春の洗礼を受けて僕は

さつま

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夏の魔物

4話 金曜日4

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 ああ寝たと思ったけど、まだ深夜の12時。変にスッキリ目覚めてしまった。
 喉が渇いたので、自分の部屋から出る。ソファの方向から、スマホの明かりが漏れていた。
「…夏伊? 起きてる?」
「起きてる」
 なにか飲むか聞いたら欲しいというので、麦茶を二杯注ぐ。
「はい」
「ありがとう」
 キッチンに二人並んで飲む。
 深夜だろうがお構いなしに、勤勉なセミがミンミンと鳴いている。
 前に夏伊が泊まった日のことを思い出した。睦月が香りを発して、初めてした日。あれもこのくらいの時間だったような気がする。
 それももう遠い昔のようだ。


「…お見舞いに行ってもいい?」
 横を見ると、睦月は俯いていた。
「ヒロと一緒に」
 嬉しいような、でも困るような。
「別にいいけど、笑うなよ」
「え」
「鼻に何か入ってるかもしれないけど」
 管とか、詰め物とか。だとしても笑うなよ、と念押しする。
「んっふ、わかった」
「想像して笑ったろ」
「笑ってないよ」
「聞こえたぞ」
 二人で肩をつついたりしているうちに、ぱちんと目が合った。
「…夏伊」
 睦月が小さな声で言う。
「前に、同級生と、セフレ…になるのは…倫理に反するって言ってたね」
「…ああ」
「あれって、クラスメイトだったら、気まずいとか、そういう?」
「まあ、そうだな」
「それは、わかる」
 わかるのかよ、と心中でツッコミを入れた。
 車のライトが、マンションの前を照らして去っていく。
「じゃあ、クラスが別になったら、おれと夏伊はセフレになるの?」
「え?」
 発言の意図を考える。
「夏伊は文系クラスを選択するでしょ? おれは理系に進もうと思ってるから。文系と理系は棟が違うし」
「…呼び名は置いておいて、香りが出た時はいつでもする」
 つい、意地悪く答えてしまった。
「…それは、ありがとう」
「香りがない時でもできるのか?」
「それって?」
「香りが出てなくてもお前としていいのかという質問と、香りが出てない状態で始められるのかという疑問」
「……」
 睦月は、訳がわからないと言いたげな表情をしてから、手にしているコップに視線を落とした。
「前者はいいとして、これまでは香りを発してる状態だったろ。でも香りが出てない時って、昂ってない状態で始めるってことだろ」
 その状態から恥ずかしがらずに色々できるのか? 俺は協力的なタイプが好みだけど?
 思わず睦月が顔を上げる。
「な…」
「さっき笑ったお返しだ」
 唇を撫でると、もう、少し触れられるだけでも震えてしまう。
 ちゅ、と小さい音を立てるだけで、離れた。
「今日はここまで」
 麗さんもヒロもいるしと言うと、睦月もそうだねと返した。
 確かに、なんか変になったら匂いが出るしね。ヒロがいるし。と頷く。
 おやすみと言って、睦月が部屋に戻った。
 睦月の素朴な疑問。この関係性の呼び名がわからないだけなのか、真意は定まっているのか。
 呼び名を付けるには、己の欲と対峙して、二人の意思を疎通させる必要がある。それを睦月から引きずり出したとして、自分はどう受け止めるのか。
 それは、夏伊がこれまでずっと避けてきたはずの熱感だった。
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