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わたしは見てはいけないものを見てしまった
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話は少しズレてしまったが、わたしはラーメンを食べたのである。
來風という大層うまいラーメン屋でいつものラーメンを食べたのである。
ラーメンを食べて、満足して帰っている途中、何やら聞いたことのない音が聞こえるではないか。
二十年の人生の中でこのような音は聞いたことないというような異音である。
「なんだ、この音……?」
ついつい気になってその方向を探るとどうやら裏路地の方から聞こえてくるようである。
君子危うきに近づかずというが、残念ながらわたしは君子には程遠い不器用、運動音痴、おおざっぱ三拍子揃った駄目人間である。
さらには大将から勧められて断り切れずに飲んだ酒のアルコールが残っていたのだろう。
「行ってみるか」
少しだけ気が大きくなっていたわたしは、ぶくぶくと肥大化した好奇心を抑えることが出来なかった。
漫然と毎日をすごし、日々何か変わったことはないか、非日常は起きないかと夢想するだけで何もしない憐れなわたしは裏路地へと歩を進めてしまったのである。
もしあの時の自分に何かを声を掛けられるのならやめておけ、今すぐ家に帰って寝ろと言いたい。
「ん?」
だが、そんなことはできず、わたしは裏路地へ入り、その奥でうずくまって何かをしている何某に出会ってしまったのである。
暗闇の中にうずくまる何某は、何かを口にしているようである。くちゃくちゃと咀嚼音がする。
さらにそれに混じるのはがきんがきんという金属音のようなものであった。
今思えば、顎が打ち鳴らされていた音なのだろう。
「あの……?」
しかし馬鹿なわたしはそんなことつゆ知れず話しかけてしまったのである。
もっと観察に徹しろと言いたいが、わたしは我慢強くないのである。
何事も長考するが短絡的行動も同じくらいとってしまうのである。一言多いとよく言われるのはそのせいだ。
深く考えるときと考えないと気があって、今は考えない時だった。
「――キ、見られた」
それがわたしと怪人物との出会いである。
こちらに振り返った怪人物、妖怪昆虫男はその口と思われる部分から大量の血が流れ出ていた。もしそれが彼自身の血であればどんなに良かったことであろう。
しかし、その血は憐れな犠牲者の血だったのである。
何ともばっちく最悪の状況に遭遇したものだと、現実味が欠如した思考の中で思ったものだ。
ついでに言えば、怪人物がむしゃむしゃしていたのは誰かの死体であることもこの時に気が付いた。
死体をはグロいものであるが、生物学を専攻しているわたしにとって、その手のグロはさほど響かない。
気持ち悪い程度のことは思うが、死体程度で泣き叫ぶほどではないのである。鈍感ともいうか。
「見られた、殺す……」
なによりこの劇的かつ非日常的な状況に、わたしの脳が追い付いていないのである。
さらに付け加えるならば、わたしは腰が抜けていた。
あとはもう諸兄らが知る通りの展開である。
これが事の起こりというもので、ここから先が現在の出来事になる。
來風という大層うまいラーメン屋でいつものラーメンを食べたのである。
ラーメンを食べて、満足して帰っている途中、何やら聞いたことのない音が聞こえるではないか。
二十年の人生の中でこのような音は聞いたことないというような異音である。
「なんだ、この音……?」
ついつい気になってその方向を探るとどうやら裏路地の方から聞こえてくるようである。
君子危うきに近づかずというが、残念ながらわたしは君子には程遠い不器用、運動音痴、おおざっぱ三拍子揃った駄目人間である。
さらには大将から勧められて断り切れずに飲んだ酒のアルコールが残っていたのだろう。
「行ってみるか」
少しだけ気が大きくなっていたわたしは、ぶくぶくと肥大化した好奇心を抑えることが出来なかった。
漫然と毎日をすごし、日々何か変わったことはないか、非日常は起きないかと夢想するだけで何もしない憐れなわたしは裏路地へと歩を進めてしまったのである。
もしあの時の自分に何かを声を掛けられるのならやめておけ、今すぐ家に帰って寝ろと言いたい。
「ん?」
だが、そんなことはできず、わたしは裏路地へ入り、その奥でうずくまって何かをしている何某に出会ってしまったのである。
暗闇の中にうずくまる何某は、何かを口にしているようである。くちゃくちゃと咀嚼音がする。
さらにそれに混じるのはがきんがきんという金属音のようなものであった。
今思えば、顎が打ち鳴らされていた音なのだろう。
「あの……?」
しかし馬鹿なわたしはそんなことつゆ知れず話しかけてしまったのである。
もっと観察に徹しろと言いたいが、わたしは我慢強くないのである。
何事も長考するが短絡的行動も同じくらいとってしまうのである。一言多いとよく言われるのはそのせいだ。
深く考えるときと考えないと気があって、今は考えない時だった。
「――キ、見られた」
それがわたしと怪人物との出会いである。
こちらに振り返った怪人物、妖怪昆虫男はその口と思われる部分から大量の血が流れ出ていた。もしそれが彼自身の血であればどんなに良かったことであろう。
しかし、その血は憐れな犠牲者の血だったのである。
何ともばっちく最悪の状況に遭遇したものだと、現実味が欠如した思考の中で思ったものだ。
ついでに言えば、怪人物がむしゃむしゃしていたのは誰かの死体であることもこの時に気が付いた。
死体をはグロいものであるが、生物学を専攻しているわたしにとって、その手のグロはさほど響かない。
気持ち悪い程度のことは思うが、死体程度で泣き叫ぶほどではないのである。鈍感ともいうか。
「見られた、殺す……」
なによりこの劇的かつ非日常的な状況に、わたしの脳が追い付いていないのである。
さらに付け加えるならば、わたしは腰が抜けていた。
あとはもう諸兄らが知る通りの展開である。
これが事の起こりというもので、ここから先が現在の出来事になる。
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