空のない世界(裏)

石田氏

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12章 望

01

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「たった今、六大武将の空亡がやられました」
メイド服を着た少女ベルンは、目の前にいる巫女の少女に伝えた。
「そう、これであの裏切者を除いては全員がやられたというわけね。まぁ、当初の目的である英雄の殺害は成功したからよしとしましょう」
「これで、あの方をこの世に呼び出せるんですか」
「えぇ。次の満月の夜、赤い月が現れた時、あの方はこの世にあらわれる。本当はあなたにも世界の滅びとやらを見せてあげたかったわ」
そう言いながら、その近くで横たわり動かない男に言った。
「ねぇ、キング」
ベルンは思わず咳払いをして話を戻そうとした。
「それで、あいつらはどうします?」
「勿論、あの方があらわれる前に殺すわ。ベルン、お願いできるかしら」
「はい」
そうくるだろうと思ったベルンは、巫女の少女の指示に普通に返事を返した。
「あなたにとってはアンジェの仇ですものね」
そう、あの女。真紀と言う女が、私の友人であるアンジェを殺した。巫女の少女についていくのも、あの女を殺すことができるからだった。
「アンジェ……」


ーーーーーー


 その頃、真紀達は。
「ねぇ、本当にやるの?」
「うん。何で?」
「だって、クリスマスだよ。普通は温かい家の中でパーティーして、豪華なご馳走を食べて、靴下をかざして寝るんだよ。何で私達はこんな季節外れの肝試しやってるのさ」
「しょうがないじゃん。真紀ちゃんが六大武将と戦っている間にブライアンさん消えちゃったんだから。あれ以来、行方不明で心配でしょ。だから、探すことにしたんじゃない」
「だけど、夜中に病院に忍び込むのは……」
ホラー系が大の苦手な真紀にとっては、夜中の病院は避けたかった。
 それもこれも、こうなったのは数日前に遡る。


ーーーーーー


 3日前

 真紀は空亡を倒したあと、何故か突然ぱったりと真紀が容疑者にされ捕まった事件がなかったことになっていた。皆は裁判の記憶もなく、拘置所から脱獄した際に開けた穴以外、全てなかったことにされていた。拘置所の監視カメラ映像は真紀が脱走する際に建物を破壊した時、ちょうど電線から電流が施設に流れていたコードごと切ってしまったらしく、映像は保存されずに消えたらしい。基本、自動録画のはずで、それまでの映像も残るはずだが、なかったらしい。そして、拘置所にいた職員全員あの時の記憶が消えていた。その為、拘置所の壁に穴が開いている理由を知る者はおらず、そこの責任者は頭を悩ませていた。
 とにかく、無事解放された真紀はホテルに戻り、そこで一人留守番をしていた山吹に再会し、二人は抱きあった。これが3日前の出来事である。
 その後日、警察から真紀と山吹のいるホテルにあらわれ、ブライアン刑事が失踪したことを知らされた。警察からは、ブライアン刑事が真紀と山吹の所に時折来ていたのを知っていて来たとのこと。真紀達は、ブライアン刑事が行方不明だということを初めて知ったことを伝えると、足早に引き返して行った。
「仕事場に来ないでどこに行ったのかな。もしかして、サボり?」
「真紀ちゃんじゃないんだから」
「私、学校サボったことないよ」
「授業中ヨダレ垂らして寝てるくせに」
「ビクッ」
「でも、心配だね。確か、真紀ちゃんが捕まっている間にブライアンさんは病院に行ったはずだから、確かめに行こう」
その後、真紀と山吹はブライアン刑事が行ったであろうシュタイン・メディカルにバスを使って向かった。



「あの、前回ここに警察を名乗る男性が来たと思うんですが」
山吹は受付の看護師に話をした。
「えぇ、来てましたよ。シュタイン医院長とお話され、地下室へ向かわれて、再び戻って来たその方はそのままお帰りになられました」
「その時、どこへ向かわれたか分かりますか?」
「いえ、私には」
「そうですか。なら、シュタイン医院長には今、お会い出来ますか?」
「シュタイン医院長は今日から長期休暇をとっておりまして」
「そうでしたか。ありがとうございました」
そう言って山吹が行こうとした時、
「あ、ちょっと待って」
「え?」
受付の看護師は少し考えたあと、こう言い出した。
「確か、刑事が帰る前にシュタイン医院長と会話を少し偶然耳に入りまして、全部ではないですけどフィラデルフィアの児童養護施設の名前がその時出たと思います」
「ありがとうございます」
「いえ、参考になればいいけど」
山吹は早速重要な手がかりを、外で待っている真紀に知らせようと病院をあとにした。
「真紀ちゃん、ブライアン刑事は……」
「○◆@♯※」
「うっ……」
真紀は相変わらずここまでのバスの道のりで、道路の排水口へと吐き出していた。
「それ、どうにかならないの」
「む…り……」
「そっ。で、ブライアンさんの手がかりだけど、この病院へ出る前にフィラデルフィア児童養護施設の話をしていたみたいなの。そこにブライアンさんも行った可能性があるかもしれないから調べましょう」
山吹が説明している間、真紀はなんとか酔いから立ち直った。
「フィラデルフィア児童養護施設って?」
「まずはその場所について調べましょう」
「りょーかい」
「じゃあ、またバスで移動ね」
「げっ!」
真紀が後退りを始めようとするタイミングで、病院前のバス停にバスが到着した。バスの扉は真紀の真後ろで開き、山吹は真紀を中へとそのまま押し込んでいった。
 その直後、真紀の悲鳴が響いた。


