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第42話 非常事態に眠るなんてとんでもないやつ

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 俺の魔法防御の前ではアサルトライフルですら無力と悟った戦闘員たちは全員投降の意を示していた。
 全員武器を捨てさせ、壁を向いて並んで座らせている。
 悪いが、後ろ手に縛らせてもらった。

 そして俺は倒れている多香子を見下ろす。
 多香子の身体にはいくつもの銃創があった。
 血がだらだらと流れ出て、多香子が呼吸するたびにぶしゅ、ぶしゅ、と血が鼻と口から吐き出される。
 血と涙が一緒になって目じりから次から次へと流れ落ちている。
 即死はしなかったようだ、運が良かったなあ。

「……けて……たす……」

 最後の力をふりしぼるように言葉をつむぐ多香子。
 まあ、ほっとけばあと数分で死に至るだろう。
 
 …………。

 ……………………。

 まあなあ。
 こうなった以上、多香子を殺すほどの理由も特にない気もする。
 こっちも魔法で殺されそうになったんだからぶん殴るくらいのことはしてやってもいいけど、よく考えたらサブマシンガンでハチの巣にしてやったんだからぶん殴るのもおまけでなしにしてやってもいいかな?

「……しょうがない、小治癒《ヒール》!」

 俺は一番軽い魔法をかけてやる。

「うーん、ちょい足りないな、もう一回くらいかな? 小治癒《ヒール》! ……いや、もう一回だけ。小治癒《ヒール》!」

 完全回復はさせてやらんが命をつなぐぐらいの治癒魔法はかけてやる。
 出血は止まり、呼吸も楽になったみたいだが、起き上がれるほどではないようだ。
 まあ、いっときは俺が好きだった女だし、よくよく考えてみたらそこまでこいつを恨む筋合いはないような気もしてきたしなあ。
 恨む筋合いがあるとしたら、こっちだ。

 そう。

「次は、西村だな」

 西村は全身を覆う防具を身に着けていた。
 いわゆる、プレートアーマーってやつだ。
 もちろん、ただのプレートアーマーじゃない。
 モンスターを倒した後に出現するアイテムボックスから出現したマジックアイテムのひとつだ。

 モンスターによる特殊攻撃の効果をある程度打ち消すことのできる防具なのだ。
 しかし、それは手りゅう弾による爆発を防ぐことはできなかったようだった。
 手りゅう弾というのは周辺に破片をまき散らしながら爆発する。
 その鋼鉄の破片がいくつも西村のプレートアーマーを貫通して突き刺さっていた。
 面頬はしていなかったので顔の表面の皮膚はやけただれている。
 こいつにも死なれると厄介だ、なにしろミャロの首輪と同じ素材とか言っていたからな、こいつが死ぬとミャロの姉も締め付けられて死ぬのだ。

「うーん、まあしょうがない、小治癒《ヒール》……」

 本当はいやだけれど治療してやる。
 意識は取り戻さないが、とりあえず弱い呼吸はしているな。
 くそ、むかつく顔してやがるぜ。
 さて、あとは……。

「おい、これ見てるやつらで、この首輪? 外せる奴いるか?」

 コメント欄の馬鹿たちに聞いてみる。

〈ミャロちゃん……綺麗だよ……〉
〈ああ、なんという美しい裸体……〉
〈今俺は五回目に入った〉
〈そろそろ賢者になれよ〉
〈俺はすでに賢者タイム〉

「おい、馬鹿ども、聞けこら」

 カメラをぐいっと俺の顔に向ける。

〈あ、ばかっ!〉
〈主の顔でいってしまった〉
〈なんというトラウマトラップ〉

「……お前ら、極限まで馬鹿だな……。猫のモンスターについてるあの革みたいなやつ、どうやったら外せるんだ? お前らいっぱいいるんだから知ってるやついるだろ?」

 なにしろいまや同時接続数が百万にも届こうかというところなのだ。

〈モンスター拘束システムか〉
〈少女のお尻から生えている猫尻尾からしか摂取できない養分がある〉
〈外すパスワードを設定したはずだぞ?〉
〈テイマーとしてパスワードを設定しただろ?〉

「いや、絞め殺すパスワードは聞いたけど……。それに、そもそも姉ちゃんの方のそのモンスター拘束システム? には俺はかかわってないしな……待てよ、ってことは、姉ちゃんの方は……?」

 ちょうどその時、多香子が「うう……」と意識を取り戻したようだった。
 さっそく尋問する。

「おい、多香子、目を覚ましてすぐで悪いけど、ちょっと聞きたいんだけど……」
「…………殺さないで……お願い……」
「うーん、返答次第だなあ。あの白猫のワーキャット、あの子の拘束システムの設定はだれがしたんだ?」
「…………オオカミの空の女の人に言われて、リーダーが設定してたよ……お願い……ごめんなさい……殺さないで……痛い……痛いよ……」
「まあ殺しはしないさ、楽にもさせる気ないけど」

 俺は今度はいまだ虫の息の西村の元へ。

「おーい、起きろー」
「くひゅーくひゅー」

 おっと、西村のやつ、死戦呼吸してるじゃないか、ほっとくと死んじゃうわこれ。

「しょうがねえなあ……小治癒《ヒール》!」

 意地悪な俺は絶対中治癒以上の魔法は使ってやらない。
 こういう奴はなるべく苦しめてやった方が俺の気持ちがすっとするからな。

「う……うう……俺は……どうなった……?」

 西村が意識を取り戻したようだ。
 うん、むかつくなあ。

 ボゴンッ! 

 とりあえず一発殴っておく。
 鼻血をブビャッ! と出して痛みに悶絶する西村。

「おーい、このゴミ野郎、ちょっと聞きたいんだけどさー」
「み、三崎……俺は、ま、負けたのか……?」
「うるせえゴミ」

 ボゴンッ!

 もう一発殴る。
 当たり所がよかったのか、西村はまたも意識を失って、

「ぐがー、ごがー」

 といびきをかいて眠り始めちゃった。
 うーん、この非常事態に眠るなんてとんでもないやつだな。
 鼻の骨がひんまがって不細工なクソハゲがさらに醜い下痢クソハゲになっちまった。
 まあ脳内出血とか起こしてるっぽいし、死んじゃうと俺が殺したことになりそうだから治してやるか。

「小治癒《ヒール》小治癒《ヒール》小治癒《ヒール》小治癒《ヒール》!」

 四回くらいで意識がまた戻ったので、質問を続ける。

「あのさー、西村、お前、あのワーキャットにモンスター拘束システムのパスワード設定したよな? それ教えて」



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