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第10話 ケツの下の獣人少女

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 人口百人の村。
 村というより、集落だな。
 ほんとに小さい、村民全員が家族みたいなところだ。
 そこに俺たちを乗せた十五台の竜車がやってきたのだ。

「な、なんだぁぁ~~~⁉ 竜⁉ こんなところになぜ魔族が……?」

 村人たちは大騒ぎしている。
 そこに、俺とカルア、リチェラッテが連れだって竜車から降りてきたのだ。

「……カルア⁉ カルアなのか……?」

 壮年のおっちゃんが驚いた表情でカルアを見ている。

「リチェ⁉ リチェ、あんた魔族に献上されたはずじゃ……」

 こっちはおばちゃんだな。

「お父さん! お父さーん‼」

 カルアがおっちゃんにダッシュして抱き着く。

「あ、ママ、ただいまー」

 のんびりとそう言うリチェラッテ。
 一人のじいさんが前に出てきて言った。

「なんじゃこれは? あなたは……?」
「俺は東雲和哉。人類史上最強にして最良のニンジャと呼ばれた男」
「ニンジャ……とはいったい……? 私はこの村の村長じゃ。事の次第をお聞かせ願いたい」

     ★

「いやー、よくやってくれたよ。もう娘には二度と会えないと思ってたんだ。がはは。シノノメさん、あんた酒は飲めるかね?」

 カルアの父親が俺に酒をすすめてくる。
 目の前には山菜を煮たやつ、おつまみかな?
 キノコもあるなあ。
 酒……キノコ……うっ、頭が……!

「いただきます」

 そうは言ってもお酒は大好きだからな。
 二十歳で酒の味を覚えて以来この四年間、ダンジョン探索以外の日は毎日飲み続けてたんだ俺は。
すすめられたのは陶器のコップ、そこに透明な酒が入っている。
 うむ、これは強そうだな、躊躇なく一気に喉に流し込むと――。

 くわーーーっ!

 やっぱり、これは蒸留酒だ、やったぜ。
 度数でいうと四十度くらいかな、余計な香りのない、焼酎に似た味わい。
 うんうん、やっぱりアルコールのために生きているところもあるからなー、俺。
 そのせいで酔っぱらって毒キノコの毒ごときで死んじゃったんだけど。
 俺クラスのニンジャがあのくらいの毒で死ぬわけないんだけど、やはり酒ってのはおそろしいもんだ。

 しかし、おそろしいものほど楽しいものもない。
 俺はぐいぐいと酒を飲み続ける。

「いやー、いい飲みっぷりだねー! さすがはあのアルティーナをやっつけただけの男だ! ほんと、もう、娘には会えないかと……。今頃どんなひどい目にあっているのかと思うと、夜も眠れなくて……うう……あんたのおかげだ、こうして娘の顔を見ながら飲む酒以上にうまいもんはない! さあさあ、いくらでも飲んでくれよ! あんたは娘の命の恩人だ!」

 カルアの父親はどんどん俺に酒をすすめてくる、遠慮なしにそれをガブガブ飲む俺。

「本当に、ありがとうございます。リチェラッテはこんな娘ですが、大切に育ててきたんです。あなたのおかげで、私も生きる希望が湧いてきました。魔族どもにいいようにもてあそばれてかわいそうに、かわいそうな目に合わせたと、私もあとを追って死のうとまで思っていたのに……。あなたのおかげで、またリチェの顔を見られました。本当に、本当にありがとうございます」

 母親が頭を下げているのが恥ずかしいのか、リチェラッテは、

「やめてよママ、恥ずかしいしさー……」

 とか言っている。
 魔族が爪を剥がれて拷問されているときに大喜びしていたこのサイコパス娘にも恥ずかしいって感情があるんだなー。
 ま、俺は親に愛された記憶がいっさいないので、こういう親子愛ってよくわからんけどな。
 そういうもんなんだろうな。

