春の洗礼を受けて僕は

さつま

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夏の魔物

21話 大寒波3 ★

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 夏伊も立ち上がって、睦月の首に顔を近づける。深呼吸をした。
「…これは…」
 脳を征服する、官能的で複雑な香り。今までは鼻の具合が悪く、まともに嗅いだことはなかった。これほどの圧倒的な力を持つとは知らなかった。
 これなら、クラスメイトの記憶が飛ぶのも仕方ない。
 大きな花束に顔を埋めたら、こんな風だろうか。とてつもなく獰猛で、限りなく柔らかなエッセンスが、夏伊の鼻腔と体を満たしていく。
 後頭部を手で掴んで、深い呼吸を何度もしていたら、睦月が震えながら腕に触れてきた。
「くすぐっ…たい…」
 背けていた顔を覗き込むと、紫の目が今にも泣き出しそうに潤んでいる。
 睦月の下部に、自分の下部をぐっとあてる。
「やっ…」
 睦月が跳ねて、切なげに頭を振った。
「嫌?」
「…っ」
「嫌じゃないだろ」
 そこを太ももで執拗に圧迫する。
「あ、あ、あっ…やだ…」
「嫌じゃないって言え」
 目の前がゆったりと揺れて、温かな水の中にいるように心地いい。
 頭を押さえていた手を下に沿わせると、睦月が一層大きくビクついた。
 パジャマの中に滑り込んで、しっかりと立ち上がったそれを、するすると撫でる。
 睦月の腰が抜けそうになるのを、もう片方の手でホールドして、立たせたままにする。
「うっ、うん、ふう…! うっ、うう…」
 睦月の辿々しい喘ぎ声が、逆に艶かしい。
「かっ、夏伊、待って」
「待たない」
「離せ…!」
「離さない」
 少し力を入れて握ったら、小さく叫んで、熱く滾るものが放たれた。
「…ふっ」
 あ、これは泣くなと思ったら、やっぱり鼻水をすする音が聞こえる。
 必死で顔を背けるのを無理に正面に向かせて、涙顔を見つめた。
「やだ、やだ! 見るなよ…」
 手で隠すのを無理矢理掴んで、しばらく見つめる。
「夏伊のバカ、離せって言ったのに。恥ずかしい…ひどい…」
 睦月は普段、何かあった時に泣くようなことはない。そもそも何事も苦労することなくこなす方だし、あの一件ですら怒りを表に出す位には、顔に見合わず勝気な性格である。
 こんなへにゃへにゃの泣き顔を何度も見たのは、麗さんと、あとは自分くらいだろう。そうであって欲しい。
 もっとぐったりさせてやりたい。無防備な姿を晒して、自分だけのものにしたいと、征服欲がむくむくと湧き上がる。
「ふ…ふ…」
 睦月が必死に息を整えている。
 その体を脇に抱き抱えるようにして、睦月の部屋に連れて行った。
「ちょっ、ちょっと!」
 睦月の足がもつれて、ベッドに尻餅をついた。
「夏伊待って、待って」
 待たずに睦月のズボンを下ろす。
 続けて下着も抜かれたそこが、キッチンから漏れる光にあてられる。
「エッチだな」
 慌てて膝を合わせようとするのを両手で制して、大きく開かせた。
「あ、待って待って、待っ…」
 足の付け根を、吸う。
「願わくば」
 もう一度、次は優しく口付ける。
「俺と付き合って欲しい」


 夏伊の顔が首に来て、軽くキスをされる。そしてまた、深呼吸。
「か、夏伊」
 呼んだら、体を動かして目を合わせてくる。
 夏伊の顔は紅潮して、目もかなりゆるりとしていた。多分、かなり匂いが回っている。このままでは、途中で倒れてしまいそうだ。
「……欲しい。入れて欲しい」
 でも夏伊は聞いてはくれなかった。
「しっかり慣らしてからな。…あっ」
「…どうしたの」
「いや…最近は持ち歩いてなかったから」
 ジェルとゴムが手元にない、と頭を掻く。
「ゴムなら、あ、あるけど」
 途端に、何であるんだという目を向けられる。
「あの…前に…買ってきてってお願いしたやつ…」
 慌てて答える。その時は夏伊の手持ちを使ったので、結局、未開封のままだ。
「ああ、あれか」
「あれです…」
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