春の洗礼を受けて僕は

さつま

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夏の魔物

5話 火曜日 ★

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「木曜に手術を受けるんだっけ」
 ヒロが聞くので、そうみたいと答えた。
 夏伊は明日から入院するという。一度は見舞いに行く話も出たけれど、結局、数日で退院する予定だからと辞退された。ヒロと二人で、きっと鼻に何か入ってるところを見られたくないんだろうなという答えに着地した。
 別に気にするなよと思うけど、夏伊は顔面の造形度合いと同じくプライドも高いようなので仕方ない。
 夏休みの図書館は涼しくて、来館者も少なくて、読書が捗る。図書館当番で登校した睦月は、カウンターに本を数冊積み上げて、読書に没頭していた。
 ヒロは部活の練習で登校している。
「誕生日に手術とは、夏伊も災難だねー」
 水を一口飲んで、ヒロがつぶやいた。
「そっか、それは大変だ」
 応じると、ヒロがあれ? と首をかしげてから、まいっか、じゃあ戻るよと言って去っていった。
 しばらくしてから時計を見て、外扉を開いて案内プレートを『閉館』に変える。
 むわっと蒸す外気を締め出して、中側から鍵を閉めようとしたら、ノックをされた。
「はい」
 夏伊がいた。
「よう」
「どうしたの?」
「本を選びに来た」
「夏休み中は午後は閉館です」
 プレートを指さす。
「時間を守っていただかないと」
「午後の優雅な読書時間を邪魔されたくなかっただけだろ」
 図星である。このあと夕方まで一人で読書と勉強をする予定で、先生の許可を貰っていた。
「入院の前に何冊か借りときたかったんだよ」
 そう言われると、断れない。
 渋々ながら、どうぞと受け入れた。


 高等部の図書館は、名前の通り一棟の館だ。
 扉を開けると、まずエントランスがあり、それから蔵書室に入る造りになっている。扉の上はステンドグラスがあしらわれていて、夏の日差しを受けて色鮮やかに輝いている。
 睦月はエントランスから二階に上がる大階段が気に入っている。幾人もの人に踏みしめられた石階段は、踏面が少しすり減って窪んでいる。最初はそれが登りにくくて怖かったけど、今は歴史を感じさせていいなと思っている。二階まで上がって見るステンドグラスは、なお美しい。
 二階の書架から本を引き抜いて、一階に戻る。
 夏伊がタイトルを見て、ふうんと呟いた。
「まじないの本でも読むのかと思った」
「何冊か読んだよ。ハーブとか体に入れるものは食べたりするけど、お祓いの方法とかはノットフォーミーだった」
 別に取り憑かれてるわけじゃないし、というと、取り憑かれてるような反応だったけどと返される。
 途端に、睦月の顔が紅潮する。
「やめてくんない、そういうの」
「そういう反応するからやめられないし、そんな感じだから手が出せない」
 なにを、と言おうとしたら、口が近づいてきた。
 思わず、持っていた本でぐいっと押しのける。
「何だよ…」
 痛いな、と言うのを無視して怒る。
「それはこっちのセリフだけど。夏伊のことそんなに知らないけど、なんか最近変だし。ヒロも言ってたよ。手術前でセンシティブな訳?」



 ああもう、と一階の蔵書室に行ったのを追いかけて、後ろから睦月の持っていた本を取り上げてカウンターに置く。
「ちょっと」
 いい加減に、と言う口を塞ぐ。
「ん!」
 下唇を一度吸って、大きく食らいつく。歯列を確かめて、舌で舌を追いかける。
 睦月の舌が逃げようとすればする程、濃密なキスに変わっていく。
 カウンター裏の壁に押しやる。
 胸に手をあてて慎重に探ると、ほんの少し手がかりを感じた。
 すりすりと撫でると、最初は不快そうな顔をしていたが、そのうち少しずつ、甘い息を上げるようになった。
 睦月の首筋に鼻を当てる。
 この香りで、クラスメイトの記憶はぶっ飛んだ。
「手術が終わったら、この香りをもっと感じるようになるのかな」
 そうしたら皆と同じように、嗅いだだけで記憶が全部飛ぶのかなと言ったら、睦月がムッとした。
「忘れても思い出させる」
「思い出させるって、具体的にどうするつもりだよ」
 発言を誦じる? キスマークでも付ける? ハメ撮りでもするのか?
 畳みかけたら、真っ赤な顔で漫画みたいに口籠るから笑った。
「でも、そうなったら、寂しいな」
 レースのカーテンの向こうから注ぎ込む日差しが、睦月の左半身を照らす。
「…退いて。トイレ行ってくるから」
「トイレで抜くならここで抜け」
 ぐっと抱きしめる。
「ちょ、ちょちょちょちょ」
「またバグってんな」
 笑いながら、何度も足で股間を擦り上げてやる。
「う、う、ここ、図書館…ッ」
「知ってる」
 ズボンの中で窮屈に突っ張っているものを、上に押し上げて楽にしてやると、小さな口からハアと熱い息が漏れた。
 片手を下にやって、ベルトとジッパーから解放する。
 下着をずらして、外気に晒してやった。
「…夏伊」
 睦月がもそもそと動いて、夏伊のズボンに手を伸ばす。同じように夏伊のものを解放して、おずおずと触った。
「あ、やば」
 つい心の声が出る。
「えっ」
 パッと手を離すのを捕まえて誘導した。
「続けて」
 ぎこちなく触られるのが、倒錯的でいい。
 その触られるものを、睦月のものと一緒に握ったら、睦月が大きく跳ねて寄りかかる。
「気持ちいいな」
 夏伊の息が耳に当たるのか、睦月が、くすぐったそうに目をつぶった。
 静謐な空間。乾いた布ずれの音に、小さな水音が混じる。
「は、あ、もう」
「俺も」
 夏伊が先端を覆って、同時に果てた。
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