2 / 30
誕生日の朝は
2
しおりを挟む
STORY.1 誕生日の朝は 2
「ちゃんと掴まってろよ」
前方にその問題の坂が見えてきてわたしはぎゅっと隆太郎に抱き付いた。それはもう本当にぎゅっとで、隆太郎がうっと苦しそうに息を漏らした。
この坂を下りさえすればもう学校は目と鼻の先だ。確かに隆太郎が言うとおり近道なのには違いない。
重心が前に移動する。ただでさえ力一杯隆太郎に抱き付いているのに、そのせいでわたしの身体はますます隆太郎に重みを預けた。
「う、……きゃー!」
絶叫。まさしく絶叫だ。
目をつむっているから周りの景色は見えない。びゅんびゅんと風の音が聞こえる。もう何がなんだか分からない。
ただ、感じるのは隆太郎の体温だけだった。
「美緒、生きてるか?」
「は、話しかけないでー。ちゃんと前見ててっ」
「見てるっつーの!」
「いいから話しかけないでっ」
数秒後。
重心が元通りに戻る。相変わらずスピードは速いけれど、だんだんと遅くなっているのは確かだ。そっと瞼を開けると見慣れた景色が視界に入った。学校のすぐ近くだ。
「し、死ななかったー」
わたしは本気で安心して大きく息をついた。前方に背の高い大きなイチョウの木が見える。そこが校門だ。
はあ、ともう一度大きく息をはいて、すっかり精神疲れしてしまったわたしはくたりと隆太郎の背にもたれかかった。隆太郎はそんなわたしを見て呆れたように声を漏らす。
「あんなんで死ぬかよ」
「分かんないでしょー。人生何があるか分かんないんだからー」
「俺の運転は最高だぜ」
「……ばか」
にかっと笑ってそんなことを言う隆太郎は、朝の太陽よりもずっと輝いて見えた。
隆太郎は。
小学校からの腐れ縁であり、きっと誰よりも同じ時を一緒に過ごした――過ごしている人だ。
「あ、そうだ」
自転車を止めて隆太郎がこちらをに向く。
さらさらな茶色の髪に長いまつげ、いたずらっ子のような瞳。どちらかというとかわいい顔立ちをした隆太郎はその口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「誕生日おめでと」
小さな小箱をわたしに投げる。
わたしは少し驚いてまばたきを何度か繰り返すと、隆太郎を見つめ返した。
「学校で開けるの禁止な」
ほんと、憎ったらしくなるくらい。
わたしの心をいちいちぐっと掴むようなその笑顔、その仕草、その言葉に。わたしはいつまで惑わされるんだろう。
佐藤美緒、18歳。
今日も変わらず、わたしはこいつ、成瀬隆太郎が大好きだ。
「ちゃんと掴まってろよ」
前方にその問題の坂が見えてきてわたしはぎゅっと隆太郎に抱き付いた。それはもう本当にぎゅっとで、隆太郎がうっと苦しそうに息を漏らした。
この坂を下りさえすればもう学校は目と鼻の先だ。確かに隆太郎が言うとおり近道なのには違いない。
重心が前に移動する。ただでさえ力一杯隆太郎に抱き付いているのに、そのせいでわたしの身体はますます隆太郎に重みを預けた。
「う、……きゃー!」
絶叫。まさしく絶叫だ。
目をつむっているから周りの景色は見えない。びゅんびゅんと風の音が聞こえる。もう何がなんだか分からない。
ただ、感じるのは隆太郎の体温だけだった。
「美緒、生きてるか?」
「は、話しかけないでー。ちゃんと前見ててっ」
「見てるっつーの!」
「いいから話しかけないでっ」
数秒後。
重心が元通りに戻る。相変わらずスピードは速いけれど、だんだんと遅くなっているのは確かだ。そっと瞼を開けると見慣れた景色が視界に入った。学校のすぐ近くだ。
「し、死ななかったー」
わたしは本気で安心して大きく息をついた。前方に背の高い大きなイチョウの木が見える。そこが校門だ。
はあ、ともう一度大きく息をはいて、すっかり精神疲れしてしまったわたしはくたりと隆太郎の背にもたれかかった。隆太郎はそんなわたしを見て呆れたように声を漏らす。
「あんなんで死ぬかよ」
「分かんないでしょー。人生何があるか分かんないんだからー」
「俺の運転は最高だぜ」
「……ばか」
にかっと笑ってそんなことを言う隆太郎は、朝の太陽よりもずっと輝いて見えた。
隆太郎は。
小学校からの腐れ縁であり、きっと誰よりも同じ時を一緒に過ごした――過ごしている人だ。
「あ、そうだ」
自転車を止めて隆太郎がこちらをに向く。
さらさらな茶色の髪に長いまつげ、いたずらっ子のような瞳。どちらかというとかわいい顔立ちをした隆太郎はその口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「誕生日おめでと」
小さな小箱をわたしに投げる。
わたしは少し驚いてまばたきを何度か繰り返すと、隆太郎を見つめ返した。
「学校で開けるの禁止な」
ほんと、憎ったらしくなるくらい。
わたしの心をいちいちぐっと掴むようなその笑顔、その仕草、その言葉に。わたしはいつまで惑わされるんだろう。
佐藤美緒、18歳。
今日も変わらず、わたしはこいつ、成瀬隆太郎が大好きだ。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる