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鈍すぎる二人
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「ちょ、ちょ、ちょ、美緒、どーしたの?」
あれから。
わたしは傍目から見ても分かるくらいにずーんと沈んでいた。優花が驚いて口をどもらせるくらいだから相当なのだろう。わたしはまるで幽霊のようにふらふらっと優花に近寄ると、すがるように彼女に抱き付いた。
「優花ぁ……」
「う、うん?」
「わたし、どうしよう……」
本当に、どうしよう。
あれからわたしは隆太郎を追いかけた。隆太郎があんなふうに怒った理由も、彼が何に苦しんでいるかも分からなかったけれど、とにかく何か言わなければと思ったのだ。
「ご、ごめんね、隆太郎」
わたしは必死の思いで謝った。
けれど、振り向いた隆太郎は無表情で。
「なんで俺が怒ってるか分かってんの?」
そう静かな声で尋ねてきた。
言葉を詰まらせたわたしに、隆太郎はひときわ大きなため息をはきだした。
「もういい」
突き放したような言い方だった。拒絶、だったのかもしれない。隆太郎の背中はわたしを拒んでいて、それ以上追いかけることができなかった。
隆太郎があんなに怒ったのは久しぶりだ。
多分、4年前のバレンタイン以来だと思う。確かあのときは登校中に転んで紙袋の中身をぶちまけてしまい、それにつまづいて隆太郎がこけそうになって、そのあと隆太郎の機嫌が悪くなった。
まあそこまではまだ良かったのだけれど、問題は放課後だ。空になった紙袋を見て隆太郎の機嫌はマックスに悪くなった。もちろん隆太郎にはちゃんとチョコレートをあげた。だから、未だにわたしはどうしてあの日隆太郎があんなに怒ったのか分かっていない。
結局あのときは、隆太郎の機嫌は次の日には直っていたのだけれど。
昨日のチョコうまかった、もっと作れ、とか言われて、また来年ね、と言葉を返した覚えがある。隆太郎の場合甘やかすと毎日作らされるはめになりそうだったから。
「ちょ、ちょっと、美緒どうしたのよお」
「わ、わたし」
「うん」
「わたし、ね……」
「うん」
何度か言葉を繰り返して、やっと口を開く。
「隆太郎のこと、怒らせちゃった……」
「怒らせたあ?」
そして、優花から返ってきたのはまぬけ声。けれどわたしはそんなことも気にしていられないほどにずーんと落ち込んでいた。
「うん、あと、すごく苦しそうな顔させちゃった……」
「く、苦しそうぅ?」
えええ、と驚いたように優花が声を上げて、わたしはそんな彼女の反応に顔を上げた。
すると、優花の顔は何故か真っ赤で。眉を寄せるわたしに、優花はぎゅっと拳を握って声を上げた。
「だめじゃない、美緒! 成瀬くんのこと拒んじゃ!」
「は?」
「成瀬くんずっと我慢してきたんだから! ショック受けるに決まってるじゃないっ」
「はあ?」
いったい優花が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
首をひねり、不審げに優花を見ていると彼女ははたと気付いたようにわたしを見つめ、それからぱちぱちと瞬きをした。
「あれ……、ち、違うの?」
「違うのって……」
「う、うん」
「わたしは、優花が何言ってるのかまったく分からないんだけど」
「ああ……」
そう、と。何故か優花は気が抜けたように大きくため息をついた。そして彼女はしがみついていたわたしの身体を自分のもとから引き離すと、わたしの肩に両手を置いてきた。
「まあ、とにかく。話聞いてあげるからね」
「うん」
「今度はもっと具体的かつ分かりやすく説明してね」
優花のその言葉に、わたしは素直に頷いた。手を取られ、廊下を進み外へ出る。
中休みにも来た裏庭へ辿り着き、周りに誰もいないことを確認するとわたしは優花に促されてベンチに腰掛けた。
