上 下
79 / 163
第5章 神の力

第39話 暴走

しおりを挟む
===リリ視点========================

(ドゴォーーーン!!!)

 エルガさんに全速力で戻っている時に、激しく吹き荒れる風の中でも聞こえた轟音。ルルとかに聞いてみたいけど、風が強すぎてずっと振り落とされないように体を低くして必死にエルガさんの何故か熱くない体毛にしがみついていて、そんな余裕はありません。……どうか無事でいてください!師匠!!

===ユウキ視点========================

「はぁ、はぁ、はぁ」

 一気に訪れた魔力切れで、気を失いそうになるが、何とかこらえ、黒い炎で大きな空洞が出来たように無くなった木々の奥を睨む。奴は黒い炎に飲まれ、黒い炎の勢いで遠くに飛ばされた。黒い炎は対象を燃やしきるまで残るが、あの神はそれも意味が無さそうにみえる。

「………取り敢えず、ここら辺のは消しとくか」

 僅かな魔力で木々に燃え移っていた黒い炎を消す。途端に耐え難い睡魔が襲い、気を失いそうになるが、奴がどうなったかぐらいは見ておきたいな……。重い体を奮い立たせ、ゆっくりと森に出来た所々黒くなり、木々の無い所を進む。

(大丈夫ですか?)
 いや、全然。
(今、攻武と一緒に魔力を何とか集めているので、もう暫くすればトドメをさす事ぐらいは出来ますので………)
 よろしく頼むな………。
(はいっ!)

 それにしても、こんなに追い詰められたのは初めてだ。これまでに本気を出した事は何回かあるが、こんなに追い詰められたのは無かった……。これで奴が死んでなかったら、間違いなく俺は殺されるな………。
 そういや、技姫やティフィラはどうなったんだ?意識が朦朧としているから察知出来ないからな。エルガはしっかりとあいつらを安全な場所に連れて行ってくれたか?……まあ、奴が生きていたら、俺は殺され、こんな考えも意味はなくなるな。

 いよいよ燃えて無くなった木々の範囲が狭まっていき、魔神領側へと近づいていく。幸いな事に、奴が飛んでいった方向は森の左端にある魔神領の軽い崖がある所で、絶壁とは言えないが、そこそこ高い土壁がある。そのおかけで森から出ていく事は無かったみたいだな。
 少しすると、崖が見えてきた。所々ひびが入っているのは気のせいだと信じたい。そして、漸く土壁が見え、その土壁にめり込んでいる赤髪の男が見えた。所々火傷を負い、血溜まりが出来ている。……本来なら骨すら残らないはずだが、流石は神ってところか………。というかどうしよ。生死が判別しにくいな……。無闇やたらに近づくと、生きていたら不意打ち攻撃で俺が死ぬし、死んでいるならそれでいいんだが……。
 
(もう少し待っていただければ、魔力がある程度回復しますので。それから確認すればいいのでは?)
 そうだな、そうしよ。

 俺は近くの木にもたれかかり、奴を睨む。暫くそのまま奴を見ていると、奴の体がピクリと僅かに動いた。
 
 守姫、まだか?
(あと、少しです!)

 最初は一回だけ僅かに動いた程度だったが、徐々に動く回数、頻度が上がり、少しずつ指先から指全体、手から腕と、可動領域が広がっていく。

 守姫!まだか!?
(あと10秒です!)

 そして、遂に………!
(バコォォン!)
 奴が出てきた!

(溜まりました!使えるのはせいぜい"雷刀"ぐらいですよ!)
 分かった!

 俺は右手に雷を纏い、刀のように硬く固め、奴の首辺りに突き出す!奴はまだ反応出来ないはず!俺の突きは奴の首に当た………らなかった。何故かというと、俺の手を奴がギリギリで掴んだからだ。

「…………!」
「………済まない」
 
 驚いている俺に投げかけられたのは、何故か謝罪の言葉。奴の顔をよく見ると……奴の顔は顔のちょうど中心辺りで表情が分かれていた。右半分は通常通りの寡黙な表情だが、明らかに悲しげな表情になっており、左半分に至っては、口の端を限界まで吊り上げながら、気味の悪い笑顔になっていた……。

===ルル視点========================

 凄い破壊音の後、何も聞こえない。不気味なくらい静けさがある。
 今、私たちは最も破壊されているところにいる。そこにお師匠様がいると思ったから。お師匠様の行方は、犬の耳が生えたエルガさんが匂いを嗅いで探している。姉さんは辺りをウロウロ、オリナはまた気絶している。

「あ、やっぱりこの破壊された所の先だ」

 エルガさんは元の人間の姿に戻りながら黒くなっている土や周りの木々の先を指す。

「その先に師匠が………!」

 姉さんは吸い込まれるように進み出す。その目は不安で染められていて、体に覇気も何もない、親を求める子供のようだった。

「姉さん、焦りは禁物だよ」
「…………!」

 私の言葉で漸く正気に戻った姉さん。けど、目はまだ変わってない、弱々しい子供のようだった。

「さあ、進もう。何故かは分からないけど、森の魔物は全く見当たらない今のうちに」
「はいっ」「………はい」

 エルガさんはオリナを背負いながら先導する。その後を追う私と姉さん。……どこか嫌な予感がするけど、行かない訳にはいかない。お師匠様と早く合流して、襲いかかってきた奴らを蹴散らし、あの楽しかった日々に戻るんだ………!!

