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第二章 サソリの毒針
33 ゾルンバード
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俺たちはヘルッタの家から飛び出す。
空を飛ぶ魔物の群れはすぐそこまで来ていた。
ヴェルとリューシアが戦闘しているのは少し離れた場所だ。
ヴェルの剣が炎を上げ、リューシアの尾がムチのようにしなる。
はっきりいって、近づける雰囲気ではない。
それよりも、俺たちが相手にすべきは魔物どもだ。
ミーシアはヘルッタの家に隠れている。
そこからなるべく離れ、魔物を俺たちの方へと誘導する。
集落の人々はもう逃げ出し始めていた。
でも万が一にでも被害を出したくなかったので、流れ弾――ヴェルの火球が当たって防壁が崩れたところから外へと出た。
広々とした小麦畑。
鮮やかな緑色の小麦は、ひざ下のあたりの高さだ。
うーん、これは広すぎるかもな。
ここまで遮蔽物がないと、いい的にしかならないような気がする。
しかしある程度目立つところにいないとミーシアを匿うためのおとりにならないしな。
ん?
「おいシュシュ、お前それ……」
「うん、お兄ちゃん、お兄ちゃんはこれで闘うんでしょ? 私、持ってきてあげたんだ!」
褒めて褒めて、と言わんばかりの妹奴隷のシュシュ。
彼女が持っているのは、俺の営業カバンだった。
いやだからそれ武器じゃないから!
「ああそうよねシュシュ、私忘れてたわ。よくやったわね。その武器はこの私を一撃で昏倒に至らしめるほどの接近戦用武具なのよ」
そして妹を褒める姉奴隷キッサ。
だ、か、ら、武器じゃねーって!
キッサと闘った時は、振り回したらほんとにたまたまヒットしただけだっていうの!
あーもうめんどくせえな、まあいい、書類が入っている分厚いカバンだから、盾の代わりにはなるかもしれん。
などと思ってると、突然、キッサが俺に抱きついてきた。
「おわっ、なんだよ!?」
むにゅう、とIカップの柔らかなバストが俺に押し当てられる。
うはっ。
顎の力が抜けるほど気持ちいい!
キッサが俺に顔を近づけてくる。
まるでキスしようとしているかのようだ。
真剣な顔で、赤い瞳をじっと俺に向けている。
白髪の少女の甘い吐息を感じた。
「……エージ様、私から離れないで下さい。法術障壁を展開しました……が、本来私の得意とする法術ではありません。というかかなり不得意です。無理してやっています。……私の半径一マルトだけが障壁の有効範囲なんです。エージ様、それにシュシュ、常に私の身体に触れる距離にいてください」
「それは、どのくらいの攻撃を防げるんだ?」
「ステンベルギの攻撃程度なら何度かは防げるかもしれませんが、飛竜の吐く炎は……直撃なら絶対に防げないと思います」
なるほどね。
キッサは本来遠視や透視の能力者だけど、不得意な法術も使えないことはないってことか。
しかし不得意なだけあって、障壁の範囲はわずか半径一メートル。
得意としているなら宮廷法術士がマゼグロンタワーから展開してたという、帝都を覆うほどの障壁も作れるんだろうけど。
まあ、仕方がない、今持っている武器だけで闘わなきゃいけないのだ。
俺たちの真上で、魔物どもが旋回しつつ飛び回っている。
始祖鳥に似た魔獣、ゾルンバードと、そしてステンベルギ。
さらに、二匹の飛竜。
飛竜は、少し離れたところを飛び回っている。
様子見をしているんだろうか?