そして、ぽつりぽつりとそのことを話し始めた。
あれから。
わたしは傍目から見ても分かるくらいにずーんと沈んでいた。優花が驚いて口をどもらせるくらいだから相当なのだろう。わたしはまるで幽霊のようにふらふらっと優花に近寄ると、すがるように彼女に抱き付いた。
「優花ぁ……」
「う、うん?」
「わたし、どうしよう……」
本当に、どうしよう。
あれからわたしは隆太郎を追いかけた。隆太郎があんなふうに怒った理由も、彼が何に苦しんでいるかも分からなかったけれど、とにかく何か言わなければと思ったのだ。
「ご、ごめんね、隆太郎」
わたしは必死の思いで謝った。
けれど、振り向いた隆太郎は無表情で。
「なんで俺が怒ってるか分かってんの?」
そう静かな声で尋ねてきた。
言葉を詰まらせたわたしに、隆太郎はひときわ大きなため息をはきだした。
「もういい」
突き放したような言い方だった。拒絶、だったのかもしれない。隆太郎の背中はわたしを拒んでいて、それ以上追いかけることができなかった。
隆太郎があんなに怒ったのは久しぶりだ。
多分、4年前のバレンタイン以来だと思う。確かあのときは登校中に転んで紙袋の中身をぶちまけてしまい、それにつまづいて隆太郎がこけそうになって、そのあと隆太郎の機嫌が悪くなった。
まあそこまではまだ良かったのだけれど、問題は放課後だ。空になった紙袋を見て隆太郎の機嫌はマックスに悪くなった。もちろん隆太郎にはちゃんとチョコレートをあげた。だから、未だにわたしはどうしてあの日隆太郎があんなに怒ったのか分かっていない。
結局あのときは、隆太郎の機嫌は次の日には直っていたのだけれど。
昨日のチョコうまかった、もっと作れ、とか言われて、また来年ね、と言葉を返した覚えがある。隆太郎の場合甘やかすと毎日作らされるはめになりそうだったから。
「ちょ、ちょっと、美緒どうしたのよお」
「わ、わたし」
「うん」
「わたし、ね……」
「うん」
何度か言葉を繰り返して、やっと口を開く。
「隆太郎のこと、怒らせちゃった……」
「怒らせたあ?」
そして、優花から返ってきたのはまぬけ声。けれどわたしはそんなことも気にしていられないほどにずーんと落ち込んでいた。
「うん、あと、すごく苦しそうな顔させちゃった……」
「く、苦しそうぅ?」
えええ、と驚いたように優花が声を上げて、わたしはそんな彼女の反応に顔を上げた。
すると、優花の顔は何故か真っ赤で。眉を寄せるわたしに、優花はぎゅっと拳を握って声を上げた。
「だめじゃない、美緒! 成瀬くんのこと拒んじゃ!」
「は?」
「成瀬くんずっと我慢してきたんだから! ショック受けるに決まってるじゃないっ」
「はあ?」
いったい優花が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
首をひねり、不審げに優花を見ていると彼女ははたと気付いたようにわたしを見つめ、それからぱちぱちと瞬きをした。
「あれ……、ち、違うの?」
「違うのって……」
「う、うん」
「わたしは、優花が何言ってるのかまったく分からないんだけど」
「ああ……」
そう、と。何故か優花は気が抜けたように大きくため息をついた。そして彼女はしがみついていたわたしの身体を自分のもとから引き離すと、わたしの肩に両手を置いてきた。
「まあ、とにかく。話聞いてあげるからね」
「うん」
「今度はもっと具体的かつ分かりやすく説明してね」
優花のその言葉に、わたしは素直に頷いた。手を取られ、廊下を進み外へ出る。
中休みにも来た裏庭へ辿り着き、周りに誰もいないことを確認するとわたしは優花に促されてベンチに腰掛けた。
そして、ぽつりぽつりとそのことを話し始めた。
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