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第六章 帝都奪還
96 アリビーナ
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馬車一台が通れるかどうかの抜け道。
そこを俺たちは馬車でひた走っていた。
ラータが用意した馬車、御者は別に雇い、客車部分に俺とキッサ、シュシュ、夜伽三十五番。
そしてもう一人の人物が乗っていた。
護衛兼いざというときのための法力補充要員。
ラータが指名した人物だ。
無造作に束ねた赤い髪、緑色の瞳。
体格は俺より少し身長が低いくらい、今はぼろぼろの粗末な奴隷の服を着ている。
顔立ちについて言えば、いわゆるスラブ系だ。
言うまでもないがアホみたいに美人。
スラブ系、つまりロシア人女性ってたいてい美形ばっかりだよな。
男と言えばプーチンの顔が思い浮かぶけど。
「緊張しますね」
震える声で彼女が言った。
「しかし、あのエージ卿と一緒に作戦に参加できるなど、これ以上ない光栄です。軍人として、これ以上ない誉れです」
「いやいや、それほどでもないよ、アリビーナ」
俺がそう言うと、
「いいえ! この第八等従士、アリビーナ・イサーエヴナ・カラスニコバ、まだ士官学校を出たばかりの准士官の私が、異世界より蘇りし伝説の戦士、エージ・アルゼリオン・タナカ卿とご一緒できるなんて! なんたる……なんたる幸せ!」
うーん、そこまで崇拝されてもなあ。
なんだか俺を慕っている部活の後輩、みたいな感じで悪い気はしないが。
っていうか、異世界より蘇りし、ってちょっと大げさっぽくないか?
「私は士官学校の成績こそほどほどでしたが、剣を使った実践となるとからっきしで……。本当に私などで務まるのでしょうか?」
「うん、今回は奴隷商人と売り物の奴隷、という形で潜入するからさ。奴隷に帯剣させるわけにもいかないし、剣なんてつかえなくていいと思うぞ」
と俺は言った。
実際その通りで、この世界では奴隷に武器なんてもたせないのが普通だそうだ。
ましてや売り物の奴隷となるとなおさらだ。
ので、ラータは俺の能力も鑑みて、配下の中でもっとも法力の保有量が多く、もっとも近接肉体格闘に向いている人物――アリビーナを選んだのだ。
「このわたくしアリビーナ、剣はまったくダメですが、拳を!」
ぎゅっと握りこぶしをつくるアリビーナ。
「この拳に込めた一撃だけは誰にも負けないつもりです! 直接攻撃が当たらないと私の場合法力が発動しないのが難ですが……しかし! 当たりさえすれば! 巨大な岩だろうが城壁だろうが簡単に崩してみせましょう!」
こいつ、自分で説明しやがったが、要はそういうことだ。
アリビーナの法術は自分の拳と足に法力をこめ、それで対象物を殴ったり蹴ったりすることで発動する。
近接格闘術そのものにも自信があるみたいで、士官学校内での大会でも優勝しているらしい。
剣を持たせられない以上、殴り合うような近接格闘向きの人選というわけだ。
「じゃあ、改めて作戦を説明するぞ」
「はい!」
俺たちは馬車の中で車座になる。
「まず、俺たちは奴隷商人として帝都に入る――」
「がまんがまん」
「そしてなんとかして、帝城の中まで侵入することを目指す。今帝城では焼け落ちた帝宮の再建で人が集められている。人手は少しでもほしいはずだ」
「パン肉肉お芋かぼちゃとうもろこしお魚……がまんがまん」
「そこで俺たちはそこに奴隷を売りに行くふりをする。そこで情報収集だ。一番大事なのは今現在のセラフィ殿下の居場所。ところがこれについてはほぼ絞れているんだ」
「がまんだよーがまんだよー私がまんするんだよー」
「帝城のマゼグロンタワー。その中の一室で、ほぼ監禁状態に置かれているらしい。ラータ将軍閣下が潜りこませておいたスパイや、敵側に今はついているけど俺たちと内通している内通者、それにプネルたちの情報をあわせても間違いない。反乱軍の会議もほぼそこで行われている」
「がまんーがまんーが、まんーが、まんーが……あれ?」
「近日中にラータ将軍とヴェル卿はヘンナマリに決戦を挑む。当然なにがなんでも勝たなければならない。でも勝ったとしてもセラフィ殿下を連れて逃げられでもしたら、反乱は長引いて泥沼になることも考えられる」
「まんがまんがまんがまんが」
「だー! うるさいなーもー」
言うまでもないが、シュシュがお腹を減らしているのだ。
つい一時間前にたくさん肉とパンを食べてたくせに。
食に対するあまりの貪欲さにさっき俺が叱ってやったんだけど、それでかなり反省したらしく、こうして食欲を我慢してるらしい。
意識的にか無意識的にか口に出してしまってるんだけどな!
