上 下
115 / 163
第8章 神気

第75話 配慮

しおりを挟む
===リル視点========================

「あなた、本当にマスターの弟子?」
『………え?』

 全く表情の無い顔で言われた言葉に一瞬、訳が分からず戸惑ってしまいました。

「もし、マスターの弟子なら周りを配慮しながら戦うはず」

 イアさんがそう言って指指したところには目を回して倒れているティフィラさん達が。

『あ………』
「……………私が4人を担いで動き回わらなかったら死んでいた」

 イアさんが突きつけた現実はその通りで、私はいつの間にかティフィラさん達の事が頭に無くて、『戦神』を殺す事に必死になりすぎていた。…………確かにお師匠なら私達の事を考えて戦うと思う。お師匠は私達が傷付かないようにいつも配慮していた。どんな厳しい修行でも本当に危ない時は守ってくれたし、神々が襲って来た時も真っ先に私達の事を優先していた。

『……………………』
「……取り敢えず、ここから離れよう。じきに野次馬やら騎士が来る」

 イアさんは軽々と4人を片腕二人ずつ抱えるともの凄いスピードで特に被害を受けなかった《アブェル》の方へ駆けて行った。私もイアさんの後を追うけど、言われた言葉がずっと私の頭から離れなかった………。


===???視点========================

「《デットラス》には後どれぐらいだ?」

「あと…………2日ってところです」

「脱落者は?」

「5名です」

「そうか………。そいつらは所詮、その程度の奴らだという事。我らの計画には何ら支障は無い」

「おっしゃる通りで。………しかし、自分は思うのですが、我らの計画にとって"特異点"はそんなに大きな障害でしょうか?自分にはそうとは思えないのですが………」

「ふっ、ならば聞こう。何故、奴を"特異点"と呼ぶか知っているか?」

「え………?それは勿論、我らの計画を破綻させる恐れのある存在だからだと……」

「それもそうだが、奴を"特異点"を呼んだのはーー」


===リリ視点========================

「「「「「「「「「ようこそいらっしゃいました!!リリ様!ルル様!」」」」」」」」」

 現在、日が昇り始めた頃。住民達は崩れた家で寝る事は出来るはずも無く、避難所らしき所に行っていて誰も居ない街中を歩き、教会の扉を開けた途端、初めて訪れた時と同じように多くの神官達に出迎えられました。

 実はこの街に着いた後、私はルルとの『共神化』を解き、ティフィラさん達を崩れているけどましな家に置いてイアさんと共に教会に訪れました。その道中でイアさんが何故、私達の所に現れた経緯を聞きました。


===1日前のイア視点========================

「ヒャッハー!今年の大会も俺が優勝だぜぇーー!!」
「………そんな訳ねぇだろ」
「ぐべらっ!!」

 ある街の武闘大会の準決勝。私は勿論決勝進出が決定しており、次に戦う相手の試合を見に来たら、どうやら前回の優勝者だった奴がフードを深く被った男に殴り飛ばされていた。男からはマスターには及ばなくても中々強い魔力を感じた。これまで武闘大会に出続けているけど、一番強い魔力だ。

 そして、決勝戦。小さい規模の大会ながらも街中の人達や旅人や冒険者といった多くの観客が私と男の試合を今か今かと待ちわびていた。

 私はただ突っ立って試合のゴングが鳴るのを待っていたけど、男はフードから僅かに見える口元を不気味に歪ませ、拳をポキポキと鳴らしている。よく見ると、準決勝の時より筋肉量が服の上からでも見えるほど多くなっている。………これは普通の人ではなさそうだ。

「レディー………、ファイトっ!!」

 審判の男の掛け声と共にゴングが鳴った瞬間、男は走って距離を詰めて来た。ただ、それは普通に遅くて十分対応出来る。私も構えようとした時、とんでもない事を男が口にした。

「なぁ………、イアさんよ~?お前が慕っているマスターは大丈夫なのか~~?」
「……っ!?」

 私は驚きのあまり、腕を『昇華』する事が出来ず、男の拳を普通の腕をクロスした状態で受けてしまい、吹き飛ばされた。この大会はリングとかいうものが無いので、吹き飛ばされても問題は無いけど、両腕が折れた。

