上 下
102 / 163
第6章 協力者

第62話 策略

しおりを挟む
===リリ視点========================

「もうこうなったら強行突破よ」

 青筋を浮かべ、怒っているのを隠さず、ティフィラさんは私達に提案とは言えない、感情任せの発言に、普段なら異議を唱えますが、アイを除くみんながシャルティ様が嫌になってきたのでそれで良いと思えてしまいます。

「強行突破でこの街から離れるんですか?」
「そうよ、あんな女とユウキを会わせる筋合いは無いわ!」

 あ、そういった意味でも嫌いだったんですか…………。

「早速、ここから離れて………っ!!」
「どうしたんですか!?」

 精霊を出して、荷物の整理をしようとしたティフィラさんは、何かに気づき、精霊と向かいあったまま、動きません。
 一体何事かとティフィラさんに駆け寄ったら、ティフィラさんはあり得ないとでも言いたそうなくらい驚愕しており、そして、ゆっくりと呟きました。

「……………魔法が使えない……」
「えっ!?」

 ティフィラさんが言った事が信じられず、私は確かめるために"身体強化"を使おうとしましたが、発動しません。まるで、魔力が無くなったような感じです。でも、私達は魔力が無くなった訳ではなく、ティフィラさんの魔力も私は感じられますし、私の魔力も感じられます。

「ルル!『魔導』を使ってみてっ!!」
「…………分かった」

 私のただならぬ表情で緊急事態だと分かったルルは魔導書を開いて『魔導』を発動させます。すると、

(バチッ!)「くっ!」

 私達の時とは違い、魔導書から雷のようなものが発生して、ルルは思わず魔導書を落としてしまいます。

「ルル!」
「………大丈夫、そんなに強くなかった」

 ルルに駆け寄り、魔導書を持っていた手を見てみると、確かに何ともありませんでした。

「一体何が………?」
「そんなの決まってるわよ!あの女が何かしたんだわ!!とにかく、ここから脱出しないと…………!リリ!お願い!!」
「……あっ!はい!!」
「くっ!何で開かないの!?」
「私は窓辺りをぶっ壊します!!」

 私は腰を落として、正拳突きの構えをします。それを見て、扉をバンバン叩いていたティフィラさんや他の皆は部屋の隅に固まります。
 こんな事態になった原因は分からないけど、ここにいても良い事は起こるはずはありません。

「"衝波「やらせぬ!」えっ!?」

 予選で使った『殲滅武術』を窓に向かって撃とうした時、突如、部屋の扉から男が飛び込んで来て、私にレイピアを突き刺そうとしてきましたが、体を逸らして間一髪で避けれました。私の体のすぐ隣にはレイピアが窓辺りにあった壁を貫通しています。

「これを躱すとはなっ!!」
「えっ!?ちょっ!待っーー」

 私がレイピアを躱した事に驚いた男もすぐに気を取り直し、今度は連続で色んなところに突き刺そうとしてきて、それを部屋を駆け巡るようにして躱しますが、これではジリ貧です。
 いずれ、体力の限界がきますし、相手はレイピアという軽くて貫通力がある武器なので、そんなに疲れないと思うので、こっちが体力面では不利。
 武器は師匠から貰ったポーチが機能せず、武器を取り出す事も出来ません。そして、何故か『ソウルウェポン』も出ません。
 魔法は当然使えず、ルル達に手伝ってもらおうにも、このレベルの相手だと私ぐらいしか戦えません。

「何故だ!?こっちは"身体強化"も『ソウルウェポン』の能力、"自身や武器の加速"を使っているのに!何故当たらん!!」

 男は案外、我慢弱い相手だったようで、攻撃のスピードは速まりましたが、雑になり、隙が出来てきました。そこをまるで針に糸を通すかのように、レイピアの刺突の雨をかいくぐり、相手の腹に、

「ただの正拳突き!!」
「ぐはっ!!」

 普通の正拳突きをして、窓辺りの壁にぶつけ、気絶させました。

「……………流石ですね、"身体強化"も使わず、うちのNo.2を倒すとは………。その才能と力量はあらゆる人を超えますよ、リリさん」
「…………やはり、あなたですか。シャルティ様」

 皆が予想していた通り、ぶち破られた部屋の扉から特に焦った様子もないシャルティ様が入って来ました。

「これも見えたんですか?」
「ええ、こうなる事は知っていたので、この宿にはあらかじめ、仕掛けを施しておきました」

 サラッとこの部屋とは言わず、宿と言った事から、窓から出ようとしたのは正解だったみたいです。

「魔法を封じる仕掛けなんて聞いた事も無いわ!」
「ティフィラさん、魔法だけではなく、魔導具も『ソウルウェポン』も使えません」
「え!?…………私の精霊が魔法を出せない!?」
「僕も変身出来ないな」
「私も『昇華』が使えません!!」

 各々が自分のほとんどの能力が使えない事に驚いている中、オリナが何も言っていない事に不安を覚え、オリナを探すと、オリナは元の褐色の肌をもつ魔神の姿になっていました。

「ふふっ、まさか魔神もアンデットもいるなんて………」
「それも見えていたんでしょう?」
「………はてはて、何の事やら」

 自分達の正体がバレて脂汗をかくオリナとアイ、それを見てクスクスと笑うシャルティ様。やっぱり、目は閉じていて、シャルティ様の真意が分からない。

 人の目は真意を示すとお父さんがよく言っていて、私もその通りだと思って、初めて会う人の目をよく見ようとしていた。
 師匠達やティフィラさん、ルルは優しそうな目をしているし、実際優しい。
 エルガさんは初めて会った時は読めなくて、不気味だったけど、ティフィラさんが絡むと恋する人の目になる。
 オリナはまるで迷子のような目をしていたけど、今は師匠達と同じように優しい目になっている。
 アイは純粋に親を求める子供のような、危なげな目だったけど、最近は友達想いの子供のような目になってきている。

 このように、人は思った以上に目は真実を表すけど、シャルティ様はずっと目を閉じているから真意を見定める事が出来ない。もしかしたら、シャルティ様はこの事を知っているかもしれない。私達の親に会った事があるみたいだし、お父さんがこの話をしていたとしたら、警戒するために目を閉じているのかな?

「………………私はそういう訳ではありませんよ?」
「………っ!?………私の考えている事が分かるんですか?」
「ええ。その力があったからこそという訳では無いんですが、助けられた事は何度もありますよ」

 シャルティ様は未来や過去を見る力と相手の思考を読み取る力の二重で、自分の思い通りにしてきたって事になりますね………。

「ええ、思い通りにならない場合もありましたけど……」

 その思い通りにならない時はいつも近くにいる護衛の騎士団長の力でどうにかしていたという事ですか?

「正解です♪リリさんは本当に聡明な人ですね~。だったら、分かるんじゃありませんか?」
「……………はぁ、私達は降参しますよ」

 私が降参の宣言をし、両手を上げた事にティフィラさんは納得がいかないようで、

「え!?リリ!どうして………!?」
「今度はあの男より強い男が来ます。今の私では勝てません」
「ふふっ、安心してください。危害を加える事はありませんから………」

 シャルティ様がそう言うと、扉から続々と騎士が入って来て、私達を簡単に縄で拘束していきます。その縄にも何かしてあるようで、力が一気に抜けていきます。

「さて………、これからどうなるんでしょうね」

 シャルティ様の呟きはやけに耳に残りました………。

===============================

 シャルティに捕まったリリ達!これからどうなるでしょうか!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...