48 / 62
親愛なるあなたへ
2話 春1
しおりを挟む
階段を一番上まで登っていく。
ドアを開けると、春の風が睦月の横を掠めていった。
「夏伊、ヒロ、おはよう。元気? 聞きたいことがあるんだけど」
屋上の床に座る。
「ブルータス、お前もか」
「ほんとに裏切りだよ」
ヒロが顔を歪めて言う。
「えっヒロ、どうしたの?」
「全然教えてくんないんだもん。オレが帰国を待ち侘びてることなんて、前から知ってるくせに」
「帰国?」
後ろでドアが音を立てて開いた。美麗の少女が屋上に現れる。
「わたしが整理しようか」
彼女が微笑み、ヒロは笑顔になり、夏伊の顔はめちゃくちゃに渋くなる。
睦月は夏伊に、この人物について聞きたかったので、願ったり叶ったりだ。
「夏伊の双子の姉の、香月夏弥です。ヒロの許嫁だよ。海外に住んでたけど、先日帰ってきました。これからよろしくね」
情報量が多い。
「…そうだったんだ。木之内睦月です。よろしく…」
夏伊とカヤを、何度も見る。
「…双子なんだ」
たしかに似ている。夏伊とカヤは、身長と栗色の髪の長さ位しか違いがない。
それでいうと、文化祭の時にメイド姿になった夏伊とそっくりだ。でも口に出すと場が凍りつきそうなので黙っておく。
「あれ、もしかして、むっちゃんにも何も言ってなかったの?」
ヒロが信じられないといった表情を浮かべる。
察したカヤが、あららと手で口を覆った。
「お姉ちゃんが帰ってくるの、楽しみに待ってくれてるのかと思ってたのにナー」
ちらりと夏伊を見る。
「姉ぶるのはやめろ、そんなに時間差はなかったはずだ」
出生時のことを言っているらしい。
「クラス分けの表見て驚いたんだけど。てっきり理系に行くと思ってたのに、夏伊が文系だなんて。算数、得意だったのにね」
『算数』の響きが懐かしく感じられたのか、ふふっと笑う。
「海外って、どこに行ってたの?」
睦月が聞く。
「インドネシアだよ」
「その話は終わり」
夏伊が無理矢理に話を断つ。
カヤが一瞬、物言いたげな顔をしたけれど、はーいと応じた。
今日は授業もなく、昼には屋上も閉鎖されるため、そのまま帰ることにした。
ヒロに合わせて駅まで行き、それから三人で帰る。一年の間は夏伊と二人で歩いていた道。
なんだか不思議だなと呟いたら、カヤに、夏伊とむっちゃんは仲良しなんだねと微笑まれた。
「まあ、ねえ」
睦月の歯切れの悪い返事に、夏伊がムッとする。
「まあねえって、何だよ」
「え、別に…」
「むっちゃん、夏伊っていつもこんなに機嫌が悪いの?」
「うーん、どうだろう。何が悪いものでも食べたのかな」
カヤがぱっと手を挙げる。
「わたしそれ知ってるよ! カンノムシでしょ」
「疳の虫は赤ちゃんが大泣きするやつだろ」
「そうなんだ。でも当たらずとも遠からず、って感じだね」
夏伊を見て笑う。
「お前は本当に失礼な奴だな」
離れている間にちょっとはいい性格になったかと思ったら、とぶつぶつ言う。
「そう言えば、カヤは何で海外に行ったの?」
日本に家がある上で小さい頃に留学するなんて、珍しい気がする。音楽か何かで? と聞く。
「父親の単身赴任に、ついて行ったんだよ」
「そうなんだ。夏伊と離れるの寂しかったんじゃない?」
「ふふ、そうだね」
そして夏伊の方を向く。
「もうしばらく、海外にいた方が良かったかな」
「…別に」
ぶっきらぼうに、夏伊が言った。
しばらくして、マンションの前で二人と別れた。
二人並んで帰っているのを見ていたら、何だかほっとした。
カヤがいるなら良かった。夏伊はこれからは、ご飯を一人で食べなくていいんだ。
ドアを開けると、春の風が睦月の横を掠めていった。
「夏伊、ヒロ、おはよう。元気? 聞きたいことがあるんだけど」
屋上の床に座る。
「ブルータス、お前もか」
「ほんとに裏切りだよ」
ヒロが顔を歪めて言う。
「えっヒロ、どうしたの?」
