春の洗礼を受けて僕は

さつま

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親愛なるあなたへ

1話 夏の家

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 最初はただ真面目に勉強を教える人だった。
 小学生の頃は、理科と算数が好きだったと言う。
 そのうちに雑談もするようになって、そして歳の離れた姉のように慕った。
 四年生の夏。
 先生は突然来なくなった。次の予定日も、その後も、ずっと来なかった。
 そして家の誰かが、あの行為に気づいたのだと理解した。
 なぜ何も言ってくれなかったの。
 なぜ何も言ってくれないの。

 それをわたしが見ている。
 あの子が泣いているの。誰か助けて。
 なのにみんな何も見ていないよねって言うの。
 あの子はずっと泣いているのに。


 香月こうづき夏伊かいは、あの日の翌週の月曜は病欠を取り、火曜から学校に通い出した。
 相手が相手だったのもあって、クラスメイトともあまりギクシャクすることなく、一年の残りの日々を過ごした。
 夏伊は文系に進むので、理系に進む木之内きのうち睦月むつきと同じクラスになることはもうない。
 あの日の言葉は願った以上に効いたようで、夏伊はすっかり、俗に言う友達という括りの付き合い方をするようになった。
 そしてこれからは、別のクラスの友達として過ごしていくことになる。


 二年生の春。
「オレたち同じクラスだったよ!」
 山東さんとう弘揮ひろきからのメッセージを見て、睦月は少しほっとした。
 バスが高校前に着いたので、他の生徒と一緒に降りる。
 ヒロからC組と聞いていたので、クラスの提示からそこをなぞっていく。
 自分の名前を見つけてから、すぐ下に、あるはずのない名字が目に入った。
「ん? …あれ…? これ誤植…?」


「夏伊さ、黙ってるのはどうかと思うんだけど」
 ヒロは夏伊に説教をすべく、わざわざ文系の棟に足を運んでいた。
 夏伊はふんぞり返って尊大な態度を取っている。
「でも知ってたろ」
「知ってたけどさあ、言ってくれてもよくない? いつ言うかと思ってたら、今日になってもダンマリな訳?」
「いいだろ、あいつの動向なんてわざわざ言わなくても」
「冷たっ。性格優しくなったなと思ってたのに、ぶり返して前より冷たくなったね」
「三寒四温かな」
「もーいーです、じゃあまた後でね」
 もういいと言いつつも約束をするのが、ヒロのヒロたるところだ。


 新しいクラスで、最初の点呼が取られる。
 睦月はずっと、教卓の近くに座る、自分の次の人を注視していた。自分の名を呼ばれて、返事をする。
「ハイ次。香月こうづき夏弥かや
 女生徒が、よく通る声で返事をした。
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