上 下
21 / 163
記念・特別章 【大英雄の過去編】

第0話の17 瀕死の来訪者

しおりを挟む
===ユウキ視点========================

 早朝、俺が眠い意識をスッキリさせるために丘を登って村を一望していた時、村の近くにある森から1人の女性が出て来た。
 俺は警戒して村から見える位置まで"転移"すると、その女性とはあのいけ好かない王女だった。

「お、おい!どうした!?」

 俺は過去にあった事なんて、全て忘れて彼女の下へ走った。

 王女は、ふらふらと今すぐにでも倒れそうな足取りでこっちへと歩いて来ている。

 着ている赤のドレスは、下の方にあるフリフリが無かったら分からなかったほど破れまくり、泥や一部血も付いていた。
 足は片方だけしか泥だらけのヒールを履いておらず、履いてない方の足は泥の隙間から血が見えた。
 
「……はぁ…はぁ、ユ…ウキ……」

 王女はそれだけ言って、糸が切れたように倒れそうになるが、間一髪のところで彼女を抱き止める。
 意識は無く、息は荒々しくはあるがしっかりとしているので、疲れて気絶しているだけだろう。

 俺は取り敢えず、彼女の腕を肩に回して軽く立たせた後、家に"転移"した………。





「……よいしょ」

 俺は彼女を俺のベットに寝転がした後、身体中に付いている泥や土、血を"アイテムボックス"から出した洗面器や"ウォーター"を使ってベットが濡れないように慎重に洗い流し、次に傷のある所を"ヒール"や"ハイヒール"で治していく。

 流石にドレスを剥いで身体を見るつもりは無かったので、腕や足といった剥き出しになっているところを治していく。
 腕には剣などでつけられた斬り傷や火傷、足には尖った石が少し刺さってしまっていたり、顔には殴られた跡のような打撲痕があった。

 一応、ドレス下以外の治療は完了した。後はティフィラを呼んでーー

「……ユウキ、何してるの?」

 ここ数年で聞き慣れた声が、俺の背後から聞こえた。その声は疑いをかけているようで、力強くて無感情な声だった。

「言っとくが、お前の考えている事じゃないからな。ちょうど良かった、今からお前を呼んでーー」
「ま、まさかっ!3ーー」
「こいつの!治療を!してもらおうと!思ってたんだ!!」

 ティフィラが言ってはいけないような事を言おうとしていたので、俺は強めに大きな声で言った。

 ティフィラは若干驚きつつも、俺を通り過ぎて王女の方へ行き、王女を見る。

「……別に治療をしなくて良さそうに見えるんだけど」
「俺があらかた治療は済ませたんだが、ドレス下は流石に俺が見るわけにはいかないと思ってな」

 「あ、そういう事」とティフィラは手をパンと叩いて納得したように言った。

 そして、「失礼します~」の後に衣服を破る音が聞こえた事から、なんか気楽そうにドレスを剥いだらしいんだが、後ろを見ていた俺は、その後にティフィラの呻く声が聞こえた。

「どうした?」

 俺は背中越しに尋ねる。だけど、返事が無い。

「おーい?」

 俺はもう一度尋ねたが、またも返事が無い。
 俺は少しイラついてしまい、振り返ってティフィラを俺の方へ向かせた。

「……え?」

 振り向かせたティフィラの顔は、悲しみに満ちて、目から大量の涙を流していた。
 そして、俺の顔を見た瞬間、俺に抱きついて押し殺すように泣き出した。

「……おい、どうしたんだよ?一体何……が……」

 俺はティフィラの頭を撫でながら、王女の身体を軽く見た。
 声が詰まった。何を言ったら良いのか分からなくなった。

 彼女の胴体には標準程度だったが、女性として魅力的な胸が有った筈だ。
 だが、今の彼女にはそれが無く、代わりに胸の辺りに肉を切った時のような断面とそこから流れたであろう、血がべたりと付いて乾いてしまっていた。

 あのドレスは元から赤色では無く、血によって染まった赤だったんだ…。

 ………守姫、無くなった部位を補修する魔法はあるか?
(…残念ながらありません。"エクストラヒール"でも恐らくその断面を覆う事しか出来ないかと)

 俺は無言で守姫を取り出し、守姫を彼女に近づけて守姫に"エクストラヒール"をやってもらう。

 すると、断面の隅にあった皮が徐々に中央へ広がっていく。およそ10分程度でまるで傷が無かったように皮が断面を覆った。だが、そこに女性らしさも無く、男にすらある乳首すら無い。マネキンのようになってしまった。

