借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓

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第78話 赤ちゃんに戻っちゃう

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 オレンジスライムのライムはどんどんと俺たちに懐いてくる。
 ひたすら敵と戦い続けるすさんだダンジョン探索生活に、ライムの存在は間違いないく大きな癒しとなってくれた。
 そして、一つの大発見をした。
 基本的に、今回の探索において俺たちは寝具を持ってきていない。
 寝袋すらなく、寝るときは地面に直接横になるわけだ。
 一応風呂敷は敷くんだけど、そうはいってもダンジョンの床は固いし冷たいしで、体力を完全に回復させるってのは難しい。
 ところがあるとき。
 紗哩シャーリーが半ばふざけて、スライムの上に覆いかぶさるようにして横になったのだ。

「ふはぁぁぁ~~~~! これ、人間を駄目にするスライムだぁ~~~~」

 なにしろふわふわであったかくて女性の胸と同じ柔らかさだというのだ。
 それをベッド代わりにして寝ると、最強の回復効果。
 やべーな、俺も試してみたけどさ、どう考えても気持ちよくないわけがなかった。
 こんなの、こんなの……。
 赤ちゃんに戻っちゃうぜ!
 そんなこんなで実に素晴らしいベッドを手に入れた俺たちは、さらに探索をすすめる。
 そしてついに、地下十二階へと到達することになった。

     ★

 亀貝ダンジョン。それはSSS級の最難関ダンジョンであり、もちろんここまで到達して生還した人間は皆無である。
 その深層階、地下十二階へ、俺たちはついにたどりついたのだ。
 その景色を見たとき、素直にいって、俺はぞっとした。
 こんなことってあるのか?
 以前攻略した地下九階は一面の花畑だった。
 この先もそういう階層があるかもしれないとは思っていたけど。
 今俺たちの眼前に広がるのは――。
 とてつもなく広い、湖だった。
 霧で向こう側まではとても見通せないほどの広さ。
 透明度の高い水質、深さはどれくらいだろうか、場所によるだろうけどぱっと見二メートルくらいの水深か? 湖底の水草が揺れるのが見えた。
 俺たちが地下十一階から降り立ったこの場所は湖の中のちっちゃな島みたいなところだ。
 四方を湖に囲まれている。
 目を凝らしてみると、数百メートル先に陸地が見えた。
 その陸地は細長い通路のようになって霧の向こうへと続いている。

「うわぁ……こんなダンジョンは初めてだよ」

 経験豊富なローラですらそう言う。
 もはやこんなの、ダンジョンと呼んでいいのかすらわからない。
 幸いなことに、湖水の流入や流出はしていないらしく、水流があるようには見えない。
 ということはヴァンパイア化している俺でも越えられるということだ。
 ヴァンパイアってのは流れのある水を渡れないという縛りがあるからな。

「……これ、絶対水棲のモンスターが襲ってくるよね……」

 みっしーのいうとおりだけど、その前に解決しなければならない問題がある。

「……あたしたち、どうやって先に進むの? あっちに陸地があるけど、あそこにどうしたら渡れるかな?」

 紗哩シャーリーが呟く。
 まさか、泳いでいくしかないのか?
 ……その最中にモンスターに襲われたら対処のしようがない。

「いやー参ったねー。アニエスをかついでここを泳いでいくのは勘弁してもらいたい気分だよ」

 そう、石化したアニエスもいるのだ、人間一人をかついでこの中を泳いでいく……?
 ちょっと無理そうだな。
 ちょっと水に手を入れてみる。
 うん、普通の湖水っぽい。
 別に酸の水とか毒の水とかではないようだけど……。
 オレンジスライムのライムがぽちゃん、と湖に飛び込んだ。
 そしてぷかぷかと水面を浮かんで動き回る。

「ライムちゃんはなんかはしゃいじゃってるけどさー」

 ローラがあきれたように言う。
 しかし、スライムってのは粘液でできたモンスターだけど、水には浮くんだな。

「ね、ライムちゃんを浮き輪代わりにできないかな?」

 紗哩シャーリーが言う。
 まあ見た感じできなくはないけど、浮き輪じゃあな……。
 と、そこで。
 ちょっとアイディアを思いついた。

「おい、ライム、ちょっとこっちこい」

 俺が声をかけると、ライムは水からあがって俺の足元へ。

「ライム、ちょっとその場で飛び跳ねてみろ」

 オレンジ色の身体をくねらせて、ぴょこんぴょこんとジャンプするライム。

「はいストップ」

 ライムはピタリと動きを止める。

「すっごーい! ライムちゃん、基樹さんのいうことがちゃんとわかってる!」
「知性のあるスライムかー。これは大発見かもしれないねー」

 ここまで俺の指示が通るとなると、これはいけるかもしれない。

「よし、じゃあ平べったくなって空気で膨らんでみて」

 俺がいうと、ライムはちょっとぷるぷると震えた。
 俺の指示をどう解釈したものかと考えているように見えた。
 そして、自分の内部に空気を吸い込むと、ぷくっと膨らんでくれた。
 よし、いけそうだ。
 まあしかし、その大きさはせいぜい畳一畳分くらいで、実用には小さすぎる。
 だが、俺にはスキルがあるのだ。

「なあ、こいつにマネーインジェクションしてみようと思う」

 モンスターにもマネーインジェクションが効くのはフロストジャイアントで分かっている。

「もちろんこいつはモンスターだけど、今のところは俺たちに味方していてくれてるみたいだ。理由はわからんけどさ。だから、こいつにマネーインジェクションして、即席のボートになってもらおうと思うけど、どうだ?」
「おもしろそう! やってみようよ、お兄ちゃん!」

 紗哩シャーリーはそういうけど、ローラは難色を示す。

「うーん、リスクは大きいよねー。ただのモンスターの善意に命運を賭けるってのはねー。完全に飼いならせてるならいいんだけどさー」

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