40 / 56
第40話 あたしの身体、あげます
しおりを挟む
「んーそりゃ、私みたいに幽霊になりたいってことかい? よせよせ、いいもんじゃないよ、魔力の出力がめちゃくちゃ落ちるし」
ツバキがおどけてそう言うが、由羽愛はかぶりを振って答える。
「いいえ。そうじゃないんです……。私は、消えたいの。この世から。お姉さん、あたし、別にあたしの身体をお姉さんにあげたっていい。凛音さんにあげてもいい。でもなるべく誰かの役にたって、それから消えたい……」
「ははは! なるほど、光希、君たちが命を賭して助けに来た女の子はなんと自殺志願者だったよ。ふふふ、私は魔女になってでも長生きしたかったから、その気持ちはわからんけどね」
「あたし、『入れ物』になってもいい。お姉さん、本当にあたしがお姉さんの入れ物になれるなら、お姉さん、あたしの身体をあげます」
「おいおいやめとけ、その魔女に冗談は通じないかもしれないぞ」
光希の言葉にも由羽愛は引かない。
カメラはこちらを映していない、お尻を振っているミシェルを捉えている。
それをちらりと見ると由羽愛は硬い表情で言う。
「『入れ物』の話を聞いたとき、あたし、思っちゃったんです。ああ、あたし、ぴったりじゃん、って。うまくいえないけど、誰かの魂が入るためにあたしが生まれてきたんだって」
由羽愛は続けて言う。
「あたしのお父さんとお母さん、若い頃は探索者だったんです。それこそ、SSS級の探索者になって有名になりたかったって。でも、なれなかった。多分、才能がなかったんです。それなのに、生まれてきたあたしにはこの副唇の才能があって、剣のセンスもそこそこあった……」
とその時、突然ツバキが大きな声で言った。
「よく気づいた! 素晴らしい、十歳の理解力じゃないね。偉いよ。私も言っただろ、親というのは子どもからの無償の愛に育てられて初めて親になるんだ。それまではただのオスとメスさ。あのね、探索者なんていつ死んでもおかしくない職業だ。恐怖遺伝子がバグっているか、死にたいやつしかならない職業だ」
それを聞いて、光希も心の中で頷いた。
そう、光希自身、いつ死んでもいいと思いながら探索者をやってきたのだ。
大切な人――凛音に出会うまで、ほとんど自殺に近い気持ちでダンジョンに潜ってきた。
それを考えると――。
「まあ確かに、由羽愛の両親はなにを考えていたんだろうな。ダンジョンの探索者だなんて、愛娘には絶対なってほしくない職業だ」
光希の言葉に由羽愛は少し震える声で答える。
「だから、あたしは愛娘じゃないんだと思います……うまく言えないけど……」
霊体のツバキがふわっと由羽愛の隣に降り立ち、その小さな肩を抱いた。
ツバキだって華奢な体型をしているから、まるで子ども同士が肩を組んでいるみたいに見えた。
「よし、私が言語化してあげよう。由羽愛、君の両親は君を愛してなんかいない」
その言葉に、由羽愛は俯いて唇を噛んだ。
「だってそうだろう、いつ死んでもおかしくないダンジョン探索なんてものを、三歳の子どもにさせるか普通? だから、由羽愛、君がさっき言ってたのは正解だ、君は『入れ物』だ」
「『入れ物』……」
「そう両親の、二度目の人生のね。君の両親が愛しているのは自分自身だ。子どもである君を使って、人生をやりなおそうとしている。満たされなかった自分の人生の欲望を君というキャラクターを操作して満たそうとしてる。君はゲームのキャラクター、操作しているのが両親ってわけだ。だから、君はさっき、自分で自分を入れ物がぴったりっていったんだ。愛情を注がれるはずの君の人生にはなにも注がれなかった。ただ、その身体を使って両親がゲームをしてるだけさ。すごいね、そういうことに気づくのは普通、大人になってからだよ。君の年齢でそれに気づくとは、由羽愛、君はやはり天才だ」
「えへへ、ありがとうございます。お姉さん、ヴェレンディを倒せたら、そのあとあたしの身体、あげます。だって、生きるのって、楽しくない。生きるのが楽しい人があたしの身体を必要なら、あげます」
ツバキがおどけてそう言うが、由羽愛はかぶりを振って答える。
「いいえ。そうじゃないんです……。私は、消えたいの。この世から。お姉さん、あたし、別にあたしの身体をお姉さんにあげたっていい。凛音さんにあげてもいい。でもなるべく誰かの役にたって、それから消えたい……」
「ははは! なるほど、光希、君たちが命を賭して助けに来た女の子はなんと自殺志願者だったよ。ふふふ、私は魔女になってでも長生きしたかったから、その気持ちはわからんけどね」
「あたし、『入れ物』になってもいい。お姉さん、本当にあたしがお姉さんの入れ物になれるなら、お姉さん、あたしの身体をあげます」
「おいおいやめとけ、その魔女に冗談は通じないかもしれないぞ」
光希の言葉にも由羽愛は引かない。
