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第12話 オオカミの空
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結論から言うと、9mmパラベラム弾は俺の脳を破壊しなかった。
ただし、頭蓋骨は破壊した。
ほんの数センチ、狙いがずれてくれたのだ。
なぜなら。
「シャーーー! なにするのにゃです!? コーキが死ぬと私も死ぬんですけど⁉」
ミャロだった。
ミャロが、そのワーキャットの反射神経を存分に発揮し、小針浜さんの構えるサブマシンガンに向けて、ミルクを入れていたマグカップを投げつけたのだ。
そのおかげでサブマシンガンの弾丸の軌道がずれてくれたのだ。だからパラベラム弾が俺の脳を貫通する、ということがなかったのだった。
とはいえ、状況はそう変わっていない。
脳に直撃しなかった、というだけで弾丸は俺の側頭部の頭蓋骨を破壊していたのだ。
ローテーブルのおかげで威力が減じたとはいえ、俺の全身にも弾丸が撃ち込まれている。
こうして意識を保っていられるのが奇跡だとしかいえなかった。
「シャーー! このクソ女、どういうことにゃです?」
小針浜さんは冷静な顔でサブマシンガンの銃口を今度はミャロに向ける。そして大きなため息をついて言った。
「あのねえ、あと半年もすればモンスターの地上でのテイムは法律で禁止される。もう与党と野党の合意もできてるし、粛々と法律が制定されて施行されるのを待つだけなの。あなたみたいな危険なモンスターが地上で人間と一緒に暮らすなんて、許されるわけがないでしょう?」
「……いまはまだ合法だって言ってたにゃ」
「違法化に向けて審議が開始されたのはある事件のせいだった」
「は?」
「一年半前、とあるモンスターをとある探索者がテイムして、自宅で飼っていた」
「なんの話を始めたにゃ?」
「そしてそのモンスターは探索者の命令を無視して夜の住宅街にでかけ……とある善良な公務員の家を襲ったわ」
「………………」
「見なさい、これを」
小針浜さんはチュニックワンピースのすそをまくり上げる。
そこには見るも痛々しい傷跡があった。
「私はこれで済んだけど、私の隣人は食い殺された。生まれたころから仲良かった幼馴染の親友だった。モンスターをテイム? 許されるわけないでしょう」
「……日本では銃器を所持するのも許されないはずだが?」
俺が息も絶え絶えに言うと、小針浜さんは笑って言った。
「あの事件以来、私は『オオカミの空』の構成員になった」
オオカミの空。
それは、ダンジョンからとれる資源を諦め、全ダンジョンの出入り口を完全封鎖すべしとの主張をする過激派組織だ。
カリスマ的な指導者が創設し、最初期はほそぼそとしたダンジョン探索反対運動を行っていたのだが、近年、海外の反社会的組織とつながりを持ち始めたとニュースになっていた。
ダンジョンでとれる麻薬依存治療の特効薬の原料となる植物がある。それが流通すると困る外国の麻薬カルテルとつながりをもったのだ。
そこから銃火器を日本に密輸しているという、おそらく今日本で最も危険な組織。
「過激派が公務員かよ……」
「あら、過激なのは私たちじゃなく、何百何千もの犠牲者を出してなお、民間人による探索をやめさせない現行の政府だと思うよ?」
そう言って手早くサブマシンガンのマガジンを交換する小針浜さん。
ここで言い合いをしていてもしかたがない、俺は出血も痛みもひどい、おそらくこのままだと俺は死んでしまう……。
ダンジョン内と違って、地上ではヒールの魔法なんて使えやしないのだ。
「難しいことはわからないですけど、とにかくコーキを死なせるわけにはいかにゃいのです」
ミャロがそう言って体勢を低くして構えを取った。
ただし、頭蓋骨は破壊した。
ほんの数センチ、狙いがずれてくれたのだ。
なぜなら。
「シャーーー! なにするのにゃです!? コーキが死ぬと私も死ぬんですけど⁉」
ミャロだった。
ミャロが、そのワーキャットの反射神経を存分に発揮し、小針浜さんの構えるサブマシンガンに向けて、ミルクを入れていたマグカップを投げつけたのだ。
そのおかげでサブマシンガンの弾丸の軌道がずれてくれたのだ。だからパラベラム弾が俺の脳を貫通する、ということがなかったのだった。
とはいえ、状況はそう変わっていない。
脳に直撃しなかった、というだけで弾丸は俺の側頭部の頭蓋骨を破壊していたのだ。
ローテーブルのおかげで威力が減じたとはいえ、俺の全身にも弾丸が撃ち込まれている。
こうして意識を保っていられるのが奇跡だとしかいえなかった。
「シャーー! このクソ女、どういうことにゃです?」
小針浜さんは冷静な顔でサブマシンガンの銃口を今度はミャロに向ける。そして大きなため息をついて言った。
「あのねえ、あと半年もすればモンスターの地上でのテイムは法律で禁止される。もう与党と野党の合意もできてるし、粛々と法律が制定されて施行されるのを待つだけなの。あなたみたいな危険なモンスターが地上で人間と一緒に暮らすなんて、許されるわけがないでしょう?」
「……いまはまだ合法だって言ってたにゃ」
「違法化に向けて審議が開始されたのはある事件のせいだった」
「は?」
「一年半前、とあるモンスターをとある探索者がテイムして、自宅で飼っていた」
「なんの話を始めたにゃ?」
「そしてそのモンスターは探索者の命令を無視して夜の住宅街にでかけ……とある善良な公務員の家を襲ったわ」
「………………」
「見なさい、これを」
小針浜さんはチュニックワンピースのすそをまくり上げる。
そこには見るも痛々しい傷跡があった。
「私はこれで済んだけど、私の隣人は食い殺された。生まれたころから仲良かった幼馴染の親友だった。モンスターをテイム? 許されるわけないでしょう」
「……日本では銃器を所持するのも許されないはずだが?」
俺が息も絶え絶えに言うと、小針浜さんは笑って言った。
「あの事件以来、私は『オオカミの空』の構成員になった」
オオカミの空。
それは、ダンジョンからとれる資源を諦め、全ダンジョンの出入り口を完全封鎖すべしとの主張をする過激派組織だ。
カリスマ的な指導者が創設し、最初期はほそぼそとしたダンジョン探索反対運動を行っていたのだが、近年、海外の反社会的組織とつながりを持ち始めたとニュースになっていた。
ダンジョンでとれる麻薬依存治療の特効薬の原料となる植物がある。それが流通すると困る外国の麻薬カルテルとつながりをもったのだ。
そこから銃火器を日本に密輸しているという、おそらく今日本で最も危険な組織。
「過激派が公務員かよ……」
「あら、過激なのは私たちじゃなく、何百何千もの犠牲者を出してなお、民間人による探索をやめさせない現行の政府だと思うよ?」
そう言って手早くサブマシンガンのマガジンを交換する小針浜さん。
ここで言い合いをしていてもしかたがない、俺は出血も痛みもひどい、おそらくこのままだと俺は死んでしまう……。
ダンジョン内と違って、地上ではヒールの魔法なんて使えやしないのだ。
「難しいことはわからないですけど、とにかくコーキを死なせるわけにはいかにゃいのです」
ミャロがそう言って体勢を低くして構えを取った。
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