上 下
2 / 3
叶わぬ恋も叶えてみせて

1 プロローグ

しおりを挟む
「なぁ、由里子。僕は君の素敵な旦那さんになれただろうか」

[叶わぬ恋も叶えてみせて]

青く広がる雲ひとつない空をアネムは、手で目元を軽く覆いながら見上げる。手の隙間からは光が入り、彼女の目がキラキラと光っている。職場体験ウィークの1日目の朝。先生から頼まれた地上の人達からの手紙を期待と不安を詰め込んだ茶色い肩掛けの鞄にしまう。そして、くしゃくしゃになっている宛先のメモ用紙を広げ、制服のポケットから取り出した。学校から離れ、街の中心にある広場までやってくると、小さな虹がかかる噴水の横にある茶色のベンチに腰掛けた。
「ええっと…1人目は…」
アネムは地面につかない足を前後に揺らし、鼻歌を歌いながら一通目の手紙を確認する。

———愛する夫 貴仁さんへ

アネムは文字を見て、ニコッと笑うと、住所が書かれたメモ用紙と手紙を照らし合わせた。すると、宛先の文字と手紙の文字が青く光りはじめ、文字が浮かび上がってくる。
「よし!ここで合ってる。さっそく行こ~!」
アネムはピョンっとベンチから降りると、うさぎのようなスキップで目的地へと向かい始めた。

広場を抜け、住宅街にやってくると、アネムは地図を指でなぞりながら一軒一軒、家を確認していた。そして、小さな足が動きを止めた。
「あった~!!」
幼い指差す先は、大きな家々に挟まれた小さな平屋だ。外には何かのキャラクターであろうオブジェクトが立っているようだ。家自体は至ってシンプルだが、どこかしこに特徴的な動物の置物が置かれている。
「可愛い~!お花の冠を被ったうさちゃんだ!あれ…?でもうさぎさんの耳ってもっと長かった様なぁ…」
アネムは首を傾げながら、じーっとそのお着物を観察する。すると、アネムの後ろに大きな影が近づいて来た。
「おや?これはこれは。こんなに可愛らしいお嬢さんが、私の家に何かご用かな?」
アネムは包容力のある優しい声に気づき、ハッと後ろを振り向く。すると、そこには柔らかな笑みを浮かべる白髪混じりのお爺さんが立っていた。質素な身なりをしているが、腕を見れば、高そうな時計をしている。そんなお爺さんがこの家の者だと気づいたアネムは、慌てて置物から離れ、勢いよく頭を下げた。
「あわわ!ごめんなさいッ!私、この置物が可愛くてつい…」
「あぁ、良いんじゃよ。そんな頭を下げんでも。こんな可愛いお嬢さんに気に入ってもらって、フラワーラビーもさぞ嬉しそうにしているはずじゃ」
『フラワーラビー』という聞き慣れない単語に、はてなマークを浮かべているアネムを見たお爺さんは、その置物をそっと手で包み、ゆっくりと持ち上げた。
「この子の名前じゃ。私の友人であり、恋人であり、相棒でもある。そして私がこの子の生みの親でもある」
アネムはポカンと口を開けてお爺さんを見つめる。その様子を見て、はっはっはっと笑うお爺さんはどこか満足げに「私がこの子の作った事が意外だったかな?」とアネムの頭を撫でた。
「い、いえ!そんな事ありません!ただそのてっきり…女の人が作ったのかと思ってました…」
申し訳なさそうに見つめてくるアネムにお爺さんは優しく話しかける。
「よく言われる事じゃ。別に気にしてはおらんよ。それより…」
そのお爺さんは帽子の真ん中に記されている紋章を見ると、何か納得したように顎に手を当てた。
「もしかして、私にお届け物かな?」
お爺さんはアネムの鞄を指差す。アネムは「そうだった!」と茶色い鞄から一通のピンクの封筒を取り出した。そして、帽子の唾をぎゅっと掴むと、アネムは大きな声で元気よく言った。
「貴仁さん!貴方にお届け物です!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

Husband's secret (夫の秘密)

設樂理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! 夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで  Another Storyを考えてみました。 むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

ペンキとメイドと少年執事

海老嶋昭夫
ライト文芸
両親が当てた宝くじで急に豪邸で暮らすことになった内山夏希。 一人で住むには寂しい限りの夏希は使用人の募集をかけ応募したのは二人、無表情の美人と可愛らしい少年はメイドと執事として夏希と共に暮らすこととなった。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...