「全然教えてくんないんだもん。オレが帰国を待ち侘びてることなんて、前から知ってるくせに」
「帰国?」
後ろでドアが音を立てて開いた。美麗の少女が屋上に現れる。
「わたしが整理しようか」
彼女が微笑み、ヒロは笑顔になり、夏伊の顔はめちゃくちゃに渋くなる。
睦月は夏伊に、この人物について聞きたかったので、願ったり叶ったりだ。
「夏伊の双子の姉の、香月夏弥です。ヒロの許嫁だよ。海外に住んでたけど、先日帰ってきました。これからよろしくね」
情報量が多い。
「…そうだったんだ。木之内睦月です。よろしく…」
夏伊とカヤを、何度も見る。
「…双子なんだ」
たしかに似ている。夏伊とカヤは、身長と栗色の髪の長さ位しか違いがない。
それでいうと、文化祭の時にメイド姿になった夏伊とそっくりだ。でも口に出すと場が凍りつきそうなので黙っておく。
「あれ、もしかして、むっちゃんにも何も言ってなかったの?」
ヒロが信じられないといった表情を浮かべる。
察したカヤが、あららと手で口を覆った。
「お姉ちゃんが帰ってくるの、楽しみに待ってくれてるのかと思ってたのにナー」
ちらりと夏伊を見る。
「姉ぶるのはやめろ、そんなに時間差はなかったはずだ」
出生時のことを言っているらしい。
「クラス分けの表見て驚いたんだけど。てっきり理系に行くと思ってたのに、夏伊が文系だなんて。算数、得意だったのにね」
『算数』の響きが懐かしく感じられたのか、ふふっと笑う。
「海外って、どこに行ってたの?」
睦月が聞く。
「インドネシアだよ」
「その話は終わり」
夏伊が無理矢理に話を断つ。
カヤが一瞬、物言いたげな顔をしたけれど、はーいと応じた。
今日は授業もなく、昼には屋上も閉鎖されるため、そのまま帰ることにした。
ヒロに合わせて駅まで行き、それから三人で帰る。一年の間は夏伊と二人で歩いていた道。
なんだか不思議だなと呟いたら、カヤに、夏伊とむっちゃんは仲良しなんだねと微笑まれた。
「まあ、ねえ」
睦月の歯切れの悪い返事に、夏伊がムッとする。
「まあねえって、何だよ」
「え、別に…」
「むっちゃん、夏伊っていつもこんなに機嫌が悪いの?」
「うーん、どうだろう。何が悪いものでも食べたのかな」
カヤがぱっと手を挙げる。
「わたしそれ知ってるよ! カンノムシでしょ」
「疳の虫は赤ちゃんが大泣きするやつだろ」
「そうなんだ。でも当たらずとも遠からず、って感じだね」
夏伊を見て笑う。
「お前は本当に失礼な奴だな」
離れている間にちょっとはいい性格になったかと思ったら、とぶつぶつ言う。
「そう言えば、カヤは何で海外に行ったの?」
日本に家がある上で小さい頃に留学するなんて、珍しい気がする。音楽か何かで? と聞く。
「父親の単身赴任に、ついて行ったんだよ」
「そうなんだ。夏伊と離れるの寂しかったんじゃない?」
「ふふ、そうだね」
そして夏伊の方を向く。
「もうしばらく、海外にいた方が良かったかな」
「…別に」
ぶっきらぼうに、夏伊が言った。
しばらくして、マンションの前で二人と別れた。
二人並んで帰っているのを見ていたら、何だかほっとした。
カヤがいるなら良かった。夏伊はこれからは、ご飯を一人で食べなくていいんだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
天才テイマーが変態である諸事情記
蛇ノ眼
BL
天才テイマーとして名をはせる『ウィン』。
彼の実力は本物だが……少し特殊な性癖を持っていて……
それは『魔物の雄しか性的対象として見る事が出来ない』事。
そんな彼の夢は……
『可愛い魔物ちゃん(雄のみ)のハーレムを作って幸せに過ごす!』事。
夢を実現させるためにウィンの壮大な物語?が動き出すのだった。
これはウィンを取り巻く、テイマー達とその使い魔達の物語。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる