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第一章 流星は帝都を覆う

7 サイン

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 晩餐会に、俺は参加できなかった。

 俺の蘇生成功を祝う会のはずなのに、その俺が無視だ。

 どうやら、俺がもらった身分では参加できないらしかった。

 本来皇帝陛下に謁見するには第五等以上の身分が必要らしい。

 俺は第八等とかいってたな、それってどのくらいの身分なんだろう?

 まあ、あんまり気詰まりな宴会には出たくないからいいけどさ。


「で、俺の晩飯はこれか……うまいけど」


 聞いた話によると、俺が蘇生された場所、つまり玉座の間がある宮殿は首都にある帝城の中にあるそうだ。

 その帝城の中、ヴェルのために用意された部屋で俺はパンをかじる。

 そこにあったのは皿に山盛りになっている焼きたての白いパンと、風味豊かなバター、そしてなんの肉かわからんが何かの肉を焼いて薄切りにしたもの。ローストビーフに似ているけど、食べてみると牛肉よりも風味が強い。決してまずくはない、というかうまい。

 部屋の中を見回す。

 さすがに玉座の間のような豪華さはないが、貴族のための部屋らしく綺麗な装飾がほどこされていて、もともと六畳一間のアパートに住んでいた俺にしてみると少し居心地が悪い。

 広さは二十畳くらいだろうか、今はそんな季節ではないのか火は入っていないけど暖炉もしつらえてある。

 この部屋の他に寝室とドレッシングルーム、バスルームもついていて、どれもなかなか高価そうなつくりをしている。

 窓は広く、遠く地平線に沈んでいく太陽が見えた。

 広がる町並みは高い城壁にかこまれていてここが城塞都市であることがわかる。

 なかなかの景色だ。

 聞けば、ヴェルは地方に領地を持ついわゆる封建領主らしい。

 地方貴族が帝城にいる間の仮住まいとして、それらしい部屋だと思った。

 近くには付き人や護衛兵の為の部屋もそれぞれ用意してあるそうだ。

 普通は俺もそちらにいるべきなのだろう。

 だけど、今回ヴェルは護衛を一人だけしか連れてきていないらしい。

 その護衛もヴェルと一緒に晩餐会に出ているようだ。

 そんなわけで、ヴェルの従者となった俺はとりあえず留守番ということでここにいるのだった。

 テーブルにのった皿からパンを一つつまんでかじりつく。


「……うまいな、これ……。バターも、これ、牛乳じゃないよな……なんの乳だろ。まあ、なんにしてもうまい」


 初めて食べる異世界の食い物はどれもこれもびっくりするほどうまい。

 なにせ、八王子にいたころは毎日納豆ごはんだったからな。

 食事をしながらそうやって一人でくつろいでいると、部屋の中にカン、カン、と大きな音が響いた。

 呼び鈴代わりに取り付けられたドアノックが鳴ったのだ。

 ドアを開けるとそこには一人の衛兵(やっぱり女だ!)がいた。

 長弓を背負い、剣を佩いている。

 その衛兵は俺に向かって敬礼をする。

 っていうか、敬礼の仕方は地球とそんなに変わらないんだな。


「宮廷法術士様による首輪の拘束術式が完成いたしました。日没には効果が発揮されるだろうのことです。それまでに引き渡すようにとのこと、こちらに受け取りのサインをお願いします」


 差し出されたのは見慣れぬ文字が書かれた薄い板と彫刻刀のようなもの。

 衛兵が板の上の空白となっている部分を指で指し示す。

 ここに名前を彫れ、ということらしい。

 少し考えたあと、日本語で、


『田中鋭史』


 とサインする。

 板は柔らかく彫刻刀ペンは鋭くて、ボールペンと同じ程度の力で簡単に文字が彫れた。

 衛兵は俺のサインを珍しいものを見る目で眺めたあと、


「ではお引き渡しいたします」


 先っぽが輪っかになった紐を二本、俺に渡してくる。

 犬をつなぐリードそっくりというか、そのものだ。

 その紐はドアの向こうまで続いていて、ちょっとひっぱると、


「うぐっ」

「いたっ」


 と、二人の少女らしき悲鳴が聞こえた。

 あ、ごめん。

 やっぱりそういうことだよね、うん、わかってた。


「もうひとつ、伝言がございます」


 衛兵が言う。


「ヴェル・ア・レイラ・イアリー卿におかれましては、本日、晩餐会に出席されており、夜明けまで皇宮にて陛下と語りあいたい、つきましてはこの居室に戻るのは明日の朝以降になるとのことです。それまでなるべく外出されることのなきようにとの伝言を預かっております」

「ああ、うん、わかりました」


 衛兵は再び敬礼をする。

 俺が軍人だというなら敬礼を返すべきところだろうが、俺は自分の立場がまだよくわかっていないので、あいまいに頷いて返した。

 衛兵が去ったあと、俺は手元に残った二本の紐を見る。

 うーん。

 ドアの影になったところから、人間二人分の息遣いが聞こえる。

 うーん。どうしよう。

 でも、しょうがないよね、うん。

 俺はその紐を、そっと引っ張った。

 少し手応えがあったのち、俺の目の前に二人の少女が現れた。

 ……裸で。
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