春の洗礼を受けて僕は

さつま

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親愛なるあなたへ

14話 告白4

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 ヒロから「ゆっくりおいでー」とのメッセージが届いたのもあって、夏伊は必要以上は焦らずに支度をしているようだ。
 着替えて髪を整えて、洗面台から戻る。窓から入る晩夏の日差しが、夏伊の髪をキラキラと照らした。
 ざっくりとTシャツとテーパードパンツを着ているだけなのに、やたらと格好良く見える。
「……」
 また、胸がむず痒くなって、睦月は頭を振った。
「どうした、体つらいか」
「それは、ちょっと良くなってきた」
「後は車に乗ってるだけだから。でも体調崩したらすぐに言えよ」
「わかった」
 またゆっくりと階段を降りて、ハナさんに挨拶をして失礼した。
 乗り心地の良い車の座席に、深く座る。運転手さんがドアを閉めてくれて、出発する。
 夏伊が度々、駒沢公園通りだとか、駒場東大だとか、代々木公園だとか教えてくれて、へーとかほーとか相槌を打った。
 30分くらいで、ヒロの家があるというマンションの前に着いた。ここはなんのホール? と聞きたくなるような、大きな吹き抜けのエントランスを抜けて、最上階に行く。
「夏伊、むっちゃん、ようこそー」
「遅くなって悪い」
「全然いいよー。昼になったら始めようって話してたんだ。ちょうどよかった」
 どうぞ、と案内される。
 リビングに入ったら、カヤが夏伊を見て、あっと声を出す。
「もー遅い!」

 ヒロのご両親は急用で不在とのことで、自由にやってくれと、飲食物を色々と用意してくれていた。
 夏伊とカヤの遅ればせながらの誕生日祝いに、ヒロが用意してくれたケーキがまたおいしくて。
「カヤが持ってきてくれたデザートもあるけど、二人はもう食べられなさそうだね」
 ヒロが笑う。
「そうね…苦しい」
「ほんと…苦しい」
 カヤと睦月は、しこたま食べた結果、ソファに撃沈している。
 あ、そうだと言って、カヤが睦月に話しかける。
「むっちゃんってすごいのね! 成績良くてびっくりした!」
 睦月は一学期の期末試験でも、変わらず三位を守っていた。
「でも、二位にはなれないんだよなあ…」
「いいじゃない! 三位なんだから! ねえヒロ!」
 そうだねと、学年一位のヒロが笑う。
「うーどうしよ、わたし、日本の受験を乗り越えられるのかな…」
 カヤが頭を抱えるので、睦月が声をかけた。
「カヤの順位なら、きっと大丈夫だよ」
 四人が通う高校は、大学の附属校だ。とは言え、希望者全員がエスカレーター式に上がれる訳でもない。
 カヤが、わたし部活に入ってないし、途中編入だし…とうなだれる。外文辺りならチャンスあったけど、文系はまったく興味ないからなーと呟いた。
「むっちゃんはいいなー、安泰だよね…」
「あ、おれは受験するから内部進学はしないよ」
 三人がえっと睦月を見る。
「えっ。おれ、行きたい大学があるから」
「そうなんだぁ~」
 ヒロもうなだれる。
「一緒に通えると思ってたのに~。むっちゃ~ん…」
「同じ大学だったとしても、学部が違うでしょ…。ヒロは医学部、おれは化学に進みたいし」
 落ち込んでいたカヤがハッと息を飲む。
「夏伊、期末の成績20位くらいだったでしょ? わたしより上だから、夏伊も外部進学してよ! そしたら二枠空く!」
「横暴だな」
 夏伊が睦月の横に座る。
 ヒロと睦月が、あ、と目を合わせた。
 沈黙。
「…え、どうしたの?」
「…夏伊も…受験するんじゃない…?」
 恐る恐る、ヒロが口を開く。
「そうだな」
「えっ、何なの、そうなの?」
 カヤが訝しげな顔になる。
「一年の時に停学処分を受けた。内申に問題があるから、そもそも内部進学はできない」
 夏伊がアッサリと答える。
「…停学? …停学??」
 今となっては、自分が事件の原因であることを知っている睦月も、大変に気まずい。
「…何をやったのよ…」
「人を殴った」
「何で殴ったのよ」
「腹が立った」
「誰を殴ったのよ」
「同級生」
「何やってんのよ…!」
「後悔はしていない」
 驚きのあまり目を大きく開くカヤと対照に、夏伊は全く動じない。
「法学部は他にもある。俺も狙っている大学がある」
「でも、腹が立って拳で解決した夏伊が法学部ってのも、すごいよね」
 ヒロが苦笑する。
「停学…停学…」
 ブツブツと唱えていたのを止めて、カヤがふと言った。
「…弁護士になりたいの? 停学になった人って、弁護士になれるの?」
「えっ?」
 ヒロが声を上げる。
「なれない? なれないの?」
 カヤが半泣きになる。
「それはわたしも聞きたいよ」
「それは、大丈夫…だと思うよ…」
 睦月が手を挙げた。
「前に、暴力団の人の妻だった人が弁護士になった自伝を読んだことあるよ。その位の過去がある人でもなれるのなら、大丈夫じゃないかな…」
 夏伊は示談で終わってるし…と付け足す。
「とは言え、脛に傷を持つ身なのは違いないからなあ…」
 ヒロがつぶやいた。
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