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王子と姫の関係
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STORY.2 王子と姫の関係 1
裏庭に立つ大きな木の下には休息用のベンチが置かれている。
中休み――これは1、2限の授業が終わったあとの20分間の休憩で、他の高校にはあまりないものらしい――そこはわたしと友人、志筑優花の定位置だ。今日も変わらずわたしたちはそこで特に何もすることなく、のんびりと時を過ごしていた。
降り注ぐ太陽の光は生い茂る木の葉によって木漏れ日に姿を変える。地面にこぼれる光の粒は、風が吹くたびにゆらゆらと揺れていた。
「誕生日おめでと」
にこり、と。可愛らしく優花が微笑む。
綺麗にラッピングされた袋を手渡され、わたしは少し気恥ずかしくなり、照れながらお礼を言った。
「ありがと」
「いーえ。愛しの美緒のためなら何でも」
ふふ、とこの上なく綺麗に笑う優花は女のわたしから見ても眩しい。一瞬眩暈のしそうになった思考は、優花の次の言葉で現実に引き戻された。
「これでやっと成瀬くんと結婚できるね」
結婚。
ごーん、と、何故か頭の中でそんな音がした。
いきなり何を言い出すのか。
別の意味で眩暈がしそうになり、わたしは右手で軽く頭を押さえた。
「あのね……わたしが18になるんじゃなく隆太郎が18にならなきゃ意味ないんだって――……ってそうじゃなくて! 隆太郎とはほんと、そんなんじゃないんだってば……」
これは高校に入ってから何十回、いや、何百回と繰り返した言葉だ。けれど優花はこれをまったく信じてくれず、嘘だー、と繰り返すのだ。いい加減、自分で言葉にしていて悲しくなるというか、むなしくなるというか……。
「嘘だー」
そして今日も、相変わらず優花の口からはこの言葉が漏れる。
優花は中学時代、隆太郎と塾が一緒だったらしく、その頃の彼とわたしと一緒にいるときの彼が違うと言うのだ。そんなことは自分では全然分からない。というよりも、優花の目がおかしいんじゃないかと彼女には失礼だけれどそんなことを思う。
「いーい、美緒。ちょっとよく考えてみなさいよ。毎朝、それも放課後も、一緒に2人乗り自転車なんてカップル以外ありえないって!」
「だから、それはわたしの足のせいで……」
「そうだとしても! 何とも思ってない女の子にここまでしてくれる男子はいないよ」
黙りこくったわたしに、優花はなおも語りかけるように言葉を続けた。
「美緒だってそうでしょ? 成瀬くんじゃなかったら、一緒に登校したり、帰ったりしないでしょ?」
「…………」
それは、確かに優花の言うとおりだけれど。
わたしはうつむき加減に優花の問いの答えを探していた。視界に映る木漏れ日が、あの日のこと――隆太郎と初めて出会ったときのことを思い出させた。
そう、おそらく、隆太郎にとってのわたしは何かと聞かれたら。
きっとわたしは隆太郎のお姫様だ。
王子様はもちろん隆太郎。ナイトではなく彼は王子様。
だってこのことは、隆太郎本人が言ったことだから。柔らかい太陽のような笑顔とともに、まだ幼い隆太郎は、あのいたずらっ子のような瞳をわたしに向けて言ったのだ。
――みおはおれのお姫さまだ。
裏庭に立つ大きな木の下には休息用のベンチが置かれている。
中休み――これは1、2限の授業が終わったあとの20分間の休憩で、他の高校にはあまりないものらしい――そこはわたしと友人、志筑優花の定位置だ。今日も変わらずわたしたちはそこで特に何もすることなく、のんびりと時を過ごしていた。
降り注ぐ太陽の光は生い茂る木の葉によって木漏れ日に姿を変える。地面にこぼれる光の粒は、風が吹くたびにゆらゆらと揺れていた。
「誕生日おめでと」
にこり、と。可愛らしく優花が微笑む。
綺麗にラッピングされた袋を手渡され、わたしは少し気恥ずかしくなり、照れながらお礼を言った。
「ありがと」
「いーえ。愛しの美緒のためなら何でも」
ふふ、とこの上なく綺麗に笑う優花は女のわたしから見ても眩しい。一瞬眩暈のしそうになった思考は、優花の次の言葉で現実に引き戻された。
「これでやっと成瀬くんと結婚できるね」
結婚。
ごーん、と、何故か頭の中でそんな音がした。
いきなり何を言い出すのか。
別の意味で眩暈がしそうになり、わたしは右手で軽く頭を押さえた。
「あのね……わたしが18になるんじゃなく隆太郎が18にならなきゃ意味ないんだって――……ってそうじゃなくて! 隆太郎とはほんと、そんなんじゃないんだってば……」
これは高校に入ってから何十回、いや、何百回と繰り返した言葉だ。けれど優花はこれをまったく信じてくれず、嘘だー、と繰り返すのだ。いい加減、自分で言葉にしていて悲しくなるというか、むなしくなるというか……。
「嘘だー」
そして今日も、相変わらず優花の口からはこの言葉が漏れる。
優花は中学時代、隆太郎と塾が一緒だったらしく、その頃の彼とわたしと一緒にいるときの彼が違うと言うのだ。そんなことは自分では全然分からない。というよりも、優花の目がおかしいんじゃないかと彼女には失礼だけれどそんなことを思う。
「いーい、美緒。ちょっとよく考えてみなさいよ。毎朝、それも放課後も、一緒に2人乗り自転車なんてカップル以外ありえないって!」
「だから、それはわたしの足のせいで……」
「そうだとしても! 何とも思ってない女の子にここまでしてくれる男子はいないよ」
黙りこくったわたしに、優花はなおも語りかけるように言葉を続けた。
「美緒だってそうでしょ? 成瀬くんじゃなかったら、一緒に登校したり、帰ったりしないでしょ?」
「…………」
それは、確かに優花の言うとおりだけれど。
わたしはうつむき加減に優花の問いの答えを探していた。視界に映る木漏れ日が、あの日のこと――隆太郎と初めて出会ったときのことを思い出させた。
そう、おそらく、隆太郎にとってのわたしは何かと聞かれたら。
きっとわたしは隆太郎のお姫様だ。
王子様はもちろん隆太郎。ナイトではなく彼は王子様。
だってこのことは、隆太郎本人が言ったことだから。柔らかい太陽のような笑顔とともに、まだ幼い隆太郎は、あのいたずらっ子のような瞳をわたしに向けて言ったのだ。
――みおはおれのお姫さまだ。
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