「やり方がちょっと怖いと思ったのは本当です。でも、カズヤ様のおかげで私は助かったんですもんね……。改めまして、カズヤ様、ありがとうございます」

 ポニーテールを揺らして俺に頭を下げるカルア。

「あははー、いやほんとにありがとね、カズヤ。君がいなかったら今頃魔族にひどいことされてたよー、あははー、ありがと」

 にっこりと俺に笑顔で礼を言うショートカットの美少女リチェラッテ。
 こいつ、見た目が透明感のある超絶美少女なのに、エキセントリックな中身をしているので俺のお気に入りだ。
 俺が奪還してきた人間の女の子たちも村のみんなにごちそうをふるまわれている。

「でも、魔族どもにひどい目にあわされた割にはみんな顔色がいいなあ。お前ら、魔族にいいように扱われていたんだろ?」

 俺がそう尋ねると、女の子たちは顔を見合わせ、

「まあ、それなりに苦労はありましたけど……。ねえ? 慣れてしまえばわりと……」
「え、そうなのか、お前ら、あれだろ、無理やり子供を孕まされてるんだろ?」

 すると女の子たちの中でも若い子が、

「そうですよね? 私はまだですけど、いずれ私も魔族の子供を産まなきゃいけなかったところなんですよね?」

 と年かさの女に聞く。
 すると、聞かれた女の方は驚くべき言葉を放った。

「ええ、そういう噂だったけど、そんなことはなかったわよ? ああ、あなたは来たばっかりだから噂を信じているのね。なんか、人間たちに魔族を恐れさせるためにそういう噂を流していたそうだけど、あの城に連れていかれてからは普通にごはんの支度や掃除とかいろいろ雑用させられていたわ……。あそこにいる魔族って体臭が強いのが多かったから、洗濯が特に大変だったわね。魔族はほら、力はあるから力仕事は得意なんだけど、そういう細かい仕事は苦手らしくて……」

 ん?
 なんか、聞いてた話と違うぞ?

「じゃあ、子供を産めなくなったら食われるとかは?」
「子供を産まされること自体が嘘だし、戦争になったらそういうこともあるらしいけど、私たちは普通に労働力として使われてたから食われた人なんて聞いたこともないわ。あ、普通に魔族と恋愛して子供産んでた娘はわりといたけど、あれは自由恋愛よねえ……」

 んん?
 なんだか雲行きが怪しいな……。

「アルティーナ様はよく言っていたわ、最近人間の奴隷を買うにも値上げされたから大変だとか、お前らの司祭はろくでなしだなとか……」

 んんんんん?
 献上ではなく、売買だってのか?

「でも、一度魔族に献上させられたら帰ってこれないとかなんだろ?」

 カルアの父親が聞くが、

「私たちは買われた身らしいので、逃げられると大損だから里帰りはほとんど許されませんでしたわ……。里心がつくと悪いからって手紙も禁止で。それは嫌なところだったけど、でももともと私たちはほとんどが食うに困るような貧乏な家の娘ですもの、町で売春して暮らすのに比べたらよっぽどマシでしたわよ。そりゃ待遇としては下働き相応のあんまりよくない環境でしたけど、奴隷とか売春婦よりはよっぽどマシだと私は思ってましたわ」

 これは……いやーな匂いがするぜ……。
 俺はケツの下の獣人少女のケツを叩いた。
 この飲み会の最中、俺は獣人のファモーを四つん這いにさせて椅子にしていたのだ。大事な人質だからな、奪還されたらかなわんから常に俺の近くにいさせているのだ。

「おい、なんか聞いてた話と違うぞ、どういうことだ?」
「……組織を一からつくるのは大変、カズヤ、あんたの言葉よ?」

 ケモ耳をピクピクさせながら椅子がそう喋った。人質で椅子のくせに言葉遣いが生意気な奴だ。

「これ以上はアルティーナ様の許可がなければ私も喋れないわよ。町に行って、その目と耳で確かめればいいんじゃない?」



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