まだ九歳なんだから別にいくら食べても構わないとは思うけれど、さすがにシュシュの場合は限度を超えてる気がする。
うーん、でもなあ。
九歳の成長期だしなあ。
キッサは妹の食欲に恥ずかしさを覚えたのか、顔を赤くして俯いちゃってる。
うーんうーん、食わせていいものかどうか……。
肥満させるのもよくないし……。
俺の迷いを見ぬいたのか、
「シュシュ、これを食べるといい」
赤髪緑目のアリビーナがそう言ってパンを渡した。
「おいアリビーナ、あんまり甘やかすなよ」
「いいえ、エージ卿。子供は世界の宝なのです。子供たちがいなければ国も成り立たず、軍隊もなりたたないのです。子供に食べたいだけ食べ物を食べさせたいからこそ、国は戦争を行うようなものです」
ま、間違ってはいない。
「ただ……」
アリビーナは眉を潜める。
「たしかに、私から見てもこの食欲は異常だと思います。食べる量に比べて成長してるようにも見えませんし……。私の母の故郷の伝承で、似たような事例を知っています。まさかとは思いますが」
「ん? 伝承? それは?」
「いやいやいや、エージ卿、ただの伝承ですよ。天に選ばれた子供は……」
と、その時、急に馬車が急ブレーキをかけて止まった。
ガクン、と馬車全体が揺れ、俺たちはみんな転がりそうになる。
アリビーナだけはさすが鍛えているだけあってまったく動じてなかったが。
と、御者が馬車の中に駆け込んできた。
「ひぃぃい! の、野良のフ、フルヤコイラの群れです! だから嫌だったんですよこんな細い道を行くのは……。五匹はいますぜ、ど、どうします?」
フルヤコイラってのはあの馬並の大きさをした、六本足の犬の魔獣だな。
どうしますもなにも、フルヤコイラ程度、俺の能力で瞬殺だ。
やれやれ、仕方がない、ちょっと片付けてくるか。
俺が立ち上がろうとするのを、アリビーナが押し留めた。
「お待ち下さい。エージ卿が出るまでもありません。私におまかせを」
そこを俺たちは馬車でひた走っていた。
ラータが用意した馬車、御者は別に雇い、客車部分に俺とキッサ、シュシュ、夜伽三十五番。
そしてもう一人の人物が乗っていた。
護衛兼いざというときのための法力補充要員。
ラータが指名した人物だ。
無造作に束ねた赤い髪、緑色の瞳。
体格は俺より少し身長が低いくらい、今はぼろぼろの粗末な奴隷の服を着ている。
顔立ちについて言えば、いわゆるスラブ系だ。
言うまでもないがアホみたいに美人。
スラブ系、つまりロシア人女性ってたいてい美形ばっかりだよな。
男と言えばプーチンの顔が思い浮かぶけど。
「緊張しますね」
震える声で彼女が言った。
「しかし、あのエージ卿と一緒に作戦に参加できるなど、これ以上ない光栄です。軍人として、これ以上ない誉れです」
「いやいや、それほどでもないよ、アリビーナ」
俺がそう言うと、
「いいえ! この第八等従士、アリビーナ・イサーエヴナ・カラスニコバ、まだ士官学校を出たばかりの准士官の私が、異世界より蘇りし伝説の戦士、エージ・アルゼリオン・タナカ卿とご一緒できるなんて! なんたる……なんたる幸せ!」
うーん、そこまで崇拝されてもなあ。
なんだか俺を慕っている部活の後輩、みたいな感じで悪い気はしないが。
っていうか、異世界より蘇りし、ってちょっと大げさっぽくないか?
