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春の洗礼を受けて僕は
11話 金曜日3
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拍子抜けするくらいに何も起きず、放課後。
香月に、今日は塾や用事はあるのか、と聞かれる。
そういえば、図書委員になって初めてのミーティングが入っていたのだった。
「一緒に図書館に行く」
そう言われたら、どうぞと言う他ない。
睦月がかけるテーブルの方にも、女子の弾む声が聞こえてくる。みんな香月に声をかけて、一言二言だけやりとりしては、当番の図書委員に追い払われる。
香月はずっと決まった書架をくるくる回って、何冊かをテーブルに運んで読んでいた。
「木之内君」
「あ、はい」
3年の図書委員長に呼ばれて、慌てて返事を返す。
「図書委員の当番、木之内君は金曜日でいいかな」
金曜日は塾や部活の兼ね合いで、当番に入れない人が多いという。
上の学年の委員と一緒に入ってもらうから、しばらくは一人にしないからねと。
睦月も塾は使っているが、サテライトで受講しているため特に差支えはない。もちろんです、早く作業を覚えたいです、などと殊勝な言葉を返す。
今日は簡単な説明と当番日を決めて解散となり、香月の席に向かった。
「忙しそうだったね」
女の子の対応、とちょっと嫌味っぽく言うと、否定はしないと返された。
「それより、この本を借りて帰る」
「結構借りるね。7冊?」
一度に5冊までしか借りられなかったような…と言うと、俺は借りられると返された。
よく借りに来ていたから、少しくらい多く借りても見逃してもらえるのだそうだ。
中等部は少し離れた場所にあるが、わざわざ高等部の図書館まで借りに来ていたという事か。
なんとなく一緒に外に出て、車止めまで来ると、運転手さんが睦月にも「どうぞ」と声をかけてきた。
「あ、いやおれは」
「帰り道だし、気にするな」
香月に言われ、じゃあ…と体を滑り込ませる。
さっきまで、自分に何か用でもあるのかと思っていたけれど、何事もなく帰宅できるよう、ただ送ろうとしてくれているのだと気づく。
一日中何も起きなかったし、あんなことは昨日一日だけのことだろうとすら思いかけていたので、その配慮に申し訳ない気持ちになった。
でも過保護にされるあたり、昨日のことはやはり本当だったのだろうけれど…。
マンションの下で降ろしてもらい、部屋に戻る。
塾の配信時間までの間、読書でもするか…とリビングの造作棚に向き合った。
昨日の夕飯の際、仮置きした本が目に入る。
香月が読んでいた本だ。
ぱらりと開くと、封筒が落ちた。
「麗へ…?」
少し悩みつつも、中の手紙を開いてみる。
麗へ
あなたももう大人になろうという歳ですので、話をしたいと思います。
あなたが今後もし、性的に奔放になったり、そんな自分に嫌悪感を抱くときが来たとしても、
自分を責めないでほしい。
それはあなたのせいではなく、代々受け継いだ体質によるものです。
急には受け入れられないかもしれないけれど、
私たちは、俗に言う悪魔の血を引いています。
母さんの家系は、性的な力を持つ悪魔と人間のあいのこの血筋なのです。
このような血を受け継がせてしまって、ごめんね。
もし欲求が強くなった時は、そういったことのためのお金を渡すことを約束します。
ただ、そういう気分を処理する時は、どうか避妊だけはしっかりとしてください。
何か困りごとがあった時は、
女性同士、話せることもあると思う。
何かあったら、いつでも話してください。
母より
足がぐらついて、床にへたりこんだ。
冗談みたいな文章だったらまだ笑えたのに。心底真面目な手紙だったので笑えない。
古い封筒。母とあるのは祖母だろう。
この達筆には見覚えがあるし、そういえばこういった類の本は、中学卒業後に、本棚を整理していた時に見た覚えがある。
冷え切った手をどうにか動かして、本を取る。
開くと、章のタイトルが目に飛び込んできた。
“インキュバス・サキュバスの概要とその正体”
香月に、今日は塾や用事はあるのか、と聞かれる。
そういえば、図書委員になって初めてのミーティングが入っていたのだった。
「一緒に図書館に行く」
そう言われたら、どうぞと言う他ない。
睦月がかけるテーブルの方にも、女子の弾む声が聞こえてくる。みんな香月に声をかけて、一言二言だけやりとりしては、当番の図書委員に追い払われる。
香月はずっと決まった書架をくるくる回って、何冊かをテーブルに運んで読んでいた。
「木之内君」
「あ、はい」
3年の図書委員長に呼ばれて、慌てて返事を返す。
「図書委員の当番、木之内君は金曜日でいいかな」
金曜日は塾や部活の兼ね合いで、当番に入れない人が多いという。
上の学年の委員と一緒に入ってもらうから、しばらくは一人にしないからねと。
睦月も塾は使っているが、サテライトで受講しているため特に差支えはない。もちろんです、早く作業を覚えたいです、などと殊勝な言葉を返す。
今日は簡単な説明と当番日を決めて解散となり、香月の席に向かった。
「忙しそうだったね」
女の子の対応、とちょっと嫌味っぽく言うと、否定はしないと返された。
「それより、この本を借りて帰る」
「結構借りるね。7冊?」
一度に5冊までしか借りられなかったような…と言うと、俺は借りられると返された。
よく借りに来ていたから、少しくらい多く借りても見逃してもらえるのだそうだ。
中等部は少し離れた場所にあるが、わざわざ高等部の図書館まで借りに来ていたという事か。
なんとなく一緒に外に出て、車止めまで来ると、運転手さんが睦月にも「どうぞ」と声をかけてきた。
「あ、いやおれは」
「帰り道だし、気にするな」
香月に言われ、じゃあ…と体を滑り込ませる。
さっきまで、自分に何か用でもあるのかと思っていたけれど、何事もなく帰宅できるよう、ただ送ろうとしてくれているのだと気づく。
一日中何も起きなかったし、あんなことは昨日一日だけのことだろうとすら思いかけていたので、その配慮に申し訳ない気持ちになった。
でも過保護にされるあたり、昨日のことはやはり本当だったのだろうけれど…。
マンションの下で降ろしてもらい、部屋に戻る。
塾の配信時間までの間、読書でもするか…とリビングの造作棚に向き合った。
昨日の夕飯の際、仮置きした本が目に入る。
香月が読んでいた本だ。
ぱらりと開くと、封筒が落ちた。
「麗へ…?」
少し悩みつつも、中の手紙を開いてみる。
麗へ
あなたももう大人になろうという歳ですので、話をしたいと思います。
あなたが今後もし、性的に奔放になったり、そんな自分に嫌悪感を抱くときが来たとしても、
自分を責めないでほしい。
それはあなたのせいではなく、代々受け継いだ体質によるものです。
急には受け入れられないかもしれないけれど、
私たちは、俗に言う悪魔の血を引いています。
母さんの家系は、性的な力を持つ悪魔と人間のあいのこの血筋なのです。
このような血を受け継がせてしまって、ごめんね。
もし欲求が強くなった時は、そういったことのためのお金を渡すことを約束します。
ただ、そういう気分を処理する時は、どうか避妊だけはしっかりとしてください。
何か困りごとがあった時は、
女性同士、話せることもあると思う。
何かあったら、いつでも話してください。
母より
足がぐらついて、床にへたりこんだ。
冗談みたいな文章だったらまだ笑えたのに。心底真面目な手紙だったので笑えない。
古い封筒。母とあるのは祖母だろう。
この達筆には見覚えがあるし、そういえばこういった類の本は、中学卒業後に、本棚を整理していた時に見た覚えがある。
冷え切った手をどうにか動かして、本を取る。
開くと、章のタイトルが目に飛び込んできた。
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