上 下
36 / 51
第四章 最終決戦

第36話 スローモーション

しおりを挟む
 和彦は賢者の杖を投げ捨てた。
 何をするつもりだ?
 しかし、和彦はもうMPも残りわずかだろうし、いかなる魔法道具を使っても肉弾戦で俺に勝てるわけはない。
 司教が、鬼の子孫である俺に、勝てるわけがないのだ。
 俺はずんずんと和彦に近寄っていく。
 攻撃力2280。
 はっきりいって武器などなにもいらない。
 俺はこぶしを振り上げた。

「なにかいうことがあるか、和彦?」
「あるさ。俺たち、ダンジョンでたくさんの魔法道具を手に入れたな?」

 最後の会話か、つきあってやってもいい。

「ああ、そうだな」
「いらないものは売って、必要なものは身に着けた。だけどな、俺が装備している武器は、ダンジョン内で手に入れたものだけでは、ないんだぜ?」
「あ? なにをいって――」

 パン! と大きな音が響いた。
 言いかけた俺の腹に、どでかい穴が開いた。

「は?」

 俺は自分の腹を見た。
 胴体の半分以上がなくなっていた。
 内臓が吹き飛び、骨が見える。
 この状態で自分が立っていられているのが不思議なくらいだ。
 俺が鬼の子孫でなかったら完全な即死だっただろう。

「な、なんだこれ……」

 おいおい、これはやられる悪役のムーブじゃねえか、おい、どうなってる?

「ははは、俺の実家はな、お前も知っている通り、反社会的な組織のトップをやっていて――こういうものも、手に入るんだよ」

 和彦はどでかい拳銃を手に持っていた。

「デザートイーグルだ。ダンジョン内の魔物相手に銃器があまり効果ないのは、初期の自衛隊による探索で皆が知っている通りだが――だがな、こうして人間相手に使う分には、殺傷能力が高いからな。パーティメンバーの裏切りに備えて――または俺自身が裏切るときのために――隠し持ってたのさ」

 デザートイーグルってあれか、ヒグマを殺せるとかいう、規格外のバカでかい拳銃か、それを俺に向けて撃ったのか。

「対人用としてはオーバースペックだが、かっこいいからな、これにしたんだ。ふん、これで即死しないってことは、慎太郎、お前、完全な人間じゃないな。は、肉片を持って帰って調査してもらうさ、それでお前が魔物の一族だと証明できれば、俺の冤罪も晴れる」

 そして和彦は銃口を魔法の効力でいまだ昏睡している桜子に向けた。
「待て、桜子は……」
「殺せるうちに殺しとかないとな」

 そういって、和彦は躊躇なく引き金を引いた。
 バァンッ! と激しい音が響く。

「よせっ!」

 俺は桜子をかばうために手を出す。
 弾丸は俺の腕に直撃した。
 そのおかげで弾丸は桜子に当たらなかったが、俺の右手は肘から下が木っ端みじんになった。
 すげえな、デザートイーグル。
 いやあ、すげえよ和彦。
 こんなもんをダンジョン内に持ち込んでいるとは。

「右手を失ったな。つぎは左手でかばうか、ふふふ」

 そして二発目を桜子に向かって撃った。

「やめっ……」

 反応が遅れた。
 というか、腹に穴が開き、右手を失った俺に、どんな反応がとれるというのか。
 すべてがスローモーションに見えた。
 銃から薬莢が排莢される。。
 ライフリングによって回転する弾丸が桜子に向かっていく。
 あと数十センチで弾丸が桜子の顔面に届く。
 マグナム弾は簡単に桜子の頭部を貫くだろう。
 貫くどころじゃない、桜子は首から上がはじけ飛ぶようにして死ぬだろう。
 心が冷えた。
 どうしようない――。
 あと五十センチ……。
 三十センチ……。
 凶弾が俺の幼馴染の頭を吹き飛ばす、その直前。

「空刃《ラロトー》!!」

 空気の刃が、横から弾丸に直撃した。
 44口径の弾丸はそれだけでは破壊されず、しかし確実に弾道をそらされて、桜子の顔のわずか数センチ横の床にぶち当たった。
 鉛の塊は跳弾して壁に当たり、そこにめり込んだ。砕けた床の破片が桜子の頬を傷つける。

「……和彦君。いっておくけど、君を一番憎んでいるのは、……私だからね」

 長いスカートの、学校の制服姿の少女。
 ほのかさんが、和彦を睨みつけていた。

「危なかった。ぎりぎり覚醒できて助かった……ね、慎太郎君」

 そして、俺に向けて回復魔法を打つ。

「愛よ、わが全身に満ちる愛よ、巡れ、巡れ、巡ってわが宝物の生命をつなぎ留め
よ……快癒《マジー》!! ……さあ、これで二対一ね」



しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件

羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...