ーーーーーー


 10分そこらで到着した図書館に山吹は真紀を引っ張りながら中へと入っていった。
「良かった。クリスマス前だから開いてるかどうか心配だったよ」
「良かったね。私も、あの乗り物に乗って来ただけのことはあったよ」
アメリカの図書館は日本と違い、サービスの多様化が進んでいた。一つは近代化に進み書籍の電子化が進んだことにより、図書館も電子図書館へのサービスを取り入れた。主に、教育、資料関係の図書館にある書籍を電子化し、それをどこでも読めるようにしたサービスだ。ジャンル、作品の電子化の数は年々増加している。
 また、図書館に来て本を探す時代は終わり、タブレットを出し図書館アプリを開き、図書館名を登録。そこから、探したい本を検索すると、その図書館にどんな本があるのかや、関連作品を一発で見れるようにし、更にどの位置にあるのかを番号で知らせる。これを、どの図書館にでも使えるアプリサービス。日本にも共通してではないがアプリは存在する。
 しかし、それでも日本は世界から遅れていた。故に、
「情報の収集が楽だよ真紀ちゃん。これなら早く終わりそう」
山吹は、図書館のパソコンを使ってフィラデルフィア児童養護施設について検索していた。
「まぁ、ここの図書館新しそうだし、本が目の前にあるのに触らずに終わりそうだね」
真紀は皮肉じみた発言をした。真紀は電子書籍を嫌っていた。何でも電子化して欲しくなく、現物があり、ページをめくる楽しみを味わいたいのだ。
 便利はいいことだ。だが、楽しみと便利の区別はつけるべきだろうと真紀は心の中で思っていた。
「終わったよ」
山吹は調べ物をぱぱっとまとめて、最後には印刷をかけて終了していた。
「フィラデルフィア児童養護施設についてなんだけど、今は廃墟になってるみたい。原因は、そこの管理者が子ども達に人体実験をして、ほとんどの子どもは失明や他の障害をおっていて、彼は捕まり実刑判決を受け、刑務所の中で死去。
 被害者の子ども達は、病院や他の児童養護施設に預けられてるみたい」
「それで?」
「児童養護施設は閉鎖されているから、ブライアンさんが向かったのはないかもしれない。たまたま、フィラデルフィア児童養護施設の話になったのかも」
「ちょっと貸して」
「うん」
真紀は山吹から印刷した資料を受けとると、ざっとそれを見渡した。
「そうかな?」
「え?」
「その閉鎖された施設には何か他にあったりして」
「どうしてそう思うの?」
「閉鎖された期日だけど」
真紀は山吹に見せるようにして、資料に指をさした。
「閉鎖された期日からしてもう何十年も前に閉鎖されてるんだよ。でも、未だにあるんでしょ。何で、取り壊さなかったのかなって」
「確かに」
そこには山吹も気づかなかった。
 時折、真紀は突然頭がよくなるようなところは、確かに前々からあった。そのちょっとした突然に、山吹はいつも負けている感があり、もし真紀がそのちょっとした発揮が常日頃だと思うと、少しゾッとしていた。
 今までの六大武将にしても、一筋縄ではいかない相手に真紀は戦ってきた。
 その度に無茶をするのだけども、それと同時に戦いを得て、どんどん頭が良くなってきているような感じがしていた。まるで何かを思い出していくようで、今までの真紀ちゃんが嘘になる感じである。
(今の真紀ちゃんが嘘なら、真紀ちゃんの本当は……)
今思えば真紀ちゃんが私と同じ孤児であったのを思い出した。私の場合は、私が小さい頃に両親は事故を起こし亡くなった。だけど、真紀ちゃんの家族については今まで何も知らない。
(そう言えば、真紀ちゃんに名字がないんだよね)
何か関係があるのか?それを知れば、真紀ちゃんの本当を知ることができるのか?
「どっしたの?」
真紀は、山吹が考え事をして一人取り残されているのがたまらず、山吹の顔を下から覗いた。
「うわっ!」
山吹は、下から覗く真紀に気づき、ビックリした。
「何考え事してるのさ」
「いや……ちょっとね。それより真紀ちゃんの意見だけど、単に取り壊しが出来ない理由があるからじゃない?例えば、取り壊しにも予算がいるから、単にお金の問題で放置されたのかも」
「まぁ、そうかもね」
「だけど、真紀ちゃんは他にも取り壊されなかった事情があるんじゃないかって疑ってるんだよね」
「え?」
「え?違うの」
「いや、別に何も考えてなかったよ。ただ、疑問に思ったから言ってみただけ。だから、ふきちゃんの言ったことが多分合ってるんだろうなって思っていたけど」
「……」
山吹は唖然する。真紀の鋭い勘みたいなのが、児童養護施設に何かあるんじゃないか的な発言だと思い込んでいた山吹は、自分の考え過ぎに頭を痛めた。
「やっぱり真紀ちゃんは真紀ちゃんだね」
「どういう意味?」
「何でもない。とにかく私の考えは他にもあって、このフィラデルフィア児童養護施設の過去に人体実験を行っていたというのと、ブライアンさんとシュタイン医院長の話に関係性があるんじゃないかって思うの」
「でも、フィラデルフィア児童養護施設についてはあらかた調べたんでしょ?」
「そうだよ。でも、全部じゃない。まだ、私達は現物を見てないよ」
「まさか!?」
思わず真紀はその場に立ち上がり、嫌な予感を頭の中で想像した。それは、テレパスのように山吹にも伝わり、
「そうだよ。乗り込むんだ。しかも、夜中にね」


ーーーーーー


 で、現在に至る。
 ここは、閉鎖されたフィラデルフィア児童養護施設で、当然中に入ることは出来なかった。その為、山吹の案で本当に真夜中に勝手にお邪魔することになった。
「ここ、幽霊出ないよね?」
真紀は怯えながら、隣にいる山吹に聞いた。
「いるかも」
「え!?」
「だって、ここは子どもを人体実験してたとこだよ。子どもの霊とかが出てきてもおかしくないんじゃない」
「いやいや否定してよそこは」
「はいはい」
山吹はそう真紀を振り払って、本来の目的である情報収集へと回った。
「待ってよー」
置いてきぼりにされそうになった真紀は、とっさに走って山吹の跡に着いていった。
 真紀は周りを見渡し、辺りを懐中電灯で照らす。そこには、子どもが描いたような絵がいくつも飾っており、病院内の壁も色鮮やかに塗装されていたのが分かる。それが今じゃ、壁の塗装が古くなり、結果として不気味なお化け屋敷とたいして変わらないものへと変化していた。
「ねぇ、効率悪いからやっぱり手分けしていかない?」
「無理」
即答の真紀に、山吹は思わずため息をついた。
 山吹の方はというと、こういったものに怖いと思ったことはさほどなく、ホラースポットでも冷静でいるタイプだった。



 その後、結局二人で病院内を回り、収穫はゼロだった。
 病院内に物はほとんど残されておらず、あるのは病室のベッドや大型の医療器具ぐらいがあるだけだった。
「ねぇ、ふきちゃん。人体実験って結局どこで行われてたのかな?やっぱ地下室とかあったりして」
「人体実験なら堂々とやってたと思うよ。児童養護施設に来る人なんて、外部からの来訪者は限られてると思うけど」
「成る程」
真紀は、フィラデルフィア児童養護施設がどんな施設なのか、ようやく理解できた感じである。
「もう帰ろうか」
「私は最初から早く帰りたいで一杯だよ」
山吹は「はいはい」と言いながら山吹は先へ進んだ。
 そして、次の出口があるフロアに続く境のドア辺りで、それは異変が起きた。

バタン!

山吹が通った瞬間、ドアは急に勢いよく閉まり、その後ろにいた真紀とちょうど別れるようなかたちになった。
「え?」
一人になってしまった真紀は、思わず泣き出しそうな顔をして、「ふきちゃん?」と小声で言う。そして、ドアノブに手をかけ、ガチャガチャとひねるが、ドアは固く閉ざされ、びくともしなかった。
 すると真紀は、泣きながらドアをバンバン叩き出した。
「ここから出して、ここから出して。お願いします。ふきちゃんここから出してぇーー!」
わんわん泣き出した真紀に、ドア越しの山吹は必死にドアを反対側からも開けようとする。が、
「駄目、真紀ちゃん。開かないよ」
「嫌ぁーー見捨てないでぇー」
「とにかく真紀ちゃん落ち着いて」
「落ち着いてられないよ!」
完全にパニック状態の真紀に、山吹はなんとか脱出ルートを考える。
「ふきちゃん、これってポータブル現象だよね、これ!?」
「ポータブルじゃないよ。ポルターガイスト現象だよ」
山吹はこんな状況でも、真紀のボケにツッコミを入れた。
「そのポルターガイストって幽霊の仕業だよね?ね?」
「幽霊はいない。多分」
曖昧な返事をされ、真紀は更に激しくドアを叩いてきた。いっそのこと、それでドアが壊れてくれればいいのだが、意外に頑丈なドアは、真紀の拳に悠々と耐えていた。

バキッ!

遂にドアノブが取れ、完全に打つ手を失った真紀は放心状態に入ろうとしていた。
 その時、後ろから気配を感じた真紀は自我を取り戻した。
 真紀は、恐る恐る気配のする後ろを、かなりゆっくりで振り向いた。
「ぎゃああぁーーーー!!」
「どうしたの、真紀ちゃん!?」
突然の悲鳴に、ドアの向こうでは何が起きてるのか分からないでいた。
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