「私は士官学校の成績こそほどほどでしたが、剣を使った実践となるとからっきしで……。本当に私などで務まるのでしょうか?」
「うん、今回は奴隷商人と売り物の奴隷、という形で潜入するからさ。奴隷に帯剣させるわけにもいかないし、剣なんてつかえなくていいと思うぞ」
と俺は言った。
実際その通りで、この世界では奴隷に武器なんてもたせないのが普通だそうだ。
ましてや売り物の奴隷となるとなおさらだ。
ので、ラータは俺の能力も鑑みて、配下の中でもっとも法力の保有量が多く、もっとも近接肉体格闘に向いている人物――アリビーナを選んだのだ。
「このわたくしアリビーナ、剣はまったくダメですが、拳を!」
ぎゅっと握りこぶしをつくるアリビーナ。
「この拳に込めた一撃だけは誰にも負けないつもりです! 直接攻撃が当たらないと私の場合法力が発動しないのが難ですが……しかし! 当たりさえすれば! 巨大な岩だろうが城壁だろうが簡単に崩してみせましょう!」
こいつ、自分で説明しやがったが、要はそういうことだ。
アリビーナの法術は自分の拳と足に法力をこめ、それで対象物を殴ったり蹴ったりすることで発動する。
近接格闘術そのものにも自信があるみたいで、士官学校内での大会でも優勝しているらしい。
剣を持たせられない以上、殴り合うような近接格闘向きの人選というわけだ。
「じゃあ、改めて作戦を説明するぞ」
「はい!」
俺たちは馬車の中で車座になる。
「まず、俺たちは奴隷商人として帝都に入る――」
「がまんがまん」
「そしてなんとかして、帝城の中まで侵入することを目指す。今帝城では焼け落ちた帝宮の再建で人が集められている。人手は少しでもほしいはずだ」
「パン肉肉お芋かぼちゃとうもろこしお魚……がまんがまん」
「そこで俺たちはそこに奴隷を売りに行くふりをする。そこで情報収集だ。一番大事なのは今現在のセラフィ殿下の居場所。ところがこれについてはほぼ絞れているんだ」
「がまんだよーがまんだよー私がまんするんだよー」
「帝城のマゼグロンタワー。その中の一室で、ほぼ監禁状態に置かれているらしい。ラータ将軍閣下が潜りこませておいたスパイや、敵側に今はついているけど俺たちと内通している内通者、それにプネルたちの情報をあわせても間違いない。反乱軍の会議もほぼそこで行われている」
「がまんーがまんーが、まんーが、まんーが……あれ?」
「近日中にラータ将軍とヴェル卿はヘンナマリに決戦を挑む。当然なにがなんでも勝たなければならない。でも勝ったとしてもセラフィ殿下を連れて逃げられでもしたら、反乱は長引いて泥沼になることも考えられる」
「まんがまんがまんがまんが」
「だー! うるさいなーもー」
言うまでもないが、シュシュがお腹を減らしているのだ。
つい一時間前にたくさん肉とパンを食べてたくせに。
食に対するあまりの貪欲さにさっき俺が叱ってやったんだけど、それでかなり反省したらしく、こうして食欲を我慢してるらしい。
意識的にか無意識的にか口に出してしまってるんだけどな!
まだ九歳なんだから別にいくら食べても構わないとは思うけれど、さすがにシュシュの場合は限度を超えてる気がする。
うーん、でもなあ。
九歳の成長期だしなあ。
キッサは妹の食欲に恥ずかしさを覚えたのか、顔を赤くして俯いちゃってる。
うーんうーん、食わせていいものかどうか……。
肥満させるのもよくないし……。
俺の迷いを見ぬいたのか、
「シュシュ、これを食べるといい」
赤髪緑目のアリビーナがそう言ってパンを渡した。
「おいアリビーナ、あんまり甘やかすなよ」
「いいえ、エージ卿。子供は世界の宝なのです。子供たちがいなければ国も成り立たず、軍隊もなりたたないのです。子供に食べたいだけ食べ物を食べさせたいからこそ、国は戦争を行うようなものです」
ま、間違ってはいない。
「ただ……」
アリビーナは眉を潜める。
「たしかに、私から見てもこの食欲は異常だと思います。食べる量に比べて成長してるようにも見えませんし……。私の母の故郷の伝承で、似たような事例を知っています。まさかとは思いますが」
「ん? 伝承? それは?」
「いやいやいや、エージ卿、ただの伝承ですよ。天に選ばれた子供は……」
と、その時、急に馬車が急ブレーキをかけて止まった。
ガクン、と馬車全体が揺れ、俺たちはみんな転がりそうになる。
アリビーナだけはさすが鍛えているだけあってまったく動じてなかったが。
と、御者が馬車の中に駆け込んできた。
「ひぃぃい! の、野良のフ、フルヤコイラの群れです! だから嫌だったんですよこんな細い道を行くのは……。五匹はいますぜ、ど、どうします?」
フルヤコイラってのはあの馬並の大きさをした、六本足の犬の魔獣だな。
どうしますもなにも、フルヤコイラ程度、俺の能力で瞬殺だ。
やれやれ、仕方がない、ちょっと片付けてくるか。
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