「はっ、やっぱり情報通りだったな。動揺させれば大した事は無いっ!!」

 男は更に距離を詰め、拳を全身目掛けて打ち込んできた。それは大したスピードでは無かったけど、私の冷静さをかき乱すには充分だった。
 次第に掠る事が多くなってきて、最終的には腹を殴られ、近くの屋台まで吹き飛び、屋台が崩壊した。屋台の瓦礫が追い打ちをかけるかのように私の体に鈍い感覚を与える。

 私は痛覚が無い。そんなものはとうに失った。けど、血は出るし、体はダメージを蓄積する。まして『昇華』を使っていない私の体は普通の女の子と大して変わらない。

 体が動かない。恐らく瓦礫によって行動を制限されているんだろう。思考だけが通常通り。……普通の人なら混乱するだろうけど、私は違う。整えればいい。

「あ~あ、つまらない任務だったな。こんな事なら"特異点"かその弟子に関する任務についた方が良かったかもな」
「…………安心するがいい。私はお前を退屈させない」
「…………ほう」

 私は瓦礫の中からで出てくる。勿論、腕も無傷。瓦礫によって出来た打撲痕も無い。

「一体どういうカラクリなんだ?」
「そんな事より私はあなたから情報をとらせてもらう。色々とマスターの身の回りに何か起こってるみたいだし」
「………やれるもんならやってみなっ!」


===リリ視点========================

 という事があったみたいで、イアさんは勿論軽々勝利。その男が『神の強欲ゴットグリード』の構成員で、師匠の事や私の事をとある手段で聞き出して、私達の所に駆けつけたという事みたいです。

「あのー、何かリアクションしてくれません?」
「あ………、神官の皆さんは色々と大変なんですねー(棒)」
「何ですかその感情のこもってない言葉は!?」

 朝からテンションの高いメイラさんをスルーして、アギラさんを探す。そして、そのアギラさんはこちらをニヤニヤとしながら少し離れた所で見ていました。私は神官達を掻き分けてアギラさんの所に来ました。

「何かおかしい事でもありましたか?ア ギ ラ さ ん?」
「いやー、流石俺が仕える神だ。あんたらがここに来るのをしっかり当てた。まぁ、お友達を連れて来るとは思わなかったが」

 そう言って、アギラさんはイアさんを見る。そう、イアさんと私とルルは背がほぼ同じ。お友達と思われても仕方ないのかもしれません。

「そんな事より、アルナ様に合わせて下さい!」
「おっ、これもアルナ様が言っていた通りだな。もっとも……、俺もそうだと思っていたが。…………夜中の事だろ?」
「ええ、やっぱり知っていましたか」
「当たり前だ、あんな凄まじい神気のぶつかり合いを感じたのは初めてだからな」

 そう言って、アギラさんはまた神官達とイアさんを神殿から追い出しました。やっぱり私とルルしか入れないのは変わらないみたい。

「じゃあ、開くぞ」

 二度目になるアルナ様との会話。一度目よりもリラックスした状態で神界へと入りました…………。

===============================

 昨日は諸事情により、投稿出来ませんでした。本当に申し訳ありません!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜

HY
ファンタジー
主人公は伯爵子息[レインズ・ウィンパルト]。 国内外で容姿端麗、文武両道と評判の好青年。 戦場での活躍、領地経営の手腕、その功績と容姿で伯爵位ながら王女と婚約し、未来を約束されていた。 しかし、そんな伯爵家を快く思わない政敵に陥れられる。 政敵の謀った事故で、両親は意識不明の重体、彼自身は片腕と片目を失う大ケガを負ってしまう。 その傷が元で王女とは婚約破棄、しかも魔族が統治する森林『大魔森林』と接する辺境の地への転封を命じられる。 自身の境遇に絶望するレインズ。 だが、ある事件をきっかけに再起を図り、世界を旅しながら、領地経営にも精を出すレインズ。 その旅の途中、他国の王女やエルフの王女達もレインズに興味を持ち出し…。 魔族や他部族の力と、自分の魔力で辺境領地を豊かにしていくレインズ。 そしてついに、レインズは王国へ宣戦布告、王都へ攻め登る! 転封伯爵子息の国盗り物語、ここに開幕っ!

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...