扇風機

たえ

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扇風機

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長い間ここにいる。
中古品として売りに出されてしまった。
私の前を人がよく通るのだが前に居座られたことは記憶にない。
きっと、私は古いタイプの扇風機なのだろう。
恐らく前世は”普通の人間”だと最初は考えていたが、私が長い間売れなかったため、前世を”泥棒をした人間”と考えるようになった。
人々は私の前を流れて横に置いてある、”最新のもの”または、”安価でそれなりに最新のもの”の前に立った。
リモコン付きのものや、縦横関係なく全方向に風を送れるものなど。
中には羽のないものもいた。
「扇がないのに扇風機?」
と皮肉めいたことを考えたが、そんなことを皮肉と考えているのはこの世で私しかいないだろう。
やはりそういった新しいものが早々と売れていった。
ただ値段が安いだけでこれといった機能がない古い私が買われることなどないのだ。
私は運命を悟った。

それからまた時が経った。


私は処分されるらしい。
こうなることは予想していた。
今更怖いなんて感情は湧いてこなかった。
売れなかったことを悲しんだ時期もあったが、そんなことも今ではなくなった。

私は入り口付近の外に運び出された。
数時間後に不良品回収のトラックが来るだろう。
そうなれば私は処分されるだけだ。
久々に見た外の風景を見ながら、来世のことなどを考えていた。
そうしていると、前の方から60代くらいの男が入り口に向かって歩いてきた。
その男性は私の前を通り過ぎたところで足を止めて、私の前に戻ってきた。
男は膝を曲げると考えているような動作を見せた。
数十秒の間、男は私の前にいた。
男は立ち上がって、入り口のドアを押した。
私はこの男に煽られたような感じがした。
外に出された電化製品なんてものは処分される以外に辿る道はないのだ。
そんなことは誰でも分かる。
私は苛立ちはしなかった。

扉が開いた。
中からは先程の男が店員を連れて出てきた。

「これ貰ってもいいですか?」

「もちろんいいですよ。今日処分する予定だったんです。それにしても何故こんな古いも     のを?」

「こういった古いものが好みなんでね。
 味があるじゃないですか?」••••



 
店員と男のやり取りが終わった後、私は男の車の助手席に乗せられた。
私は気分が良かった。
男が私を選んでくれたこと、私が男の役に立てることを考えると高揚した。

やはり前世は”普通の人間”だったのかもしれない。


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