それにしても飛竜ってやつはでかすぎる、翼の端から端までで数十メートルはありそうだ。
遠くにいるはずなのに、そのあまりの大きさのせいで遠近感が狂いそうだ。
「飛竜は人間並みの知能を持つといいます……。ひとまず配下の魔物に攻撃させて、私達の力を見ようとしているのかもしれません」
「まじか、あいつ頭いいのかよ……」
ま、でも、一匹倒すのに千人の討伐隊が必要だったという飛竜が、今はまだ俺たちに攻撃してくるつもりがないというのには少し安心した。
空を飛ぶ魔物の群れはすぐそこまで来ていた。
ヴェルとリューシアが戦闘しているのは少し離れた場所だ。
ヴェルの剣が炎を上げ、リューシアの尾がムチのようにしなる。
はっきりいって、近づける雰囲気ではない。
それよりも、俺たちが相手にすべきは魔物どもだ。
ミーシアはヘルッタの家に隠れている。
そこからなるべく離れ、魔物を俺たちの方へと誘導する。
集落の人々はもう逃げ出し始めていた。
でも万が一にでも被害を出したくなかったので、流れ弾――ヴェルの火球が当たって防壁が崩れたところから外へと出た。
広々とした小麦畑。
鮮やかな緑色の小麦は、ひざ下のあたりの高さだ。
うーん、これは広すぎるかもな。
ここまで遮蔽物がないと、いい的にしかならないような気がする。
しかしある程度目立つところにいないとミーシアを匿うためのおとりにならないしな。
ん?
「おいシュシュ、お前それ……」
「うん、お兄ちゃん、お兄ちゃんはこれで闘うんでしょ? 私、持ってきてあげたんだ!」
褒めて褒めて、と言わんばかりの妹奴隷のシュシュ。
彼女が持っているのは、俺の営業カバンだった。
いやだからそれ武器じゃないから!
「ああそうよねシュシュ、私忘れてたわ。よくやったわね。その武器はこの私を一撃で昏倒に至らしめるほどの接近戦用武具なのよ」
そして妹を褒める姉奴隷キッサ。
だ、か、ら、武器じゃねーって!
キッサと闘った時は、振り回したらほんとにたまたまヒットしただけだっていうの!
あーもうめんどくせえな、まあいい、書類が入っている分厚いカバンだから、盾の代わりにはなるかもしれん。
などと思ってると、突然、キッサが俺に抱きついてきた。
「おわっ、なんだよ!?」
むにゅう、とIカップの柔らかなバストが俺に押し当てられる。
うはっ。
顎の力が抜けるほど気持ちいい!
キッサが俺に顔を近づけてくる。
まるでキスしようとしているかのようだ。
真剣な顔で、赤い瞳をじっと俺に向けている。
白髪の少女の甘い吐息を感じた。
「……エージ様、私から離れないで下さい。法術障壁を展開しました……が、本来私の得意とする法術ではありません。というかかなり不得意です。無理してやっています。……私の半径一マルトだけが障壁の有効範囲なんです。エージ様、それにシュシュ、常に私の身体に触れる距離にいてください」
「それは、どのくらいの攻撃を防げるんだ?」
「ステンベルギの攻撃程度なら何度かは防げるかもしれませんが、飛竜の吐く炎は……直撃なら絶対に防げないと思います」
なるほどね。
キッサは本来遠視や透視の能力者だけど、不得意な法術も使えないことはないってことか。
しかし不得意なだけあって、障壁の範囲はわずか半径一メートル。
得意としているなら宮廷法術士がマゼグロンタワーから展開してたという、帝都を覆うほどの障壁も作れるんだろうけど。
まあ、仕方がない、今持っている武器だけで闘わなきゃいけないのだ。
俺たちの真上で、魔物どもが旋回しつつ飛び回っている。
始祖鳥に似た魔獣、ゾルンバードと、そしてステンベルギ。
さらに、二匹の飛竜。
飛竜は、少し離れたところを飛び回っている。
様子見をしているんだろうか?
それにしても飛竜ってやつはでかすぎる、翼の端から端までで数十メートルはありそうだ。
遠くにいるはずなのに、そのあまりの大きさのせいで遠近感が狂いそうだ。
「飛竜は人間並みの知能を持つといいます……。ひとまず配下の魔物に攻撃させて、私達の力を見ようとしているのかもしれません」
「まじか、あいつ頭いいのかよ……」
ま、でも、一匹倒すのに千人の討伐隊が必要だったという飛竜が、今はまだ俺たちに攻撃してくるつもりがないというのには少し安心した。
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