カメラはこちらを映していない、お尻を振っているミシェルを捉えている。
それをちらりと見ると由羽愛は硬い表情で言う。
「『入れ物』の話を聞いたとき、あたし、思っちゃったんです。ああ、あたし、ぴったりじゃん、って。うまくいえないけど、誰かの魂が入るためにあたしが生まれてきたんだって」
由羽愛は続けて言う。
「あたしのお父さんとお母さん、若い頃は探索者だったんです。それこそ、SSS級の探索者になって有名になりたかったって。でも、なれなかった。多分、才能がなかったんです。それなのに、生まれてきたあたしにはこの副唇の才能があって、剣のセンスもそこそこあった……」
とその時、突然ツバキが大きな声で言った。
「よく気づいた! 素晴らしい、十歳の理解力じゃないね。偉いよ。私も言っただろ、親というのは子どもからの無償の愛に育てられて初めて親になるんだ。それまではただのオスとメスさ。あのね、探索者なんていつ死んでもおかしくない職業だ。恐怖遺伝子がバグっているか、死にたいやつしかならない職業だ」
それを聞いて、光希も心の中で頷いた。
そう、光希自身、いつ死んでもいいと思いながら探索者をやってきたのだ。
大切な人――凛音に出会うまで、ほとんど自殺に近い気持ちでダンジョンに潜ってきた。
それを考えると――。
「まあ確かに、由羽愛の両親はなにを考えていたんだろうな。ダンジョンの探索者だなんて、愛娘には絶対なってほしくない職業だ」
光希の言葉に由羽愛は少し震える声で答える。
「だから、あたしは愛娘じゃないんだと思います……うまく言えないけど……」
霊体のツバキがふわっと由羽愛の隣に降り立ち、その小さな肩を抱いた。
ツバキだって華奢な体型をしているから、まるで子ども同士が肩を組んでいるみたいに見えた。
「よし、私が言語化してあげよう。由羽愛、君の両親は君を愛してなんかいない」
その言葉に、由羽愛は俯いて唇を噛んだ。
「だってそうだろう、いつ死んでもおかしくないダンジョン探索なんてものを、三歳の子どもにさせるか普通? だから、由羽愛、君がさっき言ってたのは正解だ、君は『入れ物』だ」
「『入れ物』……」
「そう両親の、二度目の人生のね。君の両親が愛しているのは自分自身だ。子どもである君を使って、人生をやりなおそうとしている。満たされなかった自分の人生の欲望を君というキャラクターを操作して満たそうとしてる。君はゲームのキャラクター、操作しているのが両親ってわけだ。だから、君はさっき、自分で自分を入れ物がぴったりっていったんだ。愛情を注がれるはずの君の人生にはなにも注がれなかった。ただ、その身体を使って両親がゲームをしてるだけさ。すごいね、そういうことに気づくのは普通、大人になってからだよ。君の年齢でそれに気づくとは、由羽愛、君はやはり天才だ」
「えへへ、ありがとうございます。お姉さん、ヴェレンディを倒せたら、そのあとあたしの身体、あげます。だって、生きるのって、楽しくない。生きるのが楽しい人があたしの身体を必要なら、あげます」
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。 え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です!
前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。
勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?
シトラス=ライス
ファンタジー
漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。
かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。
結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。
途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。
すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」
特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。
さすがは元勇者というべきか。
助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?
一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった……
*本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる