春の洗礼を受けて僕は

さつま

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春の洗礼を受けて僕は

10話 金曜日2

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 朝から漫画の話をしていたら、木之内が身支度する時間がなくなってしまった。
 髪の毛をモワモワさせたまま、夏伊の家の車に乗せる。
 しょぼくれた顔をして頭を押さえつけているのが不憫で、車中で髪をセットしてやる。
「そういえば…昨日、なんの本読んでたの?」
 されるがままに頭を預けていた木之内が、ふと話しかけてくる。
「本?」
「うちの本棚にあった本読んでなかった?」
 ああ、あれか。
 帰宅してからも少し調べていたことで、木之内に聞きたいと思っていた。
「よくわかんないけど、母さんが、あれは本当のことだとか言ってたからさー」
 指が止まる。
 非現実的な、しかしと思っていたことではあったが。
 当の本人は、おれはまだ読んでないけど読んだ方がいいのかな? などとのんきなことを言っている。
「…急に悪いけど、母親の名前を聞いてもいいか?」
「え? 木之内れいだけど?」
「…とりあえず、学校に行こう」
 送迎用の車寄せに着いたので、話を止めて車を降りた。


 今日はとにかく離れるなというので、香月の横を歩いているわけだけど、どこを歩いていても、大体の人間が香月を見て挨拶なりしてくるのがすごい。
 いち同級生でしかない睦月は、一人で歩いていてもそんなことは起きないのに。なんなら昨日のことがあったからビクビクしていたが、周りの人間はそんなこと起きてすらいなかったような態度で、一昨日と変わらない雰囲気だ。
 それでもクラスの前に来ると、足がすくんでしまう。
「……」
 逡巡していると、香月が背中をバン! と叩いてきた。
 思わず頭を上げると、クラスの面々に向けて、驚くような大声でオハヨーと叫ぶ。
 クラスメイトはしばらくは驚いた顔をしていたものの、いつになく気さくそうな表情の香月に笑って挨拶を返す。
 そのまま肩を組んで、教室に連れていかれてしまった。睦月の肩を押して席に座らせ、香月は後ろに着席する。
「夏伊、むっちゃん、オハヨ!」
 二人揃って登校なんて珍しいねー、とヒロ。
「「むっちゃん」」
 さすがにハモるってものである。
「ええ…? だって睦月ならむっちゃんじゃん」
 ヒロの笑顔があまりに純朴なものだから、まあいいか…と思う。急にむっちゃんはないだろと思ったが、相手が気さくに接してくれるなら、こちらも山東君と呼ばなくてもいい。
「ヒロは朝から元気だね」
「まーね!」
 ヒロの顔は太陽のように輝いていた。
「昨日もよく寝た様子だからな」
「あー、寝落ち非難すんのいけないんだ、寝る子はよく育つんだぜ」
「それ以上育つ必要あるか?」
 香月の身長は175㎝くらいはあるが、ヒロはすでに180㎝に到達しているだろう。先日まで中学生だったとは思えない長身コンビだ。
「むっちゃんもね、夜に夏伊から連絡来ても適当なとこで寝たらいいからね。この人宵っ張りだから」
「うん、わかった」
「お前らね…」
 なんて話しているうちに、チャイムが鳴った。
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