「……取り敢えず、起きるのを待つか」
(……コクッ)

 ティフィラは俺に抱きついたまま、頷いたので、ティフィラが邪魔になっているのでゆっくりと歩く。

 それから王女が目を覚ましたのは次の日だった………。







「……っ!!……はぁ、はぁ」

 俺が部屋にある椅子にもたれて読書をしていたら、彼女は突然悪夢から目が覚めたように目覚めた。

「……お、やっと起きたか。王女さんよ」

 俺は努めていつもの調子で話しかけた。
 
 王女は俺を見ると、すぐさまベットから降りて俺に抱きついて来た。
 「はぁ、はぁ、はぁ」と息を荒くして、怖い夢を見た時の子供のような顔が見える。

 俺はティフィラの時のように、頭を撫でたりして落ち着かせたりしない。ただゆっくりと王女を引き剥がして聞いた。

「何があった?」

 王女は急に息を荒くして、頭を抱える。よっぽど怖い目に遭ったみたいだ。

 俺はもう一度、ゆっくりと聞いた。

「何があった?」

 今度は勢い良く顔を上げて、俺の顔を凝視してくる。その時の彼女の目は懇願している目だった。助けを求める目だった。だから、俺は言った。

「俺が何とかしてやる。だから、教えてくれ。お前の身に何が遭った?」

 彼女は震える唇で一言ずつ、ゆっくりとだが確実に、彼女の身に、宮殿内に起きた事を教えてくれた。
 とっても胸糞悪い、思わず殺意が芽生えそうな話。

 全てを言い終える頃には、膝もガクガクで意識が何とか保っているという状態だったので、彼女をお姫様抱っこのかたちで抱き上げてベットに寝かしつけた。
 王女はすぐに眠った。

 俺は横目で確認した後、部屋を出た。出た先のダイニングには、不安そうに俺を見つめるティフィラが、俺の正面に立っていた。

「悪いが、ちょっと用事を済ましてくる」

 俺はそれだけ言って出て行こうとしたが、彼女の呼び止める声が聞こえて振り返る。

「……私も一緒にーー」
「駄目だ。俺1人で行く」

 ついて来ようとしていたティフィラに強めに言い捨て、「すぐに戻る」とだけ言って家を出た。

 そしてすぐさま"転移"を使い、石レンガ造りの宮殿内の外側の赤いカーペットが敷かれている廊下に侵入した。

「………さーて、どうしてやるか」

 俺は"探知"であらかたの敵の位置を把握すると、敵のいる部屋へと向かう。
 
 宮殿内は、俺が初めて侵入した頃に比べ、静かで、誰一人として人を見かけない代わりに、そこらに転がっている死体は見える。

 俺は堪らなくなって走り出す。人が集中している王の間へと。
 豪勢で巨大な両扉を蹴飛ばし、片方の扉が中に派手な音を立てて跳ねる。

「……よぉ、初めましてだな。同郷者よ」

 俺の目の前にいるのは、5人。その全員が日本人だった………。


===============================

 今回、ちょっとグロいかなと思い、表現を控えめにしました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最強魔導師エンペラー

ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

「お前は彼女(婚約者)に助けられている」という言葉を信じず不貞をして、婚約者を罵ってまで婚約解消した男の2度目は無かった話

ラララキヲ
ファンタジー
 ロメロには5歳の時から3歳年上の婚約者が居た。侯爵令息嫡男の自分に子爵令嬢の年上の婚約者。そしてそんな婚約者の事を両親は 「お前は彼女の力で助けられている」 と、訳の分からない事を言ってくる。何が“彼女の力”だ。そんなもの感じた事も無い。  そう思っていたロメロは次第に婚約者が疎ましくなる。どれだけ両親に「彼女を大切にしろ」と言われてもロメロは信じなかった。  両親の言葉を信じなかったロメロは15歳で入学した学園で伯爵令嬢と恋に落ちた。  そしてロメロは両親があれだけ言い聞かせた婚約者よりも伯爵令嬢を選び婚約解消を口にした。  自分の婚約者を「詐欺師」と罵りながら……──  これは【人の言う事を信じなかった男】の話。 ◇テンプレ自己中男をざまぁ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。 <!!ホットランキング&ファンタジーランキング(4位)入り!!ありがとうございます(*^^*)!![2022.8.29]>

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...