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第10章 決戦前

第101話 目覚め

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===ユウキ視点========================

「…………これらが君が過去だ」

 急に頭をよぎった幼い頃や高校生だった時の記憶を思い返している途中、目の前の男に声をかけられ、意識を現実に向ける。

 目の前には青い髪を上げ、茶色のシャツと紺のズボンを着た歳は30歳程度の男が、右手に持った本を開けながら俺を見ている。

 ここは床が無く、天井も無い。俺らはただ流れ星のようなものが飛んでいる金色の世界に漂っていた。こんな非現実なところはある訳が無いので、幻覚かあるいは夢の中だろう。

 俺は警戒を最大限しながら、男と喋る事にした。得体も知れない男だが、今はとにかく情報が欲しいし、何故か目の前の男を今逃すともう会えないような気がしたからだ。

「………ここはどこなんだ?」
「……………」

「………お前は何者なんだ?」
「……………」

「………さっきの記憶は本当に俺のなのか?」
「ええ、勿論です。……もっとも、出来たのはこれだけですけど」

 前の質問には無言だったのに、俺の記憶の事には答えた。取り敢えず、俺の記憶について考えてみよう。確かに気になっていたから、丁度良いかもな。

 俺は再び、俺の記憶というものを思い返してみる。………やっぱりもう一度思い返してみても、男はあの記憶が俺のものだと言うが、どうもしっくりこない。
 どの時期も見に覚えも無い、あっと思い出す事も無い、まるで記憶がすり抜けるかのような………。けど、あの綺麗な女性は見覚えはある。破壊神が化けた時の様に女性だけは見た覚えがあるのに………。

「……それが彼女がやった喪失。決して戻る事は無い、蘇る事は無い」

 薄っすらと少しずつ、男の体が足から徐々に透けていっているように見える。

「ただ、刻まれたものが無くなった訳では無い。使い方………いや、存在を知れず、認識出来ないだけ」

 自分の体が透けていっているのに、構わず喋り続ける。

「だが、この記憶があれば呼び醒ます事は出来るかも知れない。あるいは呼び起せ。その力を」

 言い終わる頃には跡形もなく、消えた。

 結局、あの男が言っていた事は何一つ分からない。けど、何かが醒めるような気がした………。





『………………ねぇ…………』
 何だ?
『………私、役に立ててた?』
 さあな?あの頃の俺に聞いてみたら?
『……ふふっ、きっと君はこの会話も無かった事にするんでしょ?』
 ………さあ?分からないな。けど、きっと俺は今の会話を覚えてないだろう。
『………なら、今言っておくね』
『私はいつでも、力になるよ』
 …………知ってる。
『………早く私を認識って、思い出して。私はいつまでも待ってるから……………』





 俺は目を開ける。頭は覚束ないし、目も正直ほとんど霞んで見えない。けど、色は分かる。目に移っている色は灰色だ。

「師匠!!」「お師匠様!!」

 弟子の大きな声で、意識が急激に覚醒してくるのが分かる。

 ………確か、俺はすごく強くなった魔神と戦って、そして瀕死になってそれで………

「……っ!!?まじーー」(ゴチィィン!!)

 俺が飛び起きようとしたら、リリの頭に当たってしまい、跳ね返るように倒れる。跳ね返った先には柔らかいベットの感触があり、俺はベットに寝ている事を感覚で知った。それより…………

「いってぇぇぇ!!」

 急に頭に鉄より硬いものがぶつかった事により、悶えてしまう。頭がズキズキと痛み、目から涙が出るほどだった。

「あぁぁぁっ!!また私の頭を馬鹿にしてぇぇっ!!」
「………姉さん、抑えて」

 リリが何やら怒っているようだが、そんな事は気にしてられない。一刻も早く治さねば。俺は痛みが強いおでこより少しつむじよりの部分に手を当て、回復魔法を使おうとするが、発動しない。理由はすぐに分かった。

「…………魔力が無い……」

 そう、俺の体内には圧倒的に魔力が不足していた。訳を知るために攻武やら守姫に呼びかけるが、一向に反応が無い。"ソウルウェポン"はあるみたいだが、顕現させる事が出来ない。一体何が………?

「そりゃあ、当たり前だろ」
「………っ!?誰だ!?……っぅ!!」

 急に聞こえた聞いた事も無い男の声。俺はすぐさま警戒態勢を取ろうとするが、体中に激痛が走った。
 どうやら体は思った以上に限界のようで、体を起こす事しか出来なかった。

「おいおい、もう動けるのかよ」

 呑気な声で近づいて来たのは40代後半辺りの男。白を基調とした模様が多い鎧を着ている。あれは神官騎士の鎧によく似ている。そして、男の頭はそれはもう光っていた。

「お前まで俺の頭を見るのかよ!!」

 男は相当色んな人に見られたのか、うんざりしているようだ。
 それより………男の魔力、何か違うな。合体した時のリルや『戯神』の魔力にどちらかと似ている。一体何者だ?

「………もう何か勘付いているのかよ……。洞察力まで化け物だな……」
「そんな事より、あんたは何者だ?すぐに襲って来ない辺り、敵ではなさそうだが?」

 俺が問いかけると、待ってましたとでも言わんばかりの嬉しそうな顔になった。

「ふっ。そうだよな、知りたいよな!よし、教えてやろう!俺はーー」
「あ、この人はアギラさんです。アルナ様の眷属らしいですよ」

 アギラとかいう男の台詞をサラッと奪ったドヤ顔のリリ。そして崩れ去るアギラ。

「………取り敢えず、本題に入って……」

 俺は今の現状を把握してない。悪いが、むさい男のコントに付き合っている余裕は無いんだ。






「えぇと、ここは?」

 動けない俺をいわゆるお姫様抱っこで運んでいるリリに聞く。ここは教会っぽいところのようだが、俺とリリ、ルル、アギラ以外、誰も居ない。そして、今向いている反対方向では、開けろと騒ぐ声が聞こえる。………マジでどこ?

「ここは《アブェル》で一番大きな教会です。今から、アギラさんに門を開けてもらって、神界に行きます」

 ………急展開過ぎ。

「いやなんで俺が神界とやらに行かねぇと行けねぇんだよ!?さっさとこれまでの経緯を話せよ!?」
「………………」

 動けない代わりにリリに問い詰めたが、リリは顔を逸らし、一向に現状を説明しようとしない。こっちは早く対策をーー

「よし、開いたぞ~~」

 どうやら神界に繋がるものが開いてしまったらしく、リリから視線を目の前に移すと、そこには真っ白な縦に長い楕円形のものがあった。……それは『戯神』が出していたものと殆ど同じだった。

「さあ、行きますよ」
「え?ちょっ!!」

 リリは俺の事なんか御構い無しのようで、楕円形のものに駆け出して行く。
 抵抗出来ない俺は、目をギュッと瞑った………。





「会うのは初めまして。ユウキさん」

 何かしらの衝撃が来るかもと覚悟していた俺の耳に、優しげな女性の声が聞こえた。
 目を開き、真っ直ぐと正面を見ると、そこには色んな刺繍がされた真っ白なドレスのようなものを着た金色の髪をなびかせ、虹色の目で俺を見つめる女性が居た。

 その女性はあまりにも、俺に関わりがあるとされるあの女性に似ていた………。


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