===ユウキ視点========================

「ぐぅっ!あぁぁぁっ!!」

 動かなくなった右腕をぶらぶらとさせながら、苦しみ出した神から離れる。奴は俺の手を掴んだ後、あの奴が纏っていた赤黒い光を俺に纏わせ、まるで大きな手で握りつぶすかのように圧迫して俺の腕を駄目にしやがった。……幸いな事にすぐに腕から手を離して苦しみ始めたから他はやられなかったが……。

(大丈夫ですか!?ご主人様っ!?)
 正直とっても痛ぇ……!
(何なんだ?あれは一体………)
 さあな?恐らく力の暴走だと思うが……
(………っ!来ますっ!!)
 分かってるよっ!!

 奴の体から赤黒い光が漏れ出し、俺に筋が通ったかのようにしっかりとした光が一斉に襲いかかってくる。それを何とか体を反らしたり、ジャンプしたりして躱しているが、もう俺の体は限界だ……。いずれ光が俺を貫くだろう……。どうすれば………!
 躱しながら奴の顔を見る。すると、右半分が何か呟いている。読唇術で読むと……

『私の力は"暴走"。……あと少しで俺の意識が消える。それまでに何とかしろ』

 さっきの苦しそうな叫び声からして、奴にはそれなりに激痛が走っていると思ったが、意外と流暢だった。という事は、あれは左半分が苦しんでいるということか………。いや、それが分かっても何が出来る?今の俺の魔力じゃ『魔導』は使えないし、技姫もいない。……どうすれば…………

(あれこれ悩みすぎだ!)
 攻武?
(そうですよ!ご主人様には私達がついていますし、それに暫くすれば技姫も来ます!今はそれまでどうするかを考えるべきです!!)
 守姫………そうだな、その通りだ。取り敢えず、守姫達はまた魔力を確保してくれ。それまでは何とか逃げる。
((了解!!))

 俺は迫り来る光を躱しながら奴を観察する。奴の体から出ている光は貫通、圧縮ができ、形は変幻自在と考えるとして、狙うのは………抵抗の少なそうな右側かな。

「つ~かまえた!」
「……!しまったっ!!」

 観察に夢中で、いつの間にか左太ももを光が貫通していて、そのまま俺を持ち上げると、ここに来るのに通って来た焼却された後のある地面が続く方向に飛ばされた。激痛が走りながらもどうする事も出来ない俺はそのまま飛ばされた………。

===============================

 赤髪の神の正式名称は出ませんでしたが、何となく分かりましたよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇の天才幻獣テイマー(笑)にざまぁされたほうのパーティリーダーですが、あいつがいなくなったあと別の意味で大変なことになっているんだが?!

あまね
ファンタジー
〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 足手まといだからとハシタ金を投げつけられてパーティをクビになった僕は、いらない子扱いされたチビドラゴンを連れてひとり旅に出ました。 そのチビドラゴンはどうやら神龍の子供だったとかで、今は世界に数人しかいない幻獣テイマーとして三食昼寝付きの宮仕えの身です。 ちなみに元のパーティは、僕が置いてきた超低レベルの幻獣すら扱いきれず建物を半壊させて牢屋にブチ込まれたそうですよ? ヤレヤレʅ(◞‿◟)ʃ 〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 ――――というあらすじにでもなるのだろう。 俺、ライアンが解雇を告げたデンスに語らせれば。 しかし残された俺たちからしたらとんでもない。 幻獣テイマーだというのが自称に過ぎないというのは薄々気づいていたが…… ただでさえ金のかかるやつだったのに、離脱後に報奨金の私的流用が発覚! あいつが勝手に残していった幻獣が暴れたことの責任を被らされ!! しかもその幻獣は弱って死にかかっている?!!! おい、無責任にもほどがあるだろ!!!!!!!!!!!!!!!! 無双ものんびり生活もほど遠い堅実派の俺たちだが、このマンダちゃん(※サラマンダー)の命にかけて、お前のざまぁに物申す!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

無人島ほのぼのサバイバル ~最強の高校生、S級美少女達と無人島に遭難したので本気出す~

絢乃
ファンタジー
【ストレスフリーの無人島生活】 修学旅行中の事故により、無人島での生活を余儀なくされる俺。 仲間はスクールカースト最上位の美少女3人組。 俺たちの漂着した無人島は決してイージーモードではない。 巨大なイノシシやワニなど、獰猛な動物がたくさん棲息している。 普通の人間なら勝つのはまず不可能だろう。 だが、俺は普通の人間とはほんの少しだけ違っていて――。 キノコを焼き、皮をなめし、魚を捌いて、土器を作る。 過酷なはずの大自然を満喫しながら、日本へ戻る方法を模索する。 美少女たちと楽しく生き抜く無人島サバイバル物語。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

処理中です...