわーん、とした空気が優花の周りを包む。わたしはそれにちょっと呆れてしまい、軽く息をついた。
「優花も十分あほだよ……」
「いーの、美緒よりはあほじゃないもん。少しは男心分かるもーん」
えっへん、と腰に手を当て優花は自慢げにそんなことを言った。そして不機嫌そうに眉を寄せるわたしに満面の笑みを浮かべ、ぎゅっと手を握ってくる。
「美緒!」
「うん?」
「成瀬くんと仲直り、したいでしょ?」
「う、うん……」
そりゃあしたいに決まっている。
なんていったって今日はわたしの誕生日。こんな日を一番大好きな人と喧嘩した(というのは微妙だけれど)まま終えるなんて絶対に嫌だ。
「じゃあ6時間目にかけるのよ!」
「……6時間目?」
「そう! 総合の時間、美緒も家庭科選択じゃない。今日はお菓子でしょ? まさに運命!」
「は?」
そう言って優花は鼻息を荒くする。彼女の言いたいことがさっぱり分からなかったわたしは首を傾げてしまった。
総合の時間――それは自分の好きな科目を選択できる時間だ。どの科目でも選べることができて、授業の内容も自分の自由。他の人の迷惑にならないならなんでもやってよし。それが規則。先生はあってなきがごとしの存在だ。
「だから、それを渡して仲直りするの!」
「えー」
しかし、その意味が分かった途端あからさまに顔をしかめてしまった。
「やだよ」
「なんで!」
すると案の定優花は鬼のような形相でわたしに突っかかってきた。
校内で、昔からずっと変わっていないチャイムが鳴る。予鈴だ。確か次の時間は歴史の授業だった気がする。
「あー……もう、授業始まるね」
「話を逸らさない!」
優花が逃げ出そうとしたわたしの両腕をぎゅっと掴んできた。言いたくなくてわたしは誤魔化すように笑いを漏らすけれど、優花はそんなわたしをそれはもうじいっと見つめてきて、とうとう諦めたわたしは小さくため息をついた。
「……だって……、そんなのしたこと、一度もないもん。なんか恥ずかしいじゃない……」
隆太郎に家庭科で作ったお菓子をわざわざあげるなんて考えただけでも恥ずかしい。わたしは思わず想像しそうになるのをぶんぶん首を横に振ることでこらえた。
けれどそんなわたしに構わず、優花は惚けた顔をわたしに向ける。
「はあ? 何言ってんの、美緒、しょっちゅう家庭科で作ったの成瀬くんにあげてるじゃない」
「あ、あれは……残り物とかだし」
「残り物ぉ? あれのどこが残り物よ。いちいちラッピングとかしてるくせに」
優花の言葉にわたしはかあっと赤くなった。むうと眉を寄せる優花にわたしは声を上げる。
「そ、それはっ。だって、いくら残り物だっていってもそのままじゃあげられないでしょっ」
「屁理屈! というかこの際全部あげるも残り物あげるも同じでしょ。女は度胸よ。腹を据えて行ってこい!」
「……う……」
一生、優花には口で勝てないと思う。
わたしはがくりと頭を垂れると、大きくため息をついた。
「……そう簡単に言うけどね、こっちはかなり大変なんだよ」
「なーにーが、大変なのよ。はっきり言って見てるこっちがうずうずしてくるんだよね。美緒も成瀬くんも! にーぶーすーぎーなのよっ」
ムキーッと胸を掻きむしるようにして優花が言った。鈍すぎ。優花はいつもそれを言葉にする。
「とにかく6時間目だからね! そのあとすぐ成瀬くんにそれを持っていって仲直りする! ついでに告白もしちゃいなよ。行くときはもうどばーっとね、どばーっとやっちゃえばいいの! 分かった?」
「いえ、さ、さすがに告白は……」
「みーお、いつまでも怖がってちゃダメ! チャンスよ、今こそチャンスのときなんだから!」
ゴオッと優花の後ろに燃える炎が見える気がした。
言葉を詰まらせたわたしは首を振るわけでもなく頷くわけでもなく、ただ、優花に気付かれないように小さくため息をついた。
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