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第2話 大好きだったゲームの世界

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 間違いない。
 俺は十五歳の誕生日に突如記憶を取り戻したのだった。
 かつてブラック企業で社畜をやっていたアラフォーの俺は過労死し、転生してこの世界に赤ん坊として生まれた。
 そして今日この日まで、その記憶をまったく失っていたのだった。

 前世の俺はもちろん俺だし、カルートとして生きた十五年間の人生も俺のものだった。
 なんじゃい、せっかく転生したのに十五年間もその記憶がないまま生きてきてしまった。
 なんか損した気分。

「おじさん、突然変なこと聞くけど……」

「なんだい、カルート?」

「ええと、ここはバルバディア……でいいんだよね?」

「正確には違うね。バルバディア王国は人間の国だからね。魔族である我々にはバルバディア王国の支配が及ばない。バルバディア王国の国境から南に15カルマルト、ここはマルファー地方じゃないか。どうしたんだい、急にわかり切ったことを?」

 やっぱり!
 バルバディア王国、マルファー地方!
 どっちも聞いたことがある!
 ここは、俺が大好きだったゲームの世界だ!

 世界的ヒットを飛ばしたゲーム、【The New Ela Warsザ・ニュー・エラ・ウォーズ Ⅳ Killing Occupationキリング オキュペーション】。
 発売は2000年代中盤。

 人間と亜人と魔族とモンスターが共存するヨーロッパ中世風世界をオープンワールドで実現し、その自由度の高さとメインクエストのストーリーの重厚さ、そしてレベルの高い無数のサブクエストによって人気を博し、全世界で800万本を売り上げた。

 主人公は平和だったこの世界に存在する王国、バルバディアに奴隷として売られてくるところから始まる。

 そこで貴族に奴隷として買われるも、その貴族がクーデターを起こした反乱軍に殺されて奴隷から解放されたところでゲームスタートだ。

 自由度が極めて高く、そこから反乱軍を裏で操っていた大魔王を討伐するメインクエストをやるもよし。

 冒険者ギルドや海賊ギルド、商人ギルドやガードマンギルドや登山ギルド、果てはメイドギルドなんてものまでそろってる質の高いサブクエストをやるもよし。

 ただひたすらモンスターを倒してソロの探索者として鍛え上げ、ダンジョン攻略にいそしむもよし。

 3000人を越える個性的なNPCがプレイヤーを果てなき世界へといざなってくれる。

 なにを隠そう、俺は当時まだ二十歳で、死ぬほどこのゲームをやりこんだのだ。

 で、メインクエストのラスボスとなる大魔王の名前がメロルラーナ・コラトピ・ダイバクローナ。

「はぐはぐはぐ、おいしい、おいしい、おいしーーーーーーー!!!!!」

 今誕生日席に座っている俺を差し置いて自作のケーキをひたすら食いまくってるこの金髪の少女ってわけだ。

 俺の知っている大魔王メロルラーナはたしか、二十歳になったかどうかだったはずだ。
 しかし、目の前のメロはどこからどうみてもまだ子供。
 ってか、十一歳とかいっていたな。
 ということは、今はあのゲームがスタートする五年から十年ほど前、ってことか。

 そして俺の名前、カルート・ミレロパ・ダイバクローナ。
 カルートは大魔王の叔父にして後見人、最強の魔剣の使い手。
 戦争を指揮し、人類を滅亡寸前まで追い詰める。

 ……この俺が?
 アイドルアニメとガールズバンドアニメを好み、ケンカひとつしたこともない平和主義者のこの俺がそうだってのかよ?

「はぐはぐはぐ、おいしー! カルート君……じゃなかった我が叔父よ、はやく食べるがよい! じゃないとこの聖餐がすべて我がにえとなるであろう!」

 そうだ、この数年後、王直属の近衛師団がこの村を襲い、族長であるおじさんやおばさんや同じ部族の人たちを皆殺しにするのだ。
 たまたま生き残ったメロとカルートは大魔王と魔将軍を名乗って戦争へとつきすすむことになる……。

 生まれたばかりの時に流行り病で両親をなくし、孤児となった俺は、まだ赤ん坊のうちに当時族長を引退していたメロの祖父に養子として迎えられた。

 周りの人間は居候として扱うように祖父に言ったらしいが、祖父は優しい人で名実ともに家族の一員とする、という意味をこめて俺を正式な養子としたのだった。

 とはいえ現役の族長(つまりおじさん)の息子ということにすると後継者争いの原因になりかねなかったので、すでに族長を引退していた祖父の息子という形におさまった。

 祖父は病気で数年前に亡くなったが、本当に優しい人だった。

 そんな俺をおじさんとおばさんも自分の子供のようにかわいがってくれて……。
 皆殺し?
 そしてメロ。
 まだ十一歳のこの子が両親を殺された後、憎しみの塊となって世界を巻き込む戦争を起こす……。

「ん? 我が叔父よ、どうしたのだ、あたしがせっかく作ったのに……」
「おっと、悪い悪い、食うよ、食いつくしてやるからな!」

 俺はケーキにフォークをぶっさすと、ぱくりと大口でかぶりついた。

「うめー! メロ、最高にうまいぞ!」
「ほ、ほんとうか? あたしが作ったんだよ! じゃなかった、我が精製したのだわっはっはっは」
「うめー、ほんとうまいわ、メロは天才だな! 料理の天才だ!」
「わっはっはっはっはっ」
 
 俺がケーキを食うのを嬉しそうに見ているかわいい姪っ子を見て俺は思った。

 ――そんなことにはさせない!

 俺は、おじさんとおばさんとメロ、この暖かい家庭をずっと守っていきたい。
 このゲームはかなりやりこんだんだ。
 ゲームシステムもストーリーもすべて把握している。

 戦争なんかには絶対にさせない、おじさんとおばさんを殺させはしないし、メロを復讐の大魔王になんか絶対にしない。

 俺はメロの作った甘すぎるケーキをそれでも口に詰め込みながら、固く決心したのだった。
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