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第56話 氷のつぶて

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「燃え上がれ、焼き焦がせよ! ファイヤー!」

 マネーインジェクションされた俺の炎の魔法は、SSS級モンスターであるバジリスクのポイズン・ブレスとぶつかり合った。

 ゴオォォォォォ! 

 低くて重い音とともに、魔法とブレスはお互いの威力を相殺してその場で消え去った。

〈やっば!!〉
〈SSS級のブレスをあんなに完璧に受けきるとか〉
〈人類には不可能だろ〉
〈これほんとに生配信なの? CGじゃないの?〉
〈いやまじで、お兄ちゃんがすごすぎて最近これはPOLOLIVEのプロモーション映像なんじゃないかと疑ってる〉
〈Xitterだとそういう陰謀論がけっこう広がってるぞ〉
〈お兄ちゃんが強すぎてフェイクだろって人とお兄ちゃん派が永遠にレスバしてるよな〉
〈陰謀論者の投稿にコミュニティノートがつきまくってるもんな〉
〈見てるとSSS級探索者のアニエスと動きがまったく遜色ないから信じられないのも無理ない〉
〈なんでこんな探索者がC級扱いされて心中するまでに追い込まれてたんだ〉

 C級扱いされてたのは妹が俺の貯金を使い込んで借金までつくったからだけどな!
 まあ紗哩シャーリーのことだから許したるけど!
 目の端で、ミニバジリスクとコカトリスがその紗哩シャーリーとみっしーたちに襲い掛かっていくのが見えた。
 防壁を作り出す紗哩シャーリー、稲妻の杖で応戦するみっしー。
 俺は間違ってもバジリスクと目を合わせないようにうつむきながら叫んだ。

「アニエスさん! こっちは俺がやる! 妹たちを頼む!」
「頼まれた」

 アニエスさんはマントをひらめかせてみっしーと紗哩シャーリーの元へ。
 マントが風に舞ってくれたおかげで、アニエスさんの小さくてつるんとしたお尻がチラリと見える、やべー、綺麗なお尻だな、うん、おかげでやる気でたぞ。 
 さて、鏡になる盾でも持っていたらそれに相手を映して戦えるのかもしれんけど、あいにく俺は今は刀しか持ってない。
 刀の刃にバジリスクの姿を映しながら戦う……ってのはさすがにちょっと現実的じゃないな。
 要するに目をあわせなきゃいいんだろ、目を?
 ごくまれに女子と話す機会があったとき、俺は女の子と目を合わせて談笑しつつ、意識はおっぱいに全集中させてるけど、あれの逆をやればいいんだろ、簡単だ!
 俺は視線を遠くに固定しつつ、バジリスクに斬りかかっていく。

「グァウ!」

 巨大な口を開け、俺にかみつこうとするバジリスク。
 すげー素早い動きだ、とんでもなくでかい牙が俺を狙う。
 視線を合わせないで戦うってのはかなりきつい、普通戦闘っていうのは敵の動きをしっかり見極めるもんだからな、その習慣が身にしみついているので、うっかり目を合わせてしまいそうになる。
 っていうか、俺は別に空中を自在に飛び回るような能力はないので、天井にはりついたバジリスクと戦うのはなかなかにきつい。
 油断するとポイズン・ブレスを吐いてくるし。
 攻めあぐねてすこし距離をとる。
 と、そこに。

「集まれ水の精霊! 手を握り合え、凍てつきつぶてとなりてすべてを砕け! 氷礫アイスボール!!」

 向こうの方から、みっしーが魔法をバジリスクにむけてはなった。
 ちらっと見ると、孵化したばかりのミニバジリスクはすでに首だけとなって地面に転がっている。
 さすがアニエスさん、つええわ。
 そのアニエスさんは今はコカトリスと戦っている。
 コカトリスはS級モンスターだから、アニエスさんがやっつけるのも時間の問題だろう。
 そんなわけで手空きとなったみっしーがこっちに支援攻撃をしてくれたのだ。
 氷の魔法としてはそんなに高レベルではないものだ、しかし今のみっしーはマネーインジェクションでパワーアップしているのだ。
 ただの目くらまし、閃光の魔法が小さな太陽になるくらいだ、氷の魔法だって大幅にパワーアップされる。
 直径一メートルはあろうかという、カチコチに凍った氷の塊。
 そいつが、とんでもないスピード――プロ野球の投手の投球並み――でバジリスクに向かって飛んでいく。
 バジリスクは、一度はその氷をその角で迎撃して叩き壊したが、

「集まれ水の精霊! 手を握り合え、凍てつきつぶてとなりてすべてを砕け! 氷礫アイスボール!!」

 みっしーは連続攻撃。
 今度の氷の塊はちょうどバジリスクが巻き付いていた岩にぶつかり、その岩を砕いた。
 地面に落ちてくるバジリスク、さすがに綺麗に着地しダメージはないようだったが、地面に降りてしまえばもうこっちのものだ。

「みっしー、サンキューな!」

 俺は叫んでバジリスクに斬りかかる。
 またもポイズンブレス、だがブレス攻撃はしょせんは直進しかしない、地面を駆けながらなら簡単によけられる。
 俺はそいつをかわしながら前進し、バジリスクの頭部をまっぷたつに斬ろうとして。
 その直後、
   
 ガツン!

 俺は全身に衝撃を受けて吹っ飛ばされた。

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