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親愛なるあなたへ
13話 告白3
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電話が鳴っている。
音のする方を手で探ると、スマホに触れた。
「…もしもし」
「ちょっと夏伊、いまどこにいるのよ!」
「……カヤ…」
「連絡もしないで! 今どこで何してんのよ!」
相当怒っている様子だ。声がキンキンと耳に障る。
「……睦月の…」
スマホを離して時間を見た。8時の表示。
「……朝?」
「寝ぼけてるところ悪いけど、今日はヒロの家に行く予定でしょ!? わたしは時間になったら家を出るけど、夏伊もちゃんと来てよ!」
プープーと、終和音が流れる。
睦月は、夏伊の胸に頭をくっつけて静かに寝ていた。
改めて告白しあった事を思い出して、一瞬心が温まったものの、その後の断片的な記憶がいたたまれない。
腹を括って、声をかけてみた。
「睦月」
深く眠っているのか、反応がない。
「睦月」
うっすらと目が開く。
「睦月、起きろ」
「……え?」
「おはよう」
努めて笑顔で振る舞う。
睦月も寝ぼけながら笑顔になりかけたものの、不機嫌な表情にスッと切り替わった。
「やめてって言ったのに。もう、出ないって言ったのに」
「悪い」
「あんな変なの、嫌だ」
変なのが具体的に何を指しているのかは分からないが、「そうだよな」と返す。
「悪かった。気分が乗りすぎて」
「だろうね」
「許して欲しい」
睦月が身じろぎしようとして、ため息をついた。
「腰が終わってる」
睦月に、今日は止めておくか聞いたら「行くに決まってる」と怒るので、ひとまず車をマンションの前に回してもらう。
嫌がる睦月を説得し、シャワーで体を洗ってやった。一人で着られると突っぱねるのも宥めて、着替えを手伝う。
それから、夏伊の着替えのため、香月家に向かった。
「睦月、車内で待ってるか? 家で待つか?」
「…じゃあ、お家で待ちたい」
夏伊が差し伸べる手を素直に掴んで、降りる。
駐車場から通用門を開けて、中に案内された。
「わあ…」
大きな邸宅が並ぶエリアにおいても、この敷地を擁する家はそうそうない。
主屋は和の作りでありながら、玄関にタイルがあしらわれていたり、昔の家にしては大きく開口した瀟洒な窓が付いていて、伝統建築とモダニズムが折衷している。
「そういえば、ハーブを育ててるんだっけ?」
「裏庭でな。それはまた今度」
石を敷かれたアプローチを歩き、玄関前に迫り出して伸びる木をくぐるようにして、玄関に入った。
「夏伊様! お泊まりの際は連絡を…」
中年女性が、あっと口を噤む。
「お客様の前で、大変失礼いたしました」
応接室の準備を…と慌てる女性を、夏伊が止める。
「いい。それよりハナさん、カヤはまだいる?」
「いえ、先程お出になられました」
「荷物は持って行った?」
「荷物…ええ、ええ」
「良かった。睦月、階段上がれそうか?」
夏伊に振り向かれて、呆気に取られた睦月が、ようやく口を開く。
「急にお邪魔してすみません…。木之内です…。階段は、大丈夫…」
「なら、俺の部屋に案内する」
廊下を端から端まで歩いて、二階に続く階段を上がる。
「ゆっくりでいいぞ」
「うん…」
二階には、二間続きの和室と、トイレと洗面台がある。昔はここをカヤと二人で使っていたが、今は二階全てを夏伊の部屋にしているという。
「じゃあ、今はカヤはどこで生活してるの?」
「一階の洋間」
部屋の端に置かれたソファに、睦月がちょこんと座る。
夏伊の家に圧倒されて、さっきまでの怒りは何処かに飛んでいったようだ。所在なさげに辺りを見回しながら、つぶやいた。
「……夏伊って、本当に、お坊ちゃんなんだね……」
「まあ、否定はしない」
押し入れから服を取り出しながら、返事をする。
窓の向こうに庭園が広がっている。
「どこかの旅館みたい」
「ただの古い家だ」
狭いし、と言うから、睦月が驚いて否定する。
「いや、ほら」
夏伊の頭より低い位置にある鴨居に手をかける。
「この家は、俺の体の寸法と合ってない。毎日各所で何度もくぐらないといけないし、生活しづらい」
「夏伊でかいもんね、そうだね」
鴨居にぶつからなかった睦月が、少しふくれた。それを見て、夏伊がふっと笑って、洗面台の方へ歩いて行った。
音のする方を手で探ると、スマホに触れた。
「…もしもし」
「ちょっと夏伊、いまどこにいるのよ!」
「……カヤ…」
「連絡もしないで! 今どこで何してんのよ!」
相当怒っている様子だ。声がキンキンと耳に障る。
「……睦月の…」
スマホを離して時間を見た。8時の表示。
「……朝?」
「寝ぼけてるところ悪いけど、今日はヒロの家に行く予定でしょ!? わたしは時間になったら家を出るけど、夏伊もちゃんと来てよ!」
プープーと、終和音が流れる。
睦月は、夏伊の胸に頭をくっつけて静かに寝ていた。
改めて告白しあった事を思い出して、一瞬心が温まったものの、その後の断片的な記憶がいたたまれない。
腹を括って、声をかけてみた。
「睦月」
深く眠っているのか、反応がない。
「睦月」
うっすらと目が開く。
「睦月、起きろ」
「……え?」
「おはよう」
努めて笑顔で振る舞う。
睦月も寝ぼけながら笑顔になりかけたものの、不機嫌な表情にスッと切り替わった。
「やめてって言ったのに。もう、出ないって言ったのに」
「悪い」
「あんな変なの、嫌だ」
変なのが具体的に何を指しているのかは分からないが、「そうだよな」と返す。
「悪かった。気分が乗りすぎて」
「だろうね」
「許して欲しい」
睦月が身じろぎしようとして、ため息をついた。
「腰が終わってる」
睦月に、今日は止めておくか聞いたら「行くに決まってる」と怒るので、ひとまず車をマンションの前に回してもらう。
嫌がる睦月を説得し、シャワーで体を洗ってやった。一人で着られると突っぱねるのも宥めて、着替えを手伝う。
それから、夏伊の着替えのため、香月家に向かった。
「睦月、車内で待ってるか? 家で待つか?」
「…じゃあ、お家で待ちたい」
夏伊が差し伸べる手を素直に掴んで、降りる。
駐車場から通用門を開けて、中に案内された。
「わあ…」
大きな邸宅が並ぶエリアにおいても、この敷地を擁する家はそうそうない。
主屋は和の作りでありながら、玄関にタイルがあしらわれていたり、昔の家にしては大きく開口した瀟洒な窓が付いていて、伝統建築とモダニズムが折衷している。
「そういえば、ハーブを育ててるんだっけ?」
「裏庭でな。それはまた今度」
石を敷かれたアプローチを歩き、玄関前に迫り出して伸びる木をくぐるようにして、玄関に入った。
「夏伊様! お泊まりの際は連絡を…」
中年女性が、あっと口を噤む。
「お客様の前で、大変失礼いたしました」
応接室の準備を…と慌てる女性を、夏伊が止める。
「いい。それよりハナさん、カヤはまだいる?」
「いえ、先程お出になられました」
「荷物は持って行った?」
「荷物…ええ、ええ」
「良かった。睦月、階段上がれそうか?」
夏伊に振り向かれて、呆気に取られた睦月が、ようやく口を開く。
「急にお邪魔してすみません…。木之内です…。階段は、大丈夫…」
「なら、俺の部屋に案内する」
廊下を端から端まで歩いて、二階に続く階段を上がる。
「ゆっくりでいいぞ」
「うん…」
二階には、二間続きの和室と、トイレと洗面台がある。昔はここをカヤと二人で使っていたが、今は二階全てを夏伊の部屋にしているという。
「じゃあ、今はカヤはどこで生活してるの?」
「一階の洋間」
部屋の端に置かれたソファに、睦月がちょこんと座る。
夏伊の家に圧倒されて、さっきまでの怒りは何処かに飛んでいったようだ。所在なさげに辺りを見回しながら、つぶやいた。
「……夏伊って、本当に、お坊ちゃんなんだね……」
「まあ、否定はしない」
押し入れから服を取り出しながら、返事をする。
窓の向こうに庭園が広がっている。
「どこかの旅館みたい」
「ただの古い家だ」
狭いし、と言うから、睦月が驚いて否定する。
「いや、ほら」
夏伊の頭より低い位置にある鴨居に手をかける。
「この家は、俺の体の寸法と合ってない。毎日各所で何度もくぐらないといけないし、生活しづらい」
「夏伊でかいもんね、そうだね」
鴨居にぶつからなかった睦月が、少しふくれた。それを見て、夏伊がふっと笑って、洗面台の方へ歩いて行った。
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