春の洗礼を受けて僕は

さつま

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夏の魔物

14話 水曜日2

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 始業式の日。
 食堂で、ハナさんが配膳した食事をひとり口にしていたら、仁志伯父さんから電話がかかってきた。
「おはようございます、仁志伯父さん」
「挨拶はいい。テレビを付けなさい」
 不穏な雰囲気に気圧されて、居間に移動して指定されたチャンネルを選ぶと、芸能界のゴシップが流れていた。
『人気カメラマン、既婚を隠してモデルと7股!』
「…付けました…が…」
 タイトルの下種な字面にげんなりするも、その7人の名前が提示されると、思わずえっと声を出してしまった。
「七海ナオ、誰の事かわかるな?」
 私の言いたい事もわかるな、と念押しされた。


「という訳でしばらく大人しくする事になった」
 酷い土気色の顔で登校した夏伊をヒロが心配するので、小声で告白したら、大爆笑である。
「そっそりゃ! 朝から! 大変だったな! はははははははは」
「お前は本当に」
「いやーだから遊び過ぎはダメって言ったのに! あー腹が痛い」
「お前…」
 周りのクラスメイトにも、詳細は伏せられたものの事情を暴露されて、笑い物にされる。
 ぐったりしながら席に着くと、ヒロが追いかけてきて「むっちゃん!」と睦月を呼んだ。
 睦月が本から目を離して「ヒロ、夏伊、おはよう。元気?」と笑う。
「おはよう! それより二学期初日から夏伊が飛ばしててさー」
 もう止めろ自分から話すから、と制して事の顛末を伝えると、あからさまに憐憫の情を浮かべられた。
「遊べないのもそうだけど、親戚に伝えられるのはダメージが大きいね」
 真面目な感想など求めていない。睦月の哀れみの声色とコメントが、まさに今、夏伊に大ダメージを与えている。
「ほんと、それあるね。そんでさ今後ずっとそれ言われるよね。酒の席でこいつは昔~ってさ、何年経っても掘り返されたりして。はー笑いすぎて泣ける」
「早く帰りたい」
「早く帰って何すんのさ、セフレとは会えないんだよ?」
「寝る」
「今日は始業式だけなんだからちゃんと参加しろよー」
 確かにねと睦月も同調する。
「でもさ、恋人とだったら会ったっていいんでしょ? いい機会だし、誰か一人に決めなよ。うくくく」
 そう言ってヒロが席に戻っていった。
 予鈴がガリガリと頭に響く。


 となると、さすがに今は相談できないということか。
 ついでに、この関係性がセフレであるのなら、おれも会えない対象ってことになるのか。いや、クラスメイトだしそれは無理か。
 ぐるぐると押し問答をする。
 視線を感じて廊下を見ると、ホールに移動する人の中に清風がいた。
 ニヤニヤとこちらを見ている。
「あいつ…」
 イラッとして立ち上がり、ずかずかと廊下に出る。
「なんか用?」
「ううん、睦月の横顔を見てただけー」
 嫌悪感がゾゾゾと駆け上がる。
「立花君」
「…睦月?」
 手をわきわきして見せられて、こめかみに嫌なものを感じる。
「………さ、清風」
「一緒にホールに行こ?」
 夏伊に近寄られるよりは、マシだ。
 渋々ながら